第35話 いざ、緑岡高校への巻
私たちは熱を帯びたアスファルトを横並びで歩いていた。人通りが少ないため、歩きやすいが猛暑が容赦なく体力を奪っていくのは辛いものだ。
「みんな、大丈夫……?」
ほのみさんが笑みを浮かべながら質問してきた。
「うん、何とか大丈夫だよ。かなちゃんは平気?」
「平気だよ……けど、熱いねぇ……」
私が額の汗を拭っている中、日傘を差したかなちゃんは平気そうな顔で相槌を打つ。傘を持ってくるべきだったと少々後悔した。
「さりなは大丈夫そう?」
「……うん、平気」
「どうしたのさ。なんか元気無いけど何かあったの?」
「……別に。特に何も無いよ」
二人のやり取りを見たかなちゃんが不思議そうな表情を浮かべながら「何かあったのかな?」と私に振ってくる。私は事情を一つも知らないため分からないと返した。
二十分ほど経過しただろうか。私は額だけでなく腕や足からも汗が出始めていた。猛暑の中を半袖短パンで歩いても多量に流れてくることから、運動して大丈夫なのかという心配が湧いてきた。
「すみません、今日ってどこで試合を行うんですか?」
かなちゃんが首をかしげながら質問すると、ほのみさんが答えた。
「今日は蕨駅で京浜東北線に乗って赤羽駅に向かいますね。そこで皆と合流して試合会場の緑岡高校へ向かう予定です」
「ありがとうございます。ちなみに、私は入れますかね?」
「試合の参加?」
「いえ、マネージャーとして」
「マネージャーの仕事やってくれるの!?ありがとう、助かるよ!!」
私はかなちゃんが試合観戦に来たものだと想像していたため、驚いた。
「凄いね、かなちゃん。やる気だね」
「うん。それに、友達を支えたいしね」
「フフッ、嬉しいな。私も試合、頑張るよ!!」
私とかなちゃんが会話をしていると、蕨駅が見えてきた。
私たちはそれぞれ改札を抜けてからホームに向かう。アナウンスと共に到着した電車に乗ると、四人以上座れる席があった。私はかなちゃんとほのみさんの隣に座り、背もたれに自重をかける。
「ふ――疲れたねぇ」
「ホントホント。疲れたよねぇ。けど、これからが本番だよ」
「そうだった。カブトガニの尾を締めなきゃね」
「それを言うなら、勝って兜の緒を締めよでしょ。授業で前に習った気がするけど、大丈夫?授業寝てたりしないよね?」
「う――ん、もしかしたら寝てるかもしれない。あ、大丈夫大丈夫。安心して、ちゃんと課題はこなしているからさ」
かなちゃんの怖い顔を見た私は焦りながら身振り手振りで潔白を証明した。そんな私たちを見ていたさりなさんが質問してくる。
「……仲良いですね、二人とも。小学校から一緒だったんですか?」
「いや、中学校からだよね?」
「うん、そうだね」
「……凄いですね。私には、そんな力はありませんから、羨ましいです」
「何言ってんのさ。さりなは小学校の頃から皆の人気者じゃん。友達だって私より多いしさ。もっと自信持ちなよ!!最も、大親友は私だけどね!!」
「……ふふっ、そうだね」
さりなさんは目を瞑りながら口角を上げた。正反対の二人だけど、それでも仲が良い。性格や容姿で決めるんじゃない関係性。それが友達なのかもなって変に深いことを考えていた。
そんな風に時間を潰していると、赤羽駅に到着した。忘れ物が無いか確認した上で電車を降りる。広いホームだなと思いつつ下の階段を降りた。駅内には四つの路線に繋がる階段があり、ショッピングモールがあった。お土産を買うには最適な場所だなと思いつつ、改札を抜けた。
右側を見ると、ほのみさん達と同じユニフォームを着た人達が十三人、眼鏡をかけた百九十センチはありそうな男性の周りに立っていた。
「おはようございます!愛染先生!」
「お早うございます、皆さん。無事に揃ったようですね。ところで、そちらの御二方は?」
「初めまして、本日助っ人参加する霧原接那です」
「マネージャーとして本日参加させていただく市城香苗です」
「市城さんに霧原さんですね。本日はよろしくお願いします。私の名前は
いつもどおり自己紹介でどもり顔を赤くしている私に言及することなく、愛染さんは姿勢正しく頭を下げて挨拶をしてくれた。声色も優しくて、紳士的な人だ。
「私は学校へ向かうので、三竹さんたちと行動してください」
「分かりました。本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!!」
愛染さんと別れた私達は、さりなさんとほのみさんを先頭に緑岡高校へ向かう事になった。
*
私立緑丘高校。東京都内にある新設校で中高一貫。生徒数は中高合わせて千名を超えるマンモス校だ。近年、大学設立も噂されており成長し続けると予測されている。
そんな緑岡高校の看板として、部活動がある。水泳部やテニス部と言った多数の部活動が上位入賞を果たしており学校も力を入れている。それはサッカー部も同じだ。
サッカー部が設立されて間もないが、ナイター付きの人工芝グラウンドで練習する環境が備わっている。夜間練習も行えるため実力をどんどん伸ばしている。将来的にはどの様になるかは不明だが、板橋区の台風の目になる可能性は十分にあるだろう。
「……って、ネットには書かれているね」
「そうなんだ」
「緊張する?」
「いや、わくわくしてきたよ。これから楽しみだね」
私は飛び跳ねたくなる気持ちを抑えつつ、これから戦う強敵たちに思いを馳せながら歩を進めたのだった。
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