第39話 宣戦布告の巻
私立帝王三国学園に到着した私は度肝を抜かれていた。入学試験なのに記者やテレビカメラを持った人物が大勢現れていたからだ。私が驚いていると、前方に立っている國岡が「毎年つめかけるから気にしないほうがいい」と助言をくれた。
なるほどと思いながら相槌を打っていると、一人のカメラマンがこちらに指をさした。同時に、校門前に集まっていた人物たちが大勢押し寄せる。
「國岡さん! 中学スポーツニュースです!! 今回の試験について意気込みを!」
「プロ志望届を届けようとは考えないんですか!?」
「U-16に選ばれた感想を教えてください!!」
「海外にわたることとかは考えているのでしょうか?」
「複数クラブが関心を集めているとの話ですが本当でしょうか!?」
國岡は複数の大人たちにもみくちゃにされながらマイクを突き付けられている。まるで犯罪でもしたかのような光景を目の当たりにした私は動揺していた。そんな私に対しかなちゃんが声をかけてくる。
「接那、國岡さんの言った通りだよ。毎年この学園には主力選手にインタビューする慣例があるから、気にしすぎないほうがいいよ。それに、下手に巻き込まれると接那自身に支障が出かねないから」
「……そっか、そうだね」
かなちゃんの言うとおりだ。ここで動揺してプレーに影響が出たらそれこそ勿体ない。今できることは、試合に対して精神統一し挑むことだけなのだから。私は真剣な顔つきになりながらグラウンドへと向かうことにした。
グラウンドには、既に多くの受験生がいる。黒色のビブスをつけており、既に百名はいるだろう。その中にはステロイドを使っていると思わせるような筋肉を持つ長身女性もいれば、水色の髪の毛が特徴的な細身の女性もいる。外側には観客席があり、五十以上のギャラリーがワイワイと騒いでいる。
「凄いなぁ……私、この人たちと戦うのか……勝てるかなぁ」
「自分を信じなよ、接那! 自分を信頼できない人に勝利の女神は微笑まないよ!」
私はかなちゃんの鼓舞を聞いてから確かになと思った。ここに立っている人たちはみんな実績を上げているはずだ。そして、自分に自信を持っている人間しかいない。そんな人物たちと戦う際に、力がない人間が勝てるだろうか。否、勝てない。
「わかったよ、かなちゃん。私、自分を信じるよ……!」
ドキドキする胸を抑えながら、私は声を出す。
「そう、その意気だよ接那! じゃあ、頑張ってね!」
かなちゃんはそういった後、観客席のほうへ向かっていった。
「よし、頑張るぞ……!」
私はそう言いながら更衣室へと向かった。女子更衣室にはすでに数十人の人たちが入っている。背中を見るたびに、筋肉質な体が私の瞳に映った。それと同時に様々な声が聞こえてくる。
「今日の試験、あいつがいるんだろ? 女帝って呼ばれてるやつ」
「U-16日本代表に呼ばれてるだろ? 何であいつがきてんだよ」
「それに、ダンプカーみたいな巨人もいるじゃねぇか。バケモンだろ」
「うぅ……勝てるかなぁ、怖いなぁ……胃が痛いなぁ……」
「奨学金を取って、両親のために頑張らないと……私は……」
様々な思いが狭い部屋に交錯する。趣味の話をしたり自己紹介をしている人は誰もいない。みんな、明日を勝ち取るために来ているのだと私は理解した。
私に、ハングリー精神はあるのだろうか。
家族に恵まれて、友人に恵まれた私はそんなことを思う。
(弱気になるなよ、私!!)
私はぱちんを頬を鳴らしてから、決意した表情を見せる。ジャージを脱ぎ、サッカーウェアに着替えた。愛用しているトレーニングシューズに履き替えた後、水筒と証明書類を持って受付へ向かう。
「受験番号20番、霧原接那です」
「霧原さんですね。えぇと、はい。こちらです」
私は背番号20番と書かれた黒色のビブスを手に取り、ピッチに向かった。ざっざっと音を鳴らす人工芝の上でストレッチをしていると、ざわざわと声が聞こえてきた。
声の方向を見つめると、一人の少女がいた。カシャカシャと鳴らすカメラの音にひとつも視線を向けることなく、体を動かす背番号11の少女。國岡だ。
天井から針がかかっているかと思わせるほど姿勢がきれいな彼女の姿からは、中二病の馬鹿という印象は全く抱かせない。歩くたびカメラのシャッター音だけが響く。ピッチ内からはだれ一人の声も聞こえない。
「まるで、雪の女帝みたいだ……」
なぜか、私はそう口にしていた。後ろに美しい女性がいるような錯覚に陥るほど、彼女は美しかった。ゆえに、私を含めほとんどの人は國岡に声をかけなかった。
たった一人を除いて――
「女帝さんよぉ、久しぶりだなぁ!」
10番を背負ったギザ歯の少女が、メンチを切りながら大声を出して近づいていく。茶色の髪の毛を髪留めでまとめており、瞳には炎が沸き上がっていた。
「忘れたとは言わせねぇぞ! てめぇが所属していたチームに負けたキャプテン、
少女はそう言いながらケンカをうる。観客席からざわざわと声が上がる中、國岡は静かに返事を返した。それを聞いたヤンキー風の少女は激昂する。
「上等だゴラァ!! 削ってやるから覚悟しやがれ!! んでくたばって死ね!」
死ねのジェスチャーを行いながら首元を横に薙ぐ。その光景を見つめていたカメラマンはパシャパシャと音を鳴らしながら一面に収めようとしていた。
そんな光景を眺めながら、私は思う。
やべぇ人いる、と。
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