第16話 三原君の悩みの巻 ~①

 この日、私はかなちゃんと一緒にサッカー部マネージャーとしての仕事を果たす為に学校に向かっていた。燦燦と降り注ぐ太陽の陽が最近鋭くなっている気がするのは気のせいだろうか。


「それにしても、今日は暑いねぇ。ボイルされた蟹になっちゃうよ」

「そうだねぇ」

「かなちゃんはあんまり暑そうじゃないね」

「日傘をさしてるからねぇ」

「そりゃそっか」


 私は額に浮かぶ汗を拭いながら、じりじりと熱い陽射しを送る太陽を睨みつける。太陽は橙色に輝く陽射しを私達に対して送り続けていた。


「異星人とか来て太陽光無くしてほしいなぁ」

「う――ん、でも紫外線無くなると不味いよねぇ」

「えっ、そうなの?」


 私が思っていたことを口に出すと、かなちゃんは


「例えば……精神疾患の予防ね。紫外線を浴びるとセロトニンが分泌されるの。いわゆる幸せホルモンね」

「へぇ――そうなんだ。また1つ賢くなれたよ! ありがとう!」


 私はかなちゃんから聞いた話の意味が全く分からないと思いつつお礼を伝えた。かなちゃんはそんな私を見て微笑んでいた。


 そんな話をしている内に、学校に到着した。

 学校に到着したらまず私達がする仕事はジャグ作りだ。


「先生、おはようございます」

「おはよう、市城、霧原。取り合えずジャグ作りを頼む」

「分かりました!」


 私は先生から渡されたスポーツドリンクの粉とジャグを持って学校の水場へと向かっていった。ジャグの中にスポーツドリンクの粉を入れた後、学校の水道水を流し込む。単純作業ではあるが、中々に重いのだ。その為、基本的には私が持っていくようにしている。


「大丈夫、接那? さすがに二個はきついんじゃ……」

「ヘーキヘーキ! 私頑丈さが取り柄だから!」


 強がって見せたものの、やはり重いものは重い。けれど、ここで弱音を上げたらサッカー選手になる事なんてできやしない。私は重いと根を上げることなくベンチの辺りまでジャグを持って行った。


「おぉ、体力あるね」

「へへっ、それほどでもっ……」

「じゃあ、次はボール用意してね」

「……はい」


 監督からの誉め言葉に対し、私は苦虫をかみつぶした表情を浮かべながらお礼を伝える。これで徳を積めたのかもしれない。そんな事を思っていると次の指示が出た。


「おっ、じゃあ次はこれやって」

「次はこれ、終わったらそれやってね」


 なんというか、マネージャー遣いが中々に荒いなと私は感じた。ただ、サッカー部に入った以上逆らうことは出来ない。私はかなちゃんと一緒にてきぱきと仕事をこなしていく。


 そうして落ち着いたころ、私は行われている練習を見る。


 この日の練習はAチームとBチームに分けた紅白戦だ。三原君はBチームに配属されている。今回の練習の目的は次世代メンバーの連携向上だろう。その為に三原君をBチームに入れているはずだ。


 じゃなければ、言い方は悪いが監督の判断はただの阿保である。そんなことを考えていると、三原君にボールがわたってきた。対峙相手は、キャプテンの伊賀先輩だ。

 

 もし私が三原君の立場だったら、バックパスか横パスを選択するだろう。しかし、三原君は私の考えとは異なりドリブルを仕掛けていく。ダブルタッチを用いた速さ勝負。本来ならばスピードがのっているドリブラーの方が有利だ。


 しかし、伊賀さんは三原君のプレーを予測していた。三原君とボールの間に体を上手く入れ、ボールを奪い取ったのだ。更に、伊賀さんは焦る三原君が前のめりになっていることを利用し、マルセイユルーレットで躱したのだ。


 もはやここまで行くと芸術の域だ。私は伊賀さんの華麗なプレーを見つつ、そんなことを感じていた。それに対し、三原君のプレーはどこか違っていた。


 いつもなら冷静に周りを見てパスするが、今日は何故か自分で仕掛けていったのだ。それもほかの先輩ならまだしもわざわざ伊賀先輩に対してだ。相手が格上だからこそあえて仕掛けるのは分かるが、三原君はあんまりしないと思っていた。


 挑戦と無謀は違う。


 明らかに勝てない相手には挑まないというのは勝負事の鉄則だ。

 そのことを理解していない程、三原君の頭は悪くない。

 それでも、何故か仕掛けたのだ。何か焦りみたいなものがあったのだろうか。私は三原君のプレーの動機を考えつつ、グラウンドのブラシかけを終えた。


「ふぅ~~終わったぁ」

「お疲れさま、接那。けれど、もう一仕事残ってるよ」

「はぁ――そうだったぁ。こりゃ辛いよ」

「じゃ、辞める?」

「辞めない! だって必死に勉強して入部したんだもん!」

「それなら、頑張らないとね」


 私とかなちゃんはそんな会話を交わしながら、最後の仕事を行う。その仕事内容は、練習終了後のボール磨きだ。基本的には一年生がやっているのだが、私達が入部してからは主に私達が引き受けることになった。体育用の赤ジャージが砂で汚れる為、あまり好きではないが練習する上で重要となる道具だ。


 手を抜かずしっかりとやろう。私はそう思いつつ、ボールを磨いていく。濡れた雑巾でピカピカになるまでボールを磨く。物の掃除はあまり好きでは無いが、こうやって目に見えた成果が表れるのは中々気持ちの良いものだ。そんなことを思っていると、三原君が私達の下へやってきた。


「お二人とも、お疲れ様です。先程ミーティングが終わったので、手伝いますよ」

「おぉ――助かるよぉ!」


 突然の助っ人に私は笑みを浮かべる。

 やはり三原君は良い奴だ。

 そんなことを思いつつ、私はまたボール磨きを始めようとしていた。


「その前に霧原さん。一つ質問いいですか?」 

「うん? どうしたの?」


 三原君は私の顔を見たあと少し頬を赤らめていた。何故赤らめているのだろうか。そんなことを考えていると、三原君が言葉を切り出した。


「今日のプレーの感想について、教えてください」

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