Round 7 運命は時に厳しい


「剣技連携! 剣技連携! 剣技連携ぇっ!」


 必要なタイミングではない時にレア役を引けば刀へストック、レア役を連発したいタイミングがあればコピー打法を。スペックを凌駕する剣聖の剣技は出玉を重ねていく。


 …………なにか妙だ。

 魔女も一つの魔法を魔力の続く限り発動していたが、異なる魔法を1度に多用することはなかった。


「えへへ、やっぱり僕は無敵だぁ…………!」

「お見せできる顔じゃなくなってるぞ」


 どこぞの聖女とは違うが、緩みきった桃髪の少女がスロットを打ち続ける。ア〇顔晒してるわけじゃないから別にいいんだが……っと、あまり他人の心配をしている場合じゃない。


 Rushの残りゲーム数も少ない状況。

 結局最初に調子が良かっただけでその後は伸びていないのだ。


「うーむ、俺も魔王にならないとダメか」


 原作にないらしいけど。

 つーかこの前も含めて魔王がいないことが悔やまれるな。現役の魔王に現代の魔王について聞いてみたかったぞ。


『公務でハゲそう』


 スマホにそうメッセージを残して、魔王からの連絡は止まっている。

 ……魔王の公務とは?


「あ、終わった」


 ジャッジ2回を通して500枚強。中途半端な終わり方。運命とは時に厳しいものだ。ビギナーズラックにあやかるのも無理があるかぁ?


「やった、先生! 3回成功しましたよ!」

「マジでか?」


 こいつは人間設定6か。

 いや、攻略技使ってるからただのスロッカスか…………とはいえ、レア役を出すヒキだけは本物なのだが。どうしてこう、異世界のやつらは元々のヒキが強いんだ?


 剣聖の画面には真ん中に赤い帯で『準備中』と流れている。いよいよ大きく伸ばすか否かの大事な場面である。とにかくハズレ目ではなくなんらかの小役、そしてレア役を引ければ大チャンス。


「で、なんだっけ? のうよう……」

「能鷹隠爪ですっ! 大丈夫、さっき赤いのを取り込んでます!」


 およそスロット中とは思えない会話。こんなデキレースを許していいものだろうか…………でもいっぱい絞られてるしいいか。見届けてやろう、スロット初心者の――


 運命の

 一劇を


「叩きこめッ!」


 最終ゲーム……固唾を飲んで見守る中、剣聖はレバーに手を添える。

 さっきと同じように、刀がちらりと刃を覗かせて………………


「――抜刀ぉぉぉ⁉ い゛いぃぃぃぃッ!」


 背中が攣ったのか、不様な姿勢でレバーオン。無情にもカウントダウンは進み…………画面が金色に光ることはなかった。


「せ、先生っ…………背中が痛いです。これも演出なんですか」

「んなわけないだろ……運動不足でもあるいまいに。ホントに剣聖様なのかよ」

 

 仕方ないので代わりにリールを止めると、出目は特になにもなし。ハズレ目だ。ストックしていたはずのチェリーは不発。


「あれ、技が出てない」

「え゛っ⁉」


 特別な示唆もなし。ビギナーズラックもここで終わりのようだ。ちょっとでもチャンスを見られたから良かったんじゃないか? なんで技が出なかったのかはよく分からないけども。


「そんな、嘘です! 僕の剣技は完璧なんですヴヴヴヴヴヴ」

「くっつくな暑苦しい」

 

 パチンコ屋の暖房なめんな。

 うーむ、このまま打ち続けるべきかまようなぁ…………いや、初当たりは軽かったし…………


「継続だッ!」

「せ、先生ぃ~」

「背中が攣っても足が攣っても打つのが俺達だッ!」


 風邪気味の時はやめようね。



 ◇ ◇ ◇



 日曜日ということもあって設定は入っていたらしい。

 早めのRushと駆け抜けを繰り返し、台データのスランプグラフには見事な山脈を築いていた。


「設定6に間違いないね」


 根拠はない。だがこのヒキの速さは高設定だ。根拠はない。とにかく当たれば高設定。今のところ±0に近い。


「ど、どうして……! 僕の剣技がっ⁉」


 対して、

 剣聖の台のスランプグラフは右肩下がりの一直線。昨日の俺のようだ。天井から始まりその後は深みにはまって既に栄一7人目。


「ま、まだ……僕には昨日の勝ち分が……!」

「やめとけって。剣技も使えない状態じゃただのスロッカスだ」

「――その通り、一度に複数の攻略法など使うべきではありません」


 8人目の栄一が犠牲になる直前に、背後から白い手が剣聖の手を掴んだ。


「ま、魔女!」

「師匠から話を聞いて、もしやと思って来てみれば……予想が当たりましたね」

「それって技ふたつ使うやつ?」

「えぇ……この子は対人戦において複数の剣技で圧倒するスタイルなので。スロットに応用するなら自ずと『攻略法の複数使用』になるはず」


 やっぱりすごい子なのかねぇ。サンドに1万円突っ込もうとしている姿からはとても想像できないんですけど。


「さ、最初は調子が良かったんですっ!」

「おぉ……見事なパチンカス仕草」

「大体、初心者に打たせる台ではないと思いますが?」

「一撃で捲るならこれしかないんや!」

「貴方も十分似た者……いえ、先駆者ですよ」


 勝ちたかったんや! 勝ってプラスにしたかったんや!

 主義刹那、魂の叫び。


 収支プラマイゼロ。端玉でもらったおせんべいが美味しかったです。

 運命は時に厳しい。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る