第19話 國岡への提案の巻
この日の私は、何時もより気分が良かった。荒畑さんの試合をかなちゃんや三原君と見ることが出来るからだ。いつも以上に心が躍ったため、体が相当動かせるだろうと感じていた。
そんな日に、私は國岡に出会ってしまった。正直言えば、失念していた。ランニングは小さい頃の日課だったからだ。最近の状況を考えれば、國岡が必ずやって来るのは察せられたはずだ。
浮かれすぎた。それが現在の状況を生み出してしまった結論だ。
「おはよう、國岡さん。今日も一緒に走るの?」
「うん! だって一緒に走るの楽しいからね!」
國岡は赤色のつり目を閉じ、笑みを作る。その表情はまるで、サッカーを愛しているように感じられる。それがサッカーストーカー、いや
「けど、何か目的があるんじゃないの?」
「うん、可能であれば一緒にサッカー練習がしたい!」
「……やっぱりそうか」
私は白色と黒色で構成されているストライプ柄のジャージを身に着けている國岡の姿を眺めつつ、自分の顎に手を当てて考えていた。國岡と練習を出来るのは少しいい機会なのは確かだ。しかし、國岡と練習をしたことでかなちゃんとの約束に遅刻するのはとても不味いと言える。
私自身サッカーやフットサルにのめりこむと時間を忘れてしまうタイプだ。何より私が企画したのに本人が遅刻をしてしまっては目も当てられないだろう。
「……ちょっと聞きたいんだけどさ。練習は何時ぐらいまでやる予定?」
「十二時ぐらいまでやりたいけれど、それがどうしたの?」
「う――ん、そっか……」
私は相槌を打ちつつ、心の中で解決策を練っていた。國岡が提案した時間だと今回の約束に間に合わない可能性があった。かといって、彼女の思いを裏切ることは出来ない。もし彼女との練習を断れば二度と誘われないかもしれない。
それはそれで辛い。そう思った。
だからこそ、私はとある提案をしたのである。
「ねぇ、國岡。もしよかったらなんだけどさ――」
質問の後、少しばかり静寂が訪れる。
速くなる鼓動を聞きつつ、國岡の返答を待った。
「うん、良いよ!」
「えっ、良いの?」
「うん、だって特にやること無かったしね」
「ありがとう! それじゃ、今日はよろしくね!」
その提案をすると、國岡は快く承諾してくれた。どうやら、暇だったらしい。突拍子の無い提案だったが快く受け入れてくれたことが嬉しかった私は笑みをこぼしながらお礼を伝えた。
「あっ、接那、初めて笑顔私に見せてくれたねぇ~~可愛いじゃん!」
「……お金取るよ?」
「えぇっ!?」
「冗談だよ、冗談。じゃ、走ろうか」
國岡が突如槍の様な誉め言葉を突き出してきたが、それをひらりと躱しつつ、國岡と私は走ったのだった。そうして三十分程度経った後、私は國岡と別れ家の中に入っていった。
距離的には約二キロ。何時もよりも少々短めにランニングをしたためか、まだ余力があるなと思いつつ私はシャワーを浴びることにした。
温かな電球の光が化粧室を照らす中、部屋の鍵が閉まっている事を確認し終えた私は着替え用の服と体を拭く用のタオルをタンスから出す。一通り準備を終えた後、しっかりとタンスを閉めた上で服を洗濯籠の中にしまい風呂場へ入った。
私が風呂場に入った直後、湯船のお湯が溜まっていることに気が付いた。どうやらお母さんが用意してくれたようだ。きっと気を利かせてくれたのだろう。お母さんに心の中で感謝しつつ、私は風呂での作業を始めていく。
風呂場で最初にやることは、体をお湯に慣らすことだ。
体全体にシャワーのお湯を浴びせ、程々に温める。
こうすることで、体の疲れが少し取れると私は思っている。
「あったかぁ――い。ちょうどいい温度だ」
この日のシャワー温度は適正だった。
温かいお湯に顔の表情を緩ませつつ、私は全身を濡らしていく。
「よし、こんな感じでいいや。先ずは頭を洗おう」
程々に温まった私は、風呂場のシャンプーを両手に出す。両手を擦り泡立ってきたことを確認してから、頭皮や髪の根元を重点的に洗っていく。
2分ほど経った後、髪の毛についている泡を洗い流す。風呂に入る時間は体や髪を洗う時間よりも風呂に入る時間の方が長い以上、徹底的に無駄を削ぐ意識を私は持っていた。
髪の毛が程よく泡立った後、私はボディソープの入ったボトルをプッシュし両手で泡を作り出す。わしわしわしわしと両手でこねくり回すとそこそこの泡が出来るので、体全体に行き届くようにちゃんと身体を洗っていく。
「こんなもんでいいかな」
泡まみれになった私はシャワーのお湯を出した。適切な温度を持ったお湯が体中を温めていく。心地良い温度が私の身体を丁度良く火照らせた。
「よし、泡一つ無し!」
私は自分に泡が付いていないことを目の前の鏡で確認した後、湯船に足をつける。ほんのりと温かく、心地よい感覚が体に広がる。体をゆっくりと浸けていくと、心身ともにリラックスしていくような感覚に包まれた。
「はぁ――あったか――い」
私はモチモチのほっぺたが湯船につかりそうになる様な笑みを浮かべた。
プカプカと浮かぶ脚裏や太ももを軽く揉み、ランニングで酷使した筋肉を労わっていく。
「はぁぁ――やっぱりこの瞬間が一番気持ちいいなぁ」
筋肉を刺激すると、声が軽く口から漏れ出す。筋肉が喜んでいるのだ。部位はあんまり分からないが、心地良い疲労感を感じた私は、腕を伸ばしながら天井を眺めていた。
「そろそろ出ようかなぁ」
体が温まってきた私はそう呟いてから、風呂から出ることにした。
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