第69話 1553年(天文二十二年)7月 八雲そして金言寺へと繋がる

 八雲城に尼子お抱えの商人たちを呼んだ。坪内次郎左衛門重吉つぼうちじろうざえもんしげよし、息子の孫次郎、佐渡惣右衛門改め平田屋佐渡守ひらたやさどのかみ丹波屋彦兵衛たんばやひこべえ大和屋彦五郎やまとやひこごろう山城屋五兵衛やましろやごへえ。この商人たちは杵築で坪内とともに商いを行い大きく成長している者たちだ。

 後ろの三名はそれぞれの国でも商いを行っている。びっくりだ。他国と関わりをもちながら商いを行っている商人がこんなにいるとは。

 最初は坪内だけだった。尼子が大きくなり楽市を始めとする政策を行い交易を活発化させた結果、杵築から始まった商業改革は順調に推移し、今は五名の大商人が育つまでになった。

 今ここには商人たちと九郎四郎、本田、菊がいる。尼子の経済部門会議だな。

「皆のもの、忙しい中よく集まってくれた。礼を言う。今日は皆にこれからの尼子の商いについて話したいことがあって集まってもらった。俺の話を聞いて、思うことがあれば遠慮なく意見を述べてくれ。俺はただ単に上位下達だけでなく皆が意見を言い合える場を作りたい。今後も定期的に商いに関して会合を開くつもりだ。よろしく頼む」

 集まりの趣旨についてまず話す。場にいる者、特に商人たちの顔は笑っているが、目は笑ってない。さすがだな。そうでなくては困る。

「直に毛利が戦を起こす。なので備中、備前において米を買い占めてくれ。それなりに利益がでるだろう。ま、これはそこまでの話だ。大事なのは毛利の戦が長引くことと、そのため毛利領内において各種の開発が滞ることだ。これを期に毛利領内にお主たちが食い込むのだ。毛利の商いは尼子が握る」

 坪内がびっくりしている

「三郎様、あいも変わらず凄まじい事を…しかし、いくら商いといえど毛利は尼子にとっては敵国。簡単には食い込めませんぞ」

「毛利と盟約を結ぶ。よって可能だ」

「は!?なんと毛利と盟約でございますか!!」

 坪内たちがそろって口を開ける。暫くして口を閉じ、一様に考えを巡らせる。安芸、備後、備中で堂々と商いを行える…出雲、伯耆より安芸、備後、備中のほうが民は多い。

「長門、周防にもどんどん行ってほしい。安芸よりこちらのほうがかえって入りやすいかもしれん。まだ毛利の力が及んでないからな。陶は商いは下手だ。それに長門では尼子の評判はいいだろう。職人衆をたくさん助けたからな」

「三郎様、どれだけ、どこまでかんがえておられるのですか」

 坪内が震える声で三郎に問いを投げた。

 三郎はゆっくりと商人たち一人一人を見た。そしておもむろに言葉を発した。

「戦を行い国を拡げるだけの武士はどんどん居場所がなくなっていく。戦が終わればもう用済みだ。戦だけではだめだ。拡げた国を豊かにし、民百姓が楽しく過ごせてこそ意味がある。国を豊かにする一つの手段が商いだ。お主たちは豊かな尼子を作る大切な役目を担っている。そればかりでない。商いを拡げることによって尼子がもたらす物で民百姓が暮らしていく。その物が止まったらどうなるのだ。民百姓は不満をため場合によっては一揆をおこすであろう。要は物と金を押さえることはその国なり地域を押さえることになる。商いは戦と同じだ。商いを通して尼子が日の本を押さえる。それを成すのがお主たちの使命だ」

 政治、経済、軍事、文化この四つを尼子が押さえていく。できるかどうかわからんが行けるとこまで行く。毛利と同盟を結ぶことを決めたことにより俺の考え、決意も固まっていった。

「よいか、日ノ本だけではない。いずれ南蛮と相対することになる。それまで力をつけねばならん」

「三郎様は以前より、そのように仰っておられました。それを行う時期が来たということでしょうか」

「ま、そんなとこだ。日の本に南蛮人がどんどん入ってきている。南蛮の神を拡げたいと言いながら日の本を探っているのだ。確かに南蛮人共と交易すると利も生まれるが、あいつらはそれだけで満足するような輩ではない。そろそろこちらも動かなくてはな。まずは毛利との盟約がなってどう動くか、それだ」

「ははっ、必ずや三郎様のご期待に添えるよう粉骨砕身勤めまする」

「うむ。五家には期待している。よろしく頼むぞ」

 内政を担っている本田の負担が大きいな。早急に人をつけるか。九郎はこのまま内政部門だな。あのボーッとした三男坊はどうするかな。菊は…何でも屋かな。


 晴久に呼ばれた。そして

「三郎よ、お前の元服の儀を行うこととする」

「えっ!元服ですか。なぜ今なのですか?」

「もう元服してもいい年である。それにお前はもう尼子の跡取りとして十分働いておる。いつまでも子供のままでは何かと困ることもあろう。若狭、丹後平定後を考えておったが事情が変わったのでな」

「…それは毛利との盟約のことでございますか」

 晴久はゆっくりと俺の前に歩いてきて座った。

「そうだ、今回の盟約はお互いの当主が相見え盟を結ぶ。毛利の当主は隆元だ。ならば尼子の当主はお前が妥当であろう」

「御屋形様は、どうなさるおつもりですか?」

「心配するな、儂はまだ隠居はせん。ま、いろいろとお前に引き継ぐことはあるがな」

「安心しました。そうですか、元服ですか…私もこれで一廉の武士ですか…」

 なんか認められたようで嬉しかった。

「烏帽子親は三条公頼さんじょうきんより様が行ってくださる。お前の元服時は是非とも烏帽子親にと、おっしゃってくださった。とても名誉なことだ。上様から偏諱も頂いておる」

 おおー!ついに俺は尼子義久になるのか。

 元服の儀は杵築大社で行われ。俺は将軍足利義藤からの偏諱を受け『尼子義久』となった。烏帽子親の三条公頼公からはこれからも良しなにと、怪しくも力強い視線とお言葉を賜った。同時に晴久から家督を譲られ尼子家当主となり、出雲守を始めとする守護職も受け継いだ。


 俺の元服を誰よりも喜んだのが菊だ。

「殿!!元服おめでとうございます。これで私と殿は晴れて夫婦になることができるというもの。祝言はいつあげるのですか?!!ちょうど父上もおります。私の晴れ姿を父上に見ていただくこともできるかと!あー待ち遠しい、いつですか?もう、何を準備すればいいのでしょう、志乃と相談せねば。志乃、しのー!」

「い、いや、菊、ちょっとまて。落ち着け。祝言まではまだ聞いておらん」

「そのようなことはありません。大御所様(晴久)はお考えがあるはず。そうだ、今日の夕餉のときに大御所様にお聞きしましょう。それが一番早いわ。ふふ、殿、殿のお子を授かる日が待ち遠しいです。強いお子をたくさん生みとうございます」

 菊の勢いが半端ない。戦国女子ってこんなにイケイケなの?



 


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