第29話 1547年(天文十六年)4月4日 横田荘 

 横田の館で卯の刻(午前6時)に起きた俺は生まれて初めて出陣のために鎧を身に纏った。そうだ、今日は俺の初陣だ。今まで調練してきた直轄軍を率いて白鹿城に向かう。白鹿城に押し寄せてくる鰐淵寺の強訴を滅ぼすため出陣するのだ。

 兜を脇に抱え評定の間に行くと家臣たちが引き締まった顔で胡座をかいている。横道兵庫介、熊谷新右衛門、立原源大兵衛久綱、森脇市正久仍、中井駿河守久包。本田豊前守家吉と米原平内兵衛綱寛は俺の後からついてきて座に座った。

 俺は一段高い上座に座り大きく息を吸って吐いた。

「皆の者、今より逆賊、和田坊栄芸を滅ぼし雲州尼子をたおやかに収めるため、白鹿城に向けて出陣する。三沢為清も我が旗下に入り出陣する。強訴を鎮圧したあとは鰐淵寺に入り、尼子に楯突く謀反人共を全て滅ぼす。守護使不入は尼子では認めん。これを徹底するいい機会でもある。よし、出陣だ!!」

「おーっ!!」

 ガチャガチャと鎧兜の音を響かせ俺を先頭に外に出る。館の前には直轄軍100名、並び、その後ろに三沢為清麾下300名が控えていた。

 為清が俺の前に進み出る。

「尼子三郎四郎様。三沢為清、命にしたがい参陣いたしました」

「為清、ようきた。出雲一番の国衆の力。見せてもらうぞ」

「ははっ」

 為清の顔を見た。少し強ばっているようだ。

 馬に乗るため向かっていると立原がやってきた。

「若様、これを」

 文を渡されたので開いて読む。江津湊の船に軍勢が乗り込み始めた。明日の辰の刻ごろに鷺浦に着くであろうとのこと。鰐淵寺の強訴は明日卯の上刻(5時)には出発する予定であるとのこと。

「富田からの知らせはなにかあるか」

「はっ。まだにございます」

「山吹城はどうなっている」

「昨日の時点で本城越中守常光様、山吹城に入城されました。万事抜かりなきかと」

「うむ、さすが御屋形様。引き続き金山要害山城と三刀屋城から目を離すな。それとあやつはどうなっている」

「はっ、今は淀江城におりまする」

「鰐淵寺の坊主共を整理したら会うぞ」

「御意」

 俺と家臣たちは馬に跨る。まずは伊賀多気神社いがたけじんじゃに向かい戦勝を祈願する。

 今日は白鹿城の東に位置する和倉山城に入る。約十三里、五刻半ほどかかるだろう。

 酉の刻(18時)頃に和倉山城についた。城主である原田五郎兵衛はらだごろうひょうえいが出迎える。

「原田、明日は後詰を頼むかもしれん。準備は怠るなよ」

「若様、おまかせ下さい」

 家臣たちに早めに軍を就寝させるように下知を出し、俺も戌の刻(20時)過ぎには寝所に入った。だが眠れなかった。子の刻(0時)過ぎて少し眠っただろうか。明日、俺は…戦国時代に生きる覚悟を持って成さねばならんことがある。人の死をこの目で見たら俺はどうなるのだろう。考えても答えは出ない。胃の奥に硬い物を感じながら。もう一度眠るべく目をつぶった。

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