第47話 1547年(天文十六年)10月 月山富田城 其の二

 晴久と相対し話し合いを始める。大森銀山で大内の軍勢を一蹴した頃から、晴久の雰囲気が変わってきた。神辺城にも確固たる意志を持って自ら出陣し、兵を率いては戦機を逃さぬ卓越した統率力を発揮した。家臣や国衆たちも晴久に対する尊敬の念が高まっている。とても頼り甲斐がある我が父親だと、見ながら感じ入った。

「三郎、滅びのお告げはまだあるのか」

 晴久のこの一言から会話は始まった。

「御屋形様、随分と長いこと滅びのお告げはありません。気を抜くことはありませんが、尼子は良き道を歩んでいると思っております」

 軽く頷きながら目を伏せる晴久。

「安堵したぞ。そちがそういうのなら安心じゃ。してこれから如何にする」

 そう、これからが大事だ。俺は今後起きうることを想定して自分が考えたことを晴久に話し始める。

「…領内をしかと固め国力を高めることが最優先と思います。米、鉄、物を作る能力を更に高め、領民たちの暮らしをさらに良くする、尼子で暮せば飢えることはないばかりか、もっと良い暮らしができると知らしめることが必要です。そのために大森の銀を上手く使い、日ノ本の外との交易の量を増やす。ある意味尼子は交易によって栄える海の国を目指すべきだと思います。そのため隠岐にて準備を進めていく予定です」

「海の国…だと」

「はい、大森の銀もいずれは無くなります。それを見越して国を作る。その向きが海の国です。日ノ本から外に向かうのです」

 晴久は顔を真っ赤にしながら考え込みだした。己が考えもつかないことを嫡男に言われ必死に思考を巡らせている。

「御屋形様、すぐにできるわけではございません。遠くの目標にございます。まして私が生きているうちにできるとも限りません。ただ、どこに向かうのか、大事なことゆえお話したまででございます。たちまち行うべきことについてお話いたします」

「うむ、続けよ」

「領内についてですが出雲、伯耆、石見東部については来年三月頃まで検地を終了し、新たに戸籍を導入し人の数を正確に掴むことが必要です。国の力を正しく計るためにも人の数を知る必要があります」

「検地についで人か」

「はい。そして美作を来年中に同じ程度にするべきです。そして街道です。大森から東伯耆までの山陰道と出雲街道を整備します。安芸に向かう出雲街道は様子を見ながら、今は後回しです。それと温泉津の整備と新たなる城と町の普請です」

「どこに城を作るのじゃ!?」

「塩冶と今市、大津を一つにした新たなる町を作り城をたてます。雲州出雲の中心をここに定めます」

「なんと、新たな雲州の中心か…」

「はい、大内の山口以上の、西国一の城下町を創るつもりでございます。富田城下はこのまま維持すればよろしいかと。尼子十旗も見直しが必要です」

「出雲を作り変えるのだな」

「さすが御屋形様、そのとおりでございます」

 山口はあと数年で滅ぶだろう。八万近い人口を抱える西国一の大都市は出雲に取って代わられるのだ。

「そして遅くとも天文二十年までには新見を抑えます。あそこを取れば備中、備後に睨みを利かせることができます。そして、まだどうなるか分かりませんが…」

「新見の次は」

「因幡、そして若狭かと」

「な、因幡はともかく若狭だと!?」

「はい、畿内を考えていく必要があります。あそこを誰が抑えるのか、尼子にとって無視できない事柄になるでしょう。海の国を目指すならば必ず」

「…三郎よ天下を望むのか」

 俺は少し間をおいた。天下か。

「尼子が生き残るためにはどのみち天下を望まなくてはならないでしょう。天下というより日の本の一統、これをいかに成すか。考え動かなくてはなりませぬ。そうでなければ海の国にたどりつけません。回りは尼子をそっとしておいてはくれませぬ。ならば先手を取ることが必要でございます。その前に毛利と雌雄を決する必要があるかもしれません。こればかりは何とも…」

 晴久は茶を一口のんだ。

「そうか、海の国のための天下か…儂にはまだ良く見えん。だが三郎よ、お前が言っていることは正しいのであろう。儂はそう思う」

「正しいかどうかは分かりません。いつもやりきることを第一に考えておりますゆえ」

 真っ直ぐに目を晴久に向けた。変わらない、変えることはない。兄が死んだあの日から俺の思いはずっと同じだ。

「良かろう、これからもお前とは話をたくさんせねばならんな。たまにはどうでもいい話もしたいのう」

「はい、前にお話したことですができるだけ朝餉や夕餉を、家族一緒に摂りたいと思います。戦もひと段落したので、是非行いたいと」

「分かった。明日からそうしようぞ」

 明日から家族団欒だ。いいなー。そして二、三日後には評定が開かれるだろう。よし、やる事を具体的に詰めていこう。内政ターン開始!!だな。

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