第12話 プランなんかねぇよの巻!

 夕焼けが辺りを照らす午後5時頃。帰り支度を終えた私とかなちゃんは一緒に残って手伝いをしてくれた三原君と一緒に帰ることにした。静かに並んで歩く私達の頭上をかぁかぁと鳴きながら飛んでいく鴉の鳴き声が響いていた。


「三原君、今日の試合大変だったね」


「うん、頑張ってたと思う。お疲れ様」


 私達は笑みを浮かべながらボールバックを持っている三原君にお礼を伝えた。

 今日この場所に来れたのは三原君が誘ってくれたからだ。


「あぁ、はい。こちらこそありがとうございました」


 三原君は下を向きながら返答する。腕は体には擦り傷が多く目立っていた。

 その理由を私は知っていた。今日の試合、後半で2点取ったチームは結果的に敗北した。伊賀さんと遠宮さんが得点を奪った後、追加点が取れなかったからだ。


 その理由は、三原君が先ほど教えてくれた。

 きっかけは、2点目を取った後のことだったらしい。


「三原ぁ、お前作戦通りFWやれや」


 2点目を取った直後、FWを務めていた伊賀さんが後頭部を掻きつつ指示を出したのである。その指示を聞いた三原君はもちろん断ろうとした。


「でもとかじゃねぇんだよ。やれと言われたらやる。当然だろお?」


 それに対し、妙に苛立っている伊賀さんが圧をかけたのだ。体格のでかい先輩に対して逆らった後、何をされるか分かったものでは無い。そう考えた三原君は無謀だと思いつつも承諾したらしい。


 三原君曰く、こういうやり取りがあったらしい。

 その結果発生した事象は、最悪に近いものだった。


 FW経験の無い小柄な三原君が前線を務めたことにより、ゼロトップ対策を敷いてきた相手から潰され続けたのである。ボールを貰えばすぐに大柄な男達からのタックルが飛んでくる。幾度も無く体を飛ばされる三原君はそれでもチームに貢献するために何とか踏ん張り続けていた。


「はよパス供給しろ!」


「当たり負けするんじゃねぇよ!」


「そんなんじゃ勝てねぇぞ!」


 そんな三原君に飛んでくるのはサイドにいる先輩達からの罵声だった。先程まで良い攻撃が出来ていたこともあるためか、やたら大声だ。

 本来、CFはガタイが良い選手がやるポジションだ。その理由はポストプレー等の身体を張るプレーが主となるからである。それに対し、三原君は体がまだ出来上がっていない。そのため伊賀さんの様なプレーを求めるのは無理なのだ。


 しかし、分からないのだろう。

 あの人たちはきっとサッカーを考えてプレーしていないだろうから。


「くそっ、くそっくそっくそぉっ!!」


 三原君は上手くプレーが出来ないことに対して焦りを見せ始めていた。それと同時にプレーが乱雑になり始めていた。無謀な縦パスは相手にカットされ、少しでもトラップをミスれば簡単にボールを取られる。


 ボールを前線で取られれば、相手は一気にカウンターを仕掛けてくる。

 それを潰す選手がいた。伊賀さんだ。


 伊賀さんはスピードで抜かそうとする相手に対してしっかりと体重を乗せてタックルを仕掛ける。重さのあるタックルを受けた相手選手は体勢を崩しボールを手放す。


 伊賀さんはタックルを受けて立てない相手を見向きせず、そのまま三原君へパスをつなぐ。そこそこスピードがのっているパスをトラップした三原君は直ぐに前を向こうとした。


 しかし、狙いすましたかのようなタックルが三原君に対して飛んできていた。激しいチャージを受けた三原君は受け身すら取れず後頭部から地面に倒れる。

 その瞬間、審判の甲高い笛が鳴ったのだった――


「確かに無茶な指示だったかもしれない。それでも、上の舞台に行けば得意では無くてもその場所で仕事を求められる。どんな場所でも仕事をこなせる技量が無ければ僕が成長できる見込みはありません」


 三原君は目元を潤わせながら唇を噛みしめる。後悔が残っていることは私でも理解出来た。けどくよくよしていた所で練習に支障が出たらまずいだろう。


 どうにかして彼の精神を良くする方法は無いだろうか。

 そんな風に考えていた時、私に一つの解決策が舞い降りた。


「ねぇ、三原君。もしよければ今度でかけない?」


「……え!? お出かけですか!?」


 空を仰いでいた三原君は笑みを浮かべている私に対して驚いた表情を見せる。それもそうだ。何せ旅行になるとすれば男1人に女子2人という二股デートみたいな構図だ。三原君にはそんな意識無いかもしれないが傍から見ればそう見える。


「うん、折角サッカー部に入ったしね。親睦会として日帰りで何処かに行こうかなって話し合っているの」


「あ、あぁ、成程。確かに親睦会重要ですね、ええ、はい」


 三原君は少々焦りを見せながら返答する。

 それに対し三原君が少々悩んだような表情を見せた。


「けど、1年全員で行くとなると良い場所を見つけるの難しいですね。何せ人数が多いですし一癖も二癖もありますから。2人とも見たことがあると思いますよ、ほら個人フットサルできていたメンバーです」


 三原君の発言を聞いて私は個人フットサルに来ていたメンバーを思い出す。

 同学年なのは、アニメ好きな眼鏡の小野、筋トレ好きな田戸、ラーメンオタクの宇田川だっただろうか。成程、確かに個性がバラバラだ。共通する趣味が一つもない。


「それと、あの時のフットサルでこなかったメンバーがもう1人来ると思います。」


「そうなんだ、じゃあそれも考慮して旅行プラン作るよ!」


「ありがとうございます! 助かります!」


 三原君は笑みを見せながら私に感謝を伝える。そして、駅に着いた私は三原君と別れてからかなちゃんの方を振り向いた。


「どうしようかなちゃん! なんも考えてないよ!」


 私は、かなちゃんの前でノープランだと吐露したのだった。

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