第14話 お父さんやばいの巻


 私はシャワーを浴びた後、ドライヤーで髪を乾かしていた。鏡にうつる私のほっぺたは何時もよりもハリが無いように感じていた。


「はぁ……モチモチの肌が弾まないなぁ」


 私はほっぺたを掌で軽くぺちぺちと鳴らしながらぼやいていた。


「にしても、さっきの会話の返答は雑だったかなぁ」


 私は先程の会話を思い出す。

 たしかあの時、こんな会話をしたはずだ。


「3人って、私とかなちゃんと三原君で行くの?」

「はい、そうです」

「私はいいけれど、かなちゃんはOK出すかなぁ」

「あ、その点は大丈夫です。既に了承はいただきましたから」

「いや、はやいね!?」


 草食系なキュートボーイ、三原君がまるでやり手の男みたいに対応が速いのだから驚いたものだ。いやはや、人は見た目で分からないものである。

 

「霧原さんの了承を頂ければ僕が日程調整します。希望日はありますか?」

「私は休日にランニングか筋トレしてるから基本暇だよ」

「じゃあ今週の日曜日はどうですか?」

「うん、大丈夫。その日は空けとくよ」

「分かりました! じゃ、日程とかを決めたらまた連絡しますね!」


 受話器の向こう側から弾んだ声が聞こえた後、ぷつりと切れる音が鼓膜を振動させた。ランニング中にかかってきたためか体力が回復できた。そのことに感謝しつつ、私はスマホをしまってから走り出した。


「ほげぇ……今考えると私バカだぁ」


 私はドライヤーをかけつつ下を向く。冷静に考えてみれば今回の電話は明らかに時間をかけるべきだ。三原君は外見、内面共にチワワか子猫みたいな愛くるしさがあるが、中身は狼かもしれない。可能性は無いに等しいだろうが。


「それ以上に、お父さんとかに言いにくいなぁ」


 私は自分のお父さんが前喋っていたことを思い出す。


「接那。もしもお前が恋愛するときになったら言いなさい。お父さんがみっちりこれを見せてやるからな!」

「それは?」

「決まっているじゃないか! お前のアルバムだよ!」


 あの時のお父さんの狂気的な瞳が忘れられない。昔テレビで彼氏に娘のアルバムをみっちり見せる親がいると聞きましたが、実在するとは思わなかった。

 そんな父に今回の件を話さなくてはならない。


 先が思いやられるなと思っていた時だ。


「あつっ!?」


 私の頭皮に痛みがはしる。想像に集中を割きすぎていたせいでドライヤーしていたことを忘れていた。ドライヤーの電源を急いで切り元の場所に戻す。

 そして両手でひりひりと痛む場所を触りながら確認した。


 指で触ってみると針を刺すような痛みが頭にはしる。幸い、髪の毛が無くなっていることは無かった。


「はぁ――良かったぁ」


 私はほっとしつつ、自分の部屋に戻ることにした。


「にしても、私って女の子らしい服持ってないなぁ……」


 私はため息を吐きながらクローゼットにかかっている服を確認する。荒畑さんの背番号が書かれているユニフォーム、家の中で良く着ている黒ジャージ、小学校時代持っていたサッカーユニフォーム。大半がサッカー関連だ。


 サッカー漬けの日々を送っているからか、まともな服屋さんにも行った事が無い。その弊害と言うべきだろうか。どうすれば良いだろうか。そんなことを考えている時だった。


 私のスマホにかなちゃんから電話がかかってきた。


「おはよう、接那!」

「おはよう、かなちゃん! どうしたの?」

「単刀直入に言うね、接那。遊びに行くときの服持ってる?」

「――持ってないです」

「やっぱりそうだよね、わかってたよ。だって前私と遊んだときに、練習用のジャージで来たじゃん」


 かなちゃんは私の恥ずかしい話を突然出してきた。確かに練習用ジャージで遊んだ事実があるので否定が出来ない。


「もし、三原君と遊ぶ時にジャージだと流石に驚かせちゃうかもしれないからさ、今から一緒に服買いに行かない? もし無ければ今度返してくれればいいからさ」


 かなちゃんが気を利かしてくれたんだと思った私は、直ぐに了承し準備を行うことにした。

 そうして、30分後――


「かなちゃん! おはよう!」


 私は蕨駅前でスマホをいじっていたかなちゃんに手を振った。この日の服装は白いTシャツに黒のニットベスト、淡い色のチェックパンツに純白のバケットハットを見事に着こなしている。


 夏らしさを感じると共に純朴な少女らしさも感じられる見事なコーデと言えるだろう。それに対し私は何時も通りジャージを着ていた。

 何故なら、私の部屋で普通に着られそうな服はジャージしか無かったからだ。


「なんかごめんね、かなちゃん。私の服装がこんなので」

「いいよいいよ! これからファッション上手になろ!」


 暗い表情をする私に対して、かなちゃんはフォローを入れてくれた。その優しさに感謝しつつ、私達は服屋さんへと向かう事にした。

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