第3話 1545年(天文十四年) 3月 月山富田城

「殿。折り入ってお頼みしたきことがございます」

 俺は父である尼子晴久の前に座り口を開いた。

「横田のたたら場にいきとうございます」

 晴久は突然の俺の申し出に目を丸くしている。

「たたら場…何ゆえ横田にいきたいのか」

「新しきたたらのやり方を試しとうございます」

「三郎、お前は尼子の嫡男ぞ!たたら職人ではない!」

「左様でございます。嫡男だからこそたたら場にいかなくてはなりませぬ。尼子の力の源であるたたら場を更に強くするために」

 俺は顔をあげしっかりと晴久の目を見た。晴久は怒りと困惑が混じった目で俺を睨んでいる。俺は言葉を続けた。

「尼子の力は鉄でございます。鉄を今以上にたくさん作ることが尼子の力を大きくする近道だと思います」

「お前はまだ六歳ぞ。その様な童にたたら場のなにがわかるというのだ。戯言もいいかげんにせい」

「戯言ではありません。私は熱で寝込んでいるときに金屋子神かなやごかみさまのお告げをいただきました」

「…なんと。たたらの神様のお告げだと」

「はい。今までそのお告げについて考えておりました。色々なことを告げられましたので整理するのに時間が必要でした」

「うむ。いかようなお告げがあったのじゃ」

「【ふいご】にございます。ふいごで風をたくさん送り込み作る量をふやせるとのことです。そのためにも野だたらではなく小屋の中にたたらをつくれと仰られました。具体的なことを横田の村下むらげに伝えたたら場を新しく作り替えたいのです」

 この時代は神仏の影響力は強いはず。今言ったことも荒唐無稽と退けられることはないだろう。それと横田にいく目的はもうひとつある。

「殿。殿がお考えになられていることのお力添えもしたいと思っております」

「…それはどういう意味だ」

「殿は尼子宗家の力を強め宗家のもとに出雲の者共を束ねることをお考えでは。神社、寺社、国衆など出雲に根を張っている者たちを尼子の名のもとに従えようとお考えなのでしょう。そのために横田の三沢を今以上に取り込むべきかと思います。私は可能なら直臣に取り込みたいと思っております」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 わしは言葉を失った。流行り病が治ったあと息子は変わったと聞いてはいた。守役もつけ学問も習わせ始めた。とても優秀だ、麒麟児だと言う者もいた。又四郎を失ったゆえに余計に贔屓目でそのように話しておるのだろうと思っていた。

 三郎が直に話がしたいと言ってきたときも、元服前の童がなにをと思ったが、考えを改め取り合えず聞いてみるだけ聞いてみようと思っただけだ。

 今の三郎の話しぶり、その内容。一廉の者と話しているようだ。三沢を直臣だと…たたら場にしても言っていることがよくわからん。真にお告げがあったというのか。

 しばらくしてわしは言葉を投げた。

「わかった。三郎よ、やってみるがよい」

「殿、ありがとうございます」

 こやつ何があった?それに儂を殿と呼ぶ。なぜだ。


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