第15話 かなちゃんの財力に震えるの巻

 私達は今、蕨駅からバスと徒歩で15分程度の距離に位置するショッピングモール前橋で服を見ていた。「夏物セール中!」と書かれている看板の下にはセール品と書かれているワンピースやフリースが置かれている。値段は2000円台が多いようだ。


「私こういうのでいいよ! 安めだし」

「ダメよ接那! 服には魂が宿るって言うから好みで決めなきゃ」


 私が値段で決めようとすると、かなちゃんが口をへの文字にしつつ却下してくる。理由を聞いて納得した私は口をつぐみながら頷いた。


「それにしても、接那はこういうの初めてなの? お母さんといかない?」

「うん、だからか服の相性があんまりわからないんだよねぇ」


 思い返してみると、お母さんと服を買いに行った事は無かった。

 服を見たり買ったりするよりも友達と遊んだりするアウトドア派だったからだ。


「うん、行ったことないかな」

「そっか……じゃあ、今回服の買い方も私とも学んじゃお! まぁ、私もそこまで上手い訳じゃないけどね!」

「ありがとう、かなちゃん!」

「ふふっ、どういたしまして!」


 私は好みの服を捜すために店内をうろうろし始めた。

 そうして10分経った後、私は服を持ってかなちゃんの下にやってきた。


「かなちゃ――ん! この服どうかな?」

「あっ、接那! 服見つけた……ん……だ?」


 かなちゃんの顔から笑みが消える。そこに残っていたのは困惑という表情だった。


「接那、流石にクマ柄シャツは難しいんじゃないかなぁ」

「え――ダメかなぁ」

「可愛いけど、三原君が見たら驚いちゃうよ」

「そうなんだ、辞めようかな」


 私の感性で選んだクマ柄シャツはどうやら駄目なようだ。

 じゃあどんな服なら良いのだろうか。

 私がそんな風に悩んでいた時だった。

 

「接那! 一回これ試着してみない?」


 私は青と白のストライプ柄で構成されているワンピースを右腕に掛けつつ左手で触ってみた。さらさらとした表面と薄い生地が特徴的な服だ。見た目も良いためお出かけには最適と言えるかもしれない。


 だが、私はこういう服が好みじゃない。

 可愛いという概念にそこまで興味を持てないのだ。どれだけ動きやすくて使用しやすいか。その観点ぐらいしか私は興味が無いのである。最初は断ろうとした。


 しかし、かなちゃんのきらきら輝いている表情を見たら断るに断れなかった。苦手だと思いつつも、かなちゃんの思いを組んだ私はひらひらワンピースを着てみることにした。


「ほら、やっぱりいいじゃん!」

「む――そうかなぁ……」

「そうだよ、接那! ほら、笑って笑って!」

「ちょ、かなちゃん! 写真撮らないでよ!」


 私が恥ずかしいと思いつつもじもじしていると、かなちゃんはスマホを出し1枚写真を撮った。


「フフッ、やっぱり可愛いじゃない!」

「えぇ、そうかなぁ。二重顎になってるけど」

「まぁ顔じゃなくてさ。ただほら、接那にあっているって感じなんだよ」

「そうかなぁ」

「そうだよ! 私が男なら接那に告白するね! 間違いない!」

「えぇ――本当?」

「本当本当!!」


 かなちゃんのペースに入っているかもしれないが、客観的に見たら相性が良い服なのかもしれない。そう思った私は、カーテンを閉めて服を着替えることにした。


「確かにこの服可愛いなぁ」


 私は鏡に映っている自分自身の姿を見つつぽつりとつぶやいた。


「で、どうする? その服買う?」

「そうだね、購入しようと思う。で、いくらなの?」

「6000円だよ」

「いや高いね!?」


 私は目を見開きながら言葉を漏らす。6000円という大金がどれほど価値があるか理解しているからだ。


「私そんなにお金持ってないし、また今度でいいよ」

「あっ、そうなんだ……じゃあ私からのプレゼントってことで!」

「えぇ、いいの!?」

「いいのいいの! 私は趣味に使わないからお小遣い余ってるし、何より友達が幸せになってくれた方が嬉しいからね!」


 私は、かなちゃんが優しさで買ってくれようとしていることを理解した。彼女の思いを断るのは逆に失礼だろう。そう考えた私はかなちゃんが選んでくれた服を買ってもらうことにした。


「ありがとう、かなちゃん。このお礼は何時か返すよ!」

「いいっていいって。親友なんだしさ! もっと気楽にいこうよ!」

「けど、申し訳ないからなぁ……」

「じゃあ、麺類食い倒れ国内旅行はどう?」

「それは私が破産しちゃわないかな?」

「大丈夫だ、麺類の愛情があれば耐えられるさ!!」


 服の入ったバッグを持ち、各々の自宅を目指す中で私達は会話を交わしていく。

 冗談交じりの交流は、私の心をぽかぽかと温かくさせる。

 ずっと彼女との関りは続けたい、そんなことを考えつつ私は笑みを浮かべていた。


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