第36話 対緑岡高校の巻 ①
私たちが緑岡高校に到着したのは駅を出てから三十分後だ。
最高気温三十二度になると聞いたので覚悟はしていた。
しかし、予想以上に暑い。聞いていない。
持参した水筒の水も半分を切った。
額からどくどくと汗が流れ、睫毛から瞳に侵入をはかってくる。
辛うじて目元を拭って汗を防げているが、痛みを感じるのは時間の問題だろう。
とにかく、身体を休めたい。私の脳内を願望が支配しかける。
そんな時だ。バーネスのメンバーが急に整列を始めた。
事情を聴いていなかった私が首を左右に振っていると、一番左に立っているさりなさんと目が合う。全く汗を搔いていない彼女と目が合った私はかなちゃんと一緒に一番右側に並んだ。
直後、ほのみさんが胸を張りながら大声を出す。
「本日、緑岡高校サッカー部と対戦させていただくクラブバーネス、副キャプテンの
「よろしくおねがいしますっ!!!」
流れ的に察した私は皆と同じように頭を下げ、対戦相手に挨拶を行った。顔を戻すと、緑岡高校の面々が見える。私は独断と偏見で相手の脅威度を測った。
そのうち、二人の選手に目が行く。
一人は目つきの悪い坊主頭の男だ。百五十センチ付近の私より十センチ高い。眉間に皴を寄せながら背中をのけぞらせている。ヤンキー学校にいそうな風貌だなと私は思った。
もう一人は、百七十センチはある肩幅の広いGKだ。ツンツン頭が特徴で社会人と勘違いしそうな顔だ。遠目からなので、童顔だったら許してほしい。
外見だけで選手分析をしていると、いつの間にかみんな列から去っていた。
「接那、みんな行っちゃったけど行かなくていいの?」
かなちゃんが髪を横に揺らしながら頭を傾ける。
「かなちゃん、いつもありがとね」
可愛いと心の中で呟きつつ、後頭部を右手で抑えながら頭を下げた。
他愛無いやり取りをしていると愛染さんの周りに選手が集まっているのが視界に映った。私は駆け足でグループの周りに入る。
「皆さん、暑い中お疲れさまでした。あちらの監督と話し合いウォーミングアップと休息を入れてから試合に臨む形になりました。さりなさんとほのみさんの指示に従い各自のアップを始めてください」
「「はいっ!!」」
緑岡高校が使っていない方のグラウンドに入り、ストレッチを行った。前屈や伸脚をゆっくりこなしつつ、身体を暑さに慣らしていく。
終えた後は、ボールを使ったアップだ。
パス練習や鳥かごを行い、ボールを足に慣らした。
顔を上げて周りを見ると、表情が見えてきた。大半が笑顔だ。
皆サッカーが好きなんだな、私はそう思いつつ頬を緩ませた。
私が楽しくボールを操っていると、愛染さんが「集合!」と声をかけた。私たちはボールを回収し、愛染さんの下へ集まっていく。
「本日のスタメンを発表します」
フォーメーションは4-1-3-2。
守備的フォーメーションだ。
攻守に及び高い運動量が求められる。
攻める際は中盤の増やすことがあるため、運動量が求められるだろう。私が分析しつつメンバーの名前を聞いていた時だ。
「FWは二枚。三竹さんと、霧原さん」
私の名前が呼ばれた。
「……は、はいっ!」
私は驚きながらも、人一倍声を張り上げる。
胸の鼓動が妙にうるさく聞こえてきた。
フィールドに入り、体を回す。疲れを全く感じない最高の状態だ。
私は柔軟を軽く行いながらピッチに立った。男子達の顔つきは良い。これからの試合がより一層楽しみだなと感じつつ、体を震わせた。
右のCFにポジションを構えた私が深呼吸していると、キックオフの笛が鳴った。
相手のフォーメーションは3-4-3と攻撃的なフォーメーションだ。サイド攻撃の層が厚く、攻める際は中盤の数的優位をどの程度作れるかが鍵となるだろう。
ビブスで25番を付けた私はCMにプレスをかけながらLMへのパスコースをカットする。横に逃げる手段を潰された相手は背中を向けてCBにパスを出した。開始直後の速攻を避けたかった私にとって、これは丁度良かった。
真ん中と左のCBにプレスをかけられる位置で陣取りながら相手の動向を確認する。相手CBにとって、一番避けたいことは自陣でのインターセプトである。
万が一インターセプトされたら失点する恐れがあるからだ。
故に、彼らは私の方へパスを出さなかった。
パスを受け取った右のCBが長いロングパスを出す。
パスコースの先にいたのは、RMに入っていた坊主頭の男だ。坊主頭の男はパスを胸でトラップすると、一歩目で自陣の左CMを抜き去った。
オフェンス枚数が六枚となり、数的不利となったが、カウンターが出来る様になった際の枚数確保が先決だと思った私は自陣に戻ることはしなかった。結果的に、その考えが的中する。CDMに入っていたほのみさんが相手からボールを奪い取ったのだ。
ほのみさんは少し内側にポジショニングしている私にグラウンダーの鋭いパスを出した。直後、私からボールを奪おうと焦った右CBがプレスを仕掛けに来る。
私は左手を使って相手CBが近寄れない距離にしてから、素早いターンで相手を抜く。スピードを出していた相手を完全に振り切った。
二対二の状況を作り出した私は真ん中に入っているCBに勝負をしかける。タッチ数を細かくしながら右、左と上半身を動かすと、痺れを切らした相手が足を出してくる。狙い通りのことが出来た私は微笑みながらダブルタッチで躱した。
相手の右CBがさりなさんをマークしていることから守備に遅れが出る。結果的に私はGKと一対一の状況で勝負出来た。ガタイの良いGKは前傾姿勢になっている。
正面から来たシュートはほとんど対応されるだろう。
そんなことを思いながら私は左に首を振る確認する。
相手のマンマークがついていることからパスは厳しいだろう。
再認識した私は思い切って右足を振りかぶった。
直後、私の目にGKの行動が映る。
彼は、私がシュートを打つと思い前に出てきたのだ。
直感的に私の脳内で一つの考えが浮かんだ。
私は右足をボールの前で止めて、左のインサイドでボールを弾く。虚を突かれたGKは私に振り切られた。がら空きのゴールが目の前に広がっている。
私は右足のインサイドを素早く振り抜き、ゴールにシュートを押し込んだ。
審判の笛が鳴る。ゴールが認められた合図だった。
「よっしゃああああああああ!!」
私はガッツポーズしながら感情を爆発させていた。
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