第20話 1546年(天文十五年)11月 横田荘
室町幕府が行った六角氏討伐の戦である長亨の乱、別名『鈎の陣(まがりのじん)』。結果は六角氏の勝利で終わる。
この戦で名を馳せたのが甲賀忍者だ。甲賀の地侍達は六角に合力し勝利に多大なる貢献をする。参加した五十三家の地侍達を「甲賀五十三家」と呼び、さらに五十三家の中で六角氏より感状をもらった家を「甲賀二十一家」と呼ぶ。
この二十一家のなかに隠岐家がある。近江源氏佐々木氏が日本海に浮かぶ隠岐の島の隠岐家の始祖である。その隠岐氏の一部が近江の甲賀に戻って甲賀隠岐氏となった。
初めて知ったときはびっくりした。出雲は何かと近江と関係があるな。尼子がもともと近江京極氏の被官で近江出身だから当り前か。
この縁を使って甲賀隠岐家をスカウトした。晴久と対鰐淵寺戦略を話した後、立原源太兵衛久綱を甲賀に派遣した。隠岐家に対して提示した条件は、俺の直臣として召し抱える、頭領は俸禄で50貫(俺の感覚で基本給)プラス諸手当(内容は要検討)で、配下は頭領基準に役職?に応じて禄を与えることとする、という具合だ。
基本給50貫は四百万円ぐらい(1文=80円、1貫=1000文=8万円)だから年俸としてはそんなに低くないだろう。プラス手当がつくし、今んとこ所得税とか健康保険料とか年金とか介護保険料とか引かれないからまんま手取りだぞ。条件としては悪くないはずだ。
九月の終わりに送って十一月の始めに立原が一人の甲賀者を連れて戻ってきた。名を
「尼子三郎四郎様、お目通りがかない恐悦至極にございます。甲賀隠岐一族頭領、隠岐左近にございます。此度、我ら一族をわざわざお呼びくださり、ただただ驚き、感慨無量にございます。しかしながら一族の中にはまだ三郎様のお達しが信じられぬものもおりまする。よって頭領である某が僭越ながらお目通りをお願いした次第でございます。なにとぞご無礼お許しいただきたく存じます」
平身低頭、左近は頭を床につけんばかりに伏せている。俺は立ち上がり左近の前に行った。
「やっと来たか。待っておったぞ。面をあげよ」
左近は顔を上げて俺を見上げた。
「世に名高い甲賀二十一家の頭領だ。俺のことは調べ上げているのだろう。どうだ実際に見た感想は」
「真に童でいらっしゃるとは…しかし今のお声がけで腑に落ちました。三郎様こそ大国主大神の化身。我が一族が命をかけて仕えるべき殿であらされると」
「はは、世辞はよい。実利の話に入ろう。事前に条件は伝えてあるが異存はないか」
「異存などあるわけがございません。むしろ不相応なお話に慌てております。本当によろしいのでしょうか」
俺は米原に準備しておいた書状を持って来させた。
「ここにお主たちを召し抱える条件をしたためた書状を準備した。これを『契約書』という。よく読め。異論がなければここに名を書け。同じものがもう一通あるので確認してこちらにも名を書け。俺の名はもう書いておるからな。一つはお主が持つものだ。約定の証としてな」
「こ、このような書状まで…勿体のうございます。我が一族の家宝にして子々孫々伝えてまいります!」
左近は感激のあまり震えている。
「左近、我の傘下には隠岐の本家もおる。お主らと姓が被るのでなにかと不便であろう。よって新しく姓を与える。今日から隠岐姓あらため横田姓を名乗るが良い。横田は俺の始まりの場所、初めての領地だ。どうだ縁起が良かろう。今日からお主は横田左近だ」
「は、ははーっ」
こうして甲賀者が俺の配下に加わった。左近は歓喜に震えすぐに仕事を与えてくれと言った。そうでなくても与えるつもりだった。対鰐淵寺戦の肝は情報だ。坊主の動きを把握して、被害を最小にすると同時に懸案を一気に解決する。そのためには敵の一挙手一投足を熟知しなくてはならない。
左近は一緒に来た配下のうち一人は甲賀に戻し一族郎党を連れてくることにし、残った三人と仕事を始めるといった。よろしい。すぐ始めてくれ。
出雲、石見、安芸、伯耆4カ国を軽く周ると同時に鰐淵寺を集中的に探らせる。銀兵衛は毛利に専念させよう。あそこは世鬼がいるからな。簡単ではない。正直尼子は諜報部門において毛利に遅れを取っている。立て直しが必要だ。まずは情報戦で勝つぞ!!!
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