第11話 1546年(天文十五年) 6月 月山富田城
室…正室かー。
晴久と国造の顔合わせは上手く行ったが最後に斜め上の話が飛んできた。将来の妻と顔合わせなんて俺まだ数えで七歳だ。そういう京極の姫も七歳、俺と同じ年だ。小学校一年生で結婚相手と顔合わせってなんなんだ。戦国時代凄いな。
俺はバツイチだからな中身が。体はまだ精通もない子供だが心は中年だ。せっかく戦国時代に転生したんだ妻は複数ほしい。なんてぼんやり考えていたがもういきなり一人妻が出来た。
思いおこせば前の妻と上手くいかなくなったのは会社をリストラされたことがきっかけだった。俺は就職活動の合間に家で洗濯をしながらゲームをする。妻はパートの量を増やしていき家計のために働き詰めになってくいく。仕事に疲れて帰ってきたらテレビのゲーム画面を見ながら返答する夫に妻の怒りは日に日に大きくなる。俺は出口の見えない就職活動に焦りとイライラを募らせる。お互いにお互いを庇いあっているつもりがそうではなく、壁をどんどん造り負の感情を確実に溜め込んでいく。
些細なことで噴き出した感情は二人の関係を破壊するには十分だった。妻は子供を連れて出ていった。結局離婚した。マンションは売り払い金の殆どは妻に渡った。子供を引き取ったからな。
考えていた。どうにかならなかったのかと…思ったのは対話の重要性。夫婦だからこそ対話が、会話が必要なんだ。それだけじゃないけど。
なのでこの世界では教訓をいかす。妻になる女性としっかり対話しよう。そう心に決めて京極の姫と対面した。
「京極菊と申します。これから良しなにお願い申しあげます」
子供だ。本当に子供だ。こんな小さな子供がもう嫁入りなのか?(
戦国時代の女性の立場を目の当たりにした。娘と侍女は土下座をしていて顔は見えない。言葉が出ない。
「お二人共面を上げられよ」
中井の声を受けて姫と侍女は顔を上げた。
菊は怯えているような気がした。しかし気丈に振る舞おうとして俺から目をそらさない。この娘も戦っているのか…戦っているんだ。定めと。
「私が尼子三郎四郎です。色々用事があり対面するまで時間がかかってしまい申し訳ない。よくぞ出雲までお越しになられました。歓迎致します」
俺は晴久に向き直り言葉を続けた。
「殿、菊姫の習い事について私からお願いがあるのですが」
「ほう…どのようなものか」
「菊姫に習ってほしい学問などがあります。よって習い事の選定と進み具合などを確認させていただきたいのです。場合によっては私が師を務めてもよろしいでしょうか」
「フフ、室は己の好みの女にしたいのか。なんとも…」
いや、そういう意味じゃなくて、うん?そうかな。
「分かった。なにか考えがあるのであろう。やってみよ。中井と相談するがいい」
「ありがとうございます」
菊は俺が生き抜くための優秀なスタッフになってもらうとしよう。
突然侍女が顔を床に付けた。
「申し訳ございません!なにか至らないことがございましたらすべてこの私の落ち度にございます。姫様には何一つ咎はございません。罰は私が負いまする。姫様には何卒ご寛容にお願い申し上げます」
「志乃、何を言ってるの。志乃はなにもしてない。悪くない」
「お菊さまはまだ七歳にございます。なにとぞおゆるしを!」
「志乃ーー」
姫は泣き出しそうだ。必死にこらえている。
俺の言ったことが突拍子もなくて、侍女は俺が姫のことを気にいらないと思ったのだろう。北近江では辛い日々を送っていたんだな。侍女は必死に姫を庇い俺の心証をなんとかよくしようとしたんだ。うん、なかなか良いじゃないか侍女さん。
二人をここまで連れてきた中井駿河守が動こうとしたのを俺は制止する。立ち上がり二人の前に向かった。
「志乃と言ったか。案ずるな。お菊どのに落ち度などない。聞いておると思うが俺は少々変わっておってな、物事の進め方が慣例通りとはいかないのだ。ま、慣れてもらうしかない。お菊どの、そういうことなのでよろしく」
俺はお菊に向き直って軽く笑った。彼女はホッとしたようだ。はいと返事をし頭を垂れた。侍女はますます額を床につけ姫様をよろしくお願いしますと訴えていた。
さて、アラビア数字は教えるぞ。そうだな、イメージとしてはできるキャリアウーマンって感じの秘書かな。なんか楽しみだぞ。
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