第33話 試合の助っ人を頼まれたの巻

「それにしても暑いねぇ」

「そうだね……もう少し、涼しくなってほしいよ」

「地球上に巨大扇風機があれば変わるかな?」

「無理じゃないかな。そもそも電気代やばそうだし」

「そっか。そりゃ残念だなぁ」


 暑さを紛らわすために冗談を口にしていると目的地が見えてきた。

 看板を確認した後、店の扉に手をかける。ベルの音が響き、インド系の服を着た男性が近づいてきた。


「いらっしゃいませ。おふたりですか?」


「はい、そうです」


「どうぞ、こちらです」


 訛りのある店員さんの案内に従い、席に座った。

 周りを見ると、料理をつまみつつ談笑するお客さん達が多くいた。


「ねぇ、どれにする?」


 私達は背もたれのある椅子に腰かけながらメニューを眺める。ランチセットは千円とコスパが良い。ナンにも種類があり、チーズナンやピザナンと言った豊富なバリエーションがある。


「そうだね……無難に行くなら、普通のナンかなぁ」


「まぁ、そうだよねぇ」


 やはり無難なプレーンが良いか。私は相槌を打ちながら思った。そんなことを考えていると、一人の少女が近づいてきた。黒いポニーテールと赤いほっぺが特徴的な女の子だ。


「……接那ちゃんだよね?」


「……ごめん、どちら様?」


「ほら、私だよ!佐倉井ほのみ!」


「……あ」


「思い出した!?感動の再開ってやつ!?」


「……いや、やっぱり覚えていないや。ごめんね」


「ガ――ン!!ほのみ超ショック!!」


 ほのみさんは頬を両手で挟みながら目をまん丸と開いた。そんなやり取りをしていると、店員さんがやって来る。


「どうされたんですか?」


「あの、私この方達と一緒に食べたいんですけど可能ですか?」


「分かりました。それでは三人席にお移りください」


 店員さんの了承を聞いたほのみさんはガッツポーズしながら喜びを露わにしていた。私よりもテンションが高いなと何となく思った。


「ねぇ、接那。一緒にしても良かったの?」


「う――ん、まぁ悪い子じゃなさそうだし。良いんじゃない?」


「接那がそう言うならいいけど……」


「ね――ね――二人とも!早く決めよ!!」


「……本当に大丈夫なのかな」


 かなちゃんがぼそっと言った。私も心配だなと思いつつメニューを眺めていると、身を前に出しながらほのみさんが意見を出してくる。


「因みに、本日のオススメがいいよ! 千二百円位でセットを食べられるし!」


「そうなの?どんなのが出て来るとか分かる?」


「確かねぇ……あれ、どんなのが出てたっけ?」


 ほのみさんは首を左右に傾げながら思い出そうとしていた。表情から察するにどんな物が来るかは分からないのだろう。しかし、頼んでみるのも面白いかもしれない。


「分かった、じゃあそれにしてみるよ」


「接那がそうするなら、私も合わせようかな」


「よし、じゃあ三人とも同じメニューにしようか!すみません店員さん!本日のおすすめ三つでお願いします!」


 店員さんはにこやかに微笑んだ後、厨房にメモを渡していた。

 横目で動作を追っていると、ほのみさんが声をかけてくる。


「接那ちゃんはまだサッカーとかやっているの?」


「たまに個サルはやるけど、サッカーはあまりしないかな。今はマネージャーとして活動しているしね」


「そうなんだ。なら、ボールには触れている感じなのね?」


「そうだけど……どうしたの?」


 ほのみさんは相槌を打ってから、私の顔を真剣な眼差しで見つめると両手を合わせてお願いしてきた。


「お願い、接那ちゃん! 私に協力してくれないかな!?」


 私とかなちゃんが顔を見合わせていると、ほのみさんが説明を始めた。

 

「私今、クラブバーネスっていう小、中学生向けのサッカーチームに所属しているの。男子は中学校のサッカー部に行くから中学は女子がほとんど。バーネスは女子でも気軽にサッカーを楽しめる場所なんだよ」


「へ――いいじゃん。接那もそう思うよね」


 話を振られた私は「あ、うん。そうだね」と返す。話を聞いている限りでは特に助っ人をする必要が無いと考えていたが、話には続きがあった。


「実は、来週の土曜日に緑岡高校男子サッカー部と練習試合を組んだの。接那ちゃんにはその試合に参加してほしいの」


「つまり……その日限定のプレイヤーってこと?」


「そう!そういうこと!!」


「因みに、試合はいつ行うの?」


「六月二十三日。場所は後で伝えたいから、連絡先交換してもいい?」


「いいよ! しようしよう!!」


「接那、それもいいけど後で勉強もしようね」


「分かってるよ。ちゃんとする!」


「なら、いいけどね。あ、来たみたいだよ」


 私は美味しそうな匂いがするナンに目を向けた。そのナンはチーズナンでは無く、初めて見る様な見た目をしたものだった。私が首を左右に揺らしながら考えていると、ほのみさんが驚いたような声を出した。


「こ、これって! ピザナンじゃん!! 実在していたなんて!?」


「ピザナン……? 色的には確かに赤いけど、普通に見えるよ?」


「中見てみて。きっと驚くから!!」


「そ、そう……なの?」


 私は半信半疑で少し赤みを帯びたナンを少しちぎった。直後、中からチーズが漏れ出してくる。具材が多く乗っていて、チーズも入っている。確かにピザだ。


「本当にピザじゃん」


「だよね!ここのピザナン滅多に食べられないから当たりだよ!これも接那ちゃんが幸運の女神だからかもしれないね!」


「えぇ、そうかなぁ~~?」


「......接那、のせられているなぁ。ほのみさんはそんな意識無いんだろうけど。もしかしたら、似た感性を持った二人なのかな……?」


 私はかなちゃんが心配そうに呟いた言葉を聞かないまま、昼食を楽しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る