Round 16 聖女によるスロット攻略法『天国の花園』


 レバーを軽く叩き、左から順押し。

 レバーを軽く叩き、左から順押し。

 レバーを軽く叩き、左から順押し……


「スロットにハマった?」

「えへへ〜この素敵な台を見つけたのは運命ですぅ」


 聖女堕つ。

 満面の笑みはきっと多くの民衆の希望だっただろうが、立派なパチンカス──あるいはスロッカスの出来上がりである。


「ま、いいことなんじゃねぇの?」


 この前は魔法を突破したのに深追いして負けたからな。パチはダメだ。やはりスロ、スロこそ正義。ということで聖女と一緒に座っているのだが……


「で……にハマった、と?」

「えへへ〜」


 聖女などとんでもない、こいつ……脳を焼かれている。


 なぜかって?

 その台が沖◯キなんだよ。


 ゲーム性はシンプル。

 台の左右にあるハイビスカスのランプが光れば当たりだ。


 出る時は出るが、出ない時は掃除機の如く吸い込む『聖女』という単語とは程遠い台である。


「このお花がピカピカ光るのがいいですよねぇ〜」

「お、おう……」


 いかん、共感できるだけに否定できない! なぜこんなこっち寄りの思考なんだ。


「あちらの世界でもお花は好きでしたけど、こちらにも素敵なお花があったんですねぇ」


 お望みの花は生花店に行けば見れるぞ。

 というかパチンコ屋来る前の道に花壇あったろ。


「あ! さっそくお花ですぅ」


 緩慢な点滅で左右のハイビスカスがチカチカ光る。それが何を示唆しているか、聖女は知らない様子。


 7

   7

     7


「んはぁ〜っ‼︎ 最初からビッグですぅ〜!」


 開始早々から絶好調である。

 ナビありのボーナスも滑らかに消化していく様は、とても聖女とは思えない。


 まぁ……俺には関係ないけど!


「ナチュラルにヒキがつえぇな」


 聖女だけに神に愛されている……ということだろうか。いや、そんなリアルラックのバフは反則な気もするが。


「お花ばぁたぁけぇ~うひひ~」


 目がイっちまってるよ……

 聖女にドン引きしつつ、ビッグボーナスは終わる。この台はここからが天国と地獄。32ゲーム以内に当たる場合のある『天国モード』に上がっていると大量出玉を期待できるわけだが……さっきの聖女の台、あの光り方……


「ヒッヒィッ~! 来た来た来た来たアァッ~!」


 お次は一般的な点灯。規則的にハイビスカスは交互に光る。


 7 7 BAR


「ン゛ン゛ッ~ゥッ!!」


 レギュラーボーナス……まぁいつ来てもうれしいわけではない。額に青筋を立てて聖女は素早く消化していく。そしておとなしくなった台を打つものの……


 7

   7

     BAR


「ン゛ン゛ッ~ゥッ!!」


 表情豊か、実に楽しそう……と、俺の台もハイビスカスが交互に赤く灯る。俺の台もようやく光ってくれるじゃないのぉ……


 7 7 BAR


「ン゛ン゛ッ~ゥッ!!!」


 レギュラーはダメだッ!

 ちょっとがっかりしつつ、本日初のレギュラーボーナスを消化していく。枚数にして100枚ないくらい……出だしからちょっと不安。


 静かに消えた台は通常時に戻る。

 その後も聖女は普通の点滅でREGを連続して引き、俺は32ゲームを素通り。


 正直カニ歩きも考慮する場面だが、意外にも他の台も埋まってしまっている。今日はそんなに熱い日じゃないはずだけどなぁ……


「ま、まだですぅ!」

「そ、そりゃまだかもしれないけどよ……」


 正直モードもそこまでいいような気もしないが、まだハイビスカスの摂取が足りない……ここで退くのはまだ早いのは確か。単純な話、引けばいい、これはこの世の真理。


「神は信じる者を救います」

「神頼みにはちょっと早いけどな」


 あ、ビッグ引いた。これはまだわかんねぇな。

 聖女から一瞬目を離すと、既に銀色のアクセサリーを右手で握り締め、奇跡まほう発動の用意は万端。そして次の32ゲーム間、その第1ゲーム目。残った左手で聖女はレバーを叩く。


「主よ……我が花園を守りたまえ――!」


 聖女の祈り、それは光となって台へ届けられる。

 そして……台の花は光り輝く。


 7 

   7 

     7


「これがこの台で生み出したわたくしのスロット攻略法! 『天国の花園ガーデン・オブ・ヘヴン』ですゥッ! 花園は終わらせませんぅ~」


 一見してすごいよう感じる。神の加護がついている聖女なのかもしれない。ただ考えてみよう、十字架ではないがそれっぽいアクセを握りながらスロット打つ女……


 こんなもん、どこをどう切り取ってもヤバい奴だろ……



 ◇ ◇ ◇


 参考機種:沖ドキシリーズ

 

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