第4話 中二病兼ストーカー・試合開始の巻!

 私は目の前でかっこつけたポーズをしている中二病を無視して、またパス練習に戻ることにした。三原君は私に対して「大丈夫だった?」と聞いたが「特に問題なかったよ。ただ、不思議な人だったね」と返答を返した。


 すると三原君は驚いたような表情を浮かべながら私に対して説明を始めた。


「さっき霧原さんが遭遇したこよ……國岡は近隣では変人って有名なんだよ。気に入られたら最後、至る所に現れてサッカーの指導をしてくるんだ。僕も一時期変に絡まれて無茶苦茶大変だったから、霧原さんも注意しな」

「へ、へぇそうなんだ……それは怖いね」


 私は先程遭遇した國岡の話を聞いてちょっと恐怖を感じていた。つまり1人でシュート練習やドリブル練習をしている時に突如現れて指導してくるかもしれないのだ。


 中二病というよりもストーカーじゃないか?


 私はそう思いながらパス練習をこなしていた。そうして、5分ほど経過したところで水上さんが招集の声をかける。私達は円の形になろうとする参加者に従って同じような行動をとる。


 周りを見るとやはり男性が多い印象だ。 

 特に、社会人が多い。20代ぐらいのガタイが良いさわやか系男性に、スキンヘッドとちょび髭が特徴的な40ほどの男性、60代のロン毛のおじいさん等様々な年代の男性がいる。勿論女性も参加しており、30代ぐらいのポニテが特徴的な女性や営業職で働いていそうな女性がいた。


 私が周りを見渡していると、先程強烈なパスを放った國岡と目が合った。彼女は目と目が合った瞬間、ウィンクを返した。

 

 私は瞬時に目を付けられていると理解した。これからサッカー教えてくるストーカーから逃げる日々が始まると思うと恐怖しか感じなかった。そんなことを思っていると、私はあることに気が付いた。


 かなちゃんが円陣の中にいないのだ。私が心配になり辺りを見渡すと、コートを着てベンチに座っている1人の女性が目に入った。その女性はかなちゃんだった。かなちゃんは私と目が合うと同時に首を振りながら両腕でバツの形を作っていた。


 どうやら、試合に参加できないらしい。私は残念に思いつつも感情を表に出さない様に意識しながら頷いた。


「それじゃあ、チームを振り分けていきます。4チームで分けるので番号をそれぞれ言ってください」


 私は2番となり黄色ビブスのチームとなった。味方の選手はさわやか系のお兄さんに三原君、國岡に神田先輩だ。

 三原君曰く、神田先輩はチーム内で第2GKとして入っている為ベンチ入りはしているが試合には出れていないとのことだった。ただ、本人はGK練習をやりたくて参加したらしいため今回はGoleiroゴレイロを任せることにした。


 フィールドプレイヤー以外をやりたくなかった私がほっと息をつくと、突如私の背筋に寒気が走る。後ろを振り返ると、そこには両手を組んだ國岡が立っていた。


 國岡は私の両眼を見ながら「今日の試合はよろしくね」と右手を差し出してくる。私は「あ、あぁうん宜しく」と少々強張りつつも右手を出し握手を行った。そうして私達はポジションをそれぞれ決めることにした。私は元々FWでプレーしていたためPivoピヴォでプレーをしたいと申告すると、了承してくれた。

 

 その後は各々ポジションを設定し、各々ストレッチをする。その間に私は相手の代表とじゃんけんをしてどちらボールで試合を開始するか決めた。今回は私が負けたので相手ボールから試合が開始することになった。

 

「それじゃあ、これから黄色ビブスと青ビブスの試合を始めます!」

 

 水上さんが笛を吹くと同時に試合が開始する。私はサッカーで言うDFのポジション、Fixoフィクソに入る選手に対して素早いプレスを仕掛ける。前線のプレスの目的はあくまでボールを取る事ではなくすることだ。


 私は今回相手から見て右側を切った。相手の利き足が右足であると直感的に理解したからだ。相手はボールを足裏で転がしつつプレスから逃れる。チャンスだと思った私は一定タイミングで下がるフィクソに対し素早く右足を出した。相手の選手は虚を突かれた表情になりつつ右足でボールをスライドさせるが1歩遅い。


 私は重心移動する隙をついて右足でボールを奪い取る。幸運にもフリーな状況だったため、私は間髪入れずに左足のインサイドでシュートを放ったがゴレイロの正面だった。


「た、助かったぁ」

 

 先ほど奪われたフィクソがそう呟きながら額の汗を拭う。私は嫌な気持ちになりそうになったが「ナイスシュート! 切り替えていこう!」と言う三原君の声があったため私は直ぐに次のプレーに対する意識を戻した。


 ゴレイロのロングスローから相手のアラにパスが入る。三原君はシュートコースを切りつつ抜かせない様なプレスを仕掛けるが、素早いダブルタッチで躱された。

 体格差のある社会人のドリブルを止めることは中々難しいが、三原君は必死についていく。そんな彼を嘲笑うかの様に相手のアラはストップアンドゴーを仕掛けてあっという間においていく。


 そんなアラと対峙したのは、國岡だ。内角に入ろうとするアラに対し國岡は重心を高くしながらシュートコースを切りつつバックステップを行う。

 攻撃を遅らせて守備が戻れるようにする為だ。

 

 アラを務める選手はパスを出す素振りを見せず強引にシュートを打とうとするが、國岡はシュートコースに立ちふさがるようにサイドステップをする。國岡はシュートフェイントすることが直感的に分かったからだ。


 アラを務める選手は國岡が予想していた動きと同じプレーを行う。シュートフェイントからのドリブル突破。単調ではあるがクロスを上げて得点を奪うことが出来る最善の方法である。


 しかし、國岡は冷静だった。ボールが相手の足元から離れると同時に相手とボールの間に上手く体を差し込んだのだ。相手のアラは國岡をどかそうとするがうまく守備をされてしまい取ることが出来ない。結果的にボールはラインを割りゴレイロからのボールスローになった。


「凄い……」


 私は2人のプレーに惹かれていた。特に國岡の方だ。相手の動きを封じつつ仕留める個所では相手に何もさせない。ディフェンスとしては正に完璧だ。


 私も彼らに負けていられない。そう思いボールを要求するがフィクソが厳しくマークしてくる。先程ボールを奪われたからか厳しいマークだ。振りほどくのは難しい。

 裏抜けのパスを要求し三原君に出してもらったが、ヘディングで跳ね返される。

 かといって裏抜けをすればフィジカルさで勝てない。


 このままでは駄目だ。得点が取れないFW等、価値が無い。このままでは《あの人》に追いつけない。そう思った時、私の中に天啓が舞い落ちる。


「へい、パス!」


 私は大きな声でパスを要求する。私の顔を見た三原君は守備の隙間を通すような精密パスを足元にくれる。


 フィジカルでも勝てない。スピードでも勝てない。

 なら、相手の虚をつくだけだ。


 私はボールを下から上に浮かせ、頭上を相手ごと通す。これは、がやっていたプレーの応用だ。私はそのまま相手の体の右から抜き去った後、浮き球を右足でダイレクトに叩き込んだ。

 

 虚を突かれたゴレイロは足で反応するが威力の強いシュートは簡単に止められない。私の放ったシュートは、ミニゴールに吸い込まれていった。


 公式戦でもサッカーの試合でも無い、フットサルの1得点。

 他の人なら思いですら残らないたった1得点だろう。

 それでも、この得点は私の中にずっと残り続ける1点だった。

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