Round 7 弟子、ついに魔力覚醒?(期待度☆)



 ステージ創造魔法、『万物創造ザ・クリエイト』を発動してから数時間…………


 画面の奥で立ちはだかるは、侍を模したボクキャラクター。

 仲間達の攻撃でHPゲージを削り、いよいよ二刀流の彼によるラストアタック。3つ現れるが、名前が長いほど期待度が高い。


 【バーチカル】

 【ダブルサーキュラー】

 【スターバースト・ストリーム】


 各攻撃の名称アイコンが画面でクルクルと回転し――

 ――スターバースト・ストリーム

 

 黒の剣士による16連撃の乱舞。

 剣閃は画面を何度も駆け巡り、ボスのHPを削り、そして……眩い光とともに、ボスを両断。大当たりである。


「や……やっと当たった……」


 ステージは創った、そして回った。本来存在しない舞台で、銀玉は踊り狂ったわけで……現在、大当たり演出の余韻に浸りつつ、台上部のデータカウンターに視線を映すと、4桁の大台……1000回転を迎えていた。


「ようやく当たりですか」

「はぁ……はぁ……まぁ、な…………」


 回転数はいつもより良いはず。

 渋めの釘調整を魔法力技でねじ伏せ回していたはず……はず。それなのに、なぜか心臓は早鐘を打つ。どうしてパチンコ打ってるだけで動悸がするんだよ! そんな歳じゃねぇぞ!


「なんかすげぇ苦しいんだけど……?」

「どうやら調は成功ですね…………ですが」


 意味深な言葉と共に、魔女は俺の台を見つめる。視線の先を見ると、ステージは消え失せ、元の普通の状態に戻っていた。対して魔女の台は銀玉は創造された舞台で揺れていた。

 ちなみにこいつは何度か当たりを繰り返してプラス域である。


「お前……何したんだよ」

「言ったでしょう? 貴方の呪いを解く鍵にもなっていると。それにはまず、貴方に魔力を持ってもらわなければ話になりません。だから、魔法の発動と同時に、台と貴方を同調させました」


 ますます現実から離れていくな。まるで意味がわからんぞ。魔女が魔法を発動して、俺の打ってる台と俺を調させた???


「幸い呪いを受けた影響か、魔力保持の出来る身体になったようですから、私の魔法で魔力を覚醒させる手ほどきをしたということです」

「嬉しくねぇ~」

「喜んでもらうつもりはありませんからね。しかし、同調1回目から1000回転の間持続できるのは評価しましょう」

「それってどれくらいすごいの?」


 魔法講座を受けている間に確変振り分け演出は進み、『キュイン!』という確定音と共に確変へ突入した。だが正直、今回ばかりは魔女の言葉を聞いておかなければ……どっちのモードでやろうかな……やっぱバトルモードか。


「まぁ下の中と言った所でしょうか」

「……聞くんじゃなかった」

 

 クソザコじゃねーか。

 特別な才能とかねーのかよ。


「魔力は戦士の筋肉と同じで鍛えなければ上がりません。まずは、この台の特徴と合う『万物創造ジ・クリエイト』で貴方の魔力を測ったということです」


 とりあえず今までの魔法じゃなくて大袈裟なルビを振った技を使った理由は分かった。問題は何で俺が魔法を扱わなきゃいけねーんだ。


 お、当たった。


「魔女さんよぉ、とりあえず1000回転をいつもより少ない投資で回せたのは感謝するけど、いつもみたく普通に巻き込んでくれるだけで良かったじゃねーか。なぁんでこんな苦しい思いしなきゃならんのだ」

「言ったはずですよ、呪いを解く鍵だと」


 ボーナス終わりと同時にまた当たり。捲れるかどうかの心配を他所に、件の呪いに関する話は続く。


「厄介なことに、魔族の呪いとは魔法とは異なる体系による技術です。残念ながら私でも解くことはできません」

「なっ⁉」

「おまけに魔王の部下、紫髪の魔人ということは私も対峙した経験があります。呪術師としては超一流、恐らくかけられたのは死の呪い――」

「おま、死って……」

「……ですが、この世界では我々の道理は通じません。威力は本来の100分の1もない呪いに変わっています」


 いつになく丁寧な解説。

 魔法を発動する時も、できれば説明してからやってほしいものである。

 確変回数が半分を切ったところで当たりもしないリーチで時間を稼がれている…………と思っていたらまた当たる。謎当たり。


「しかし威力が減少しようとも呪いを解くには呪いをかけた本人を倒すしかありません。呪いを解けるのは、呪いを発動した呪術師のみです」

「…………それと、俺の魔力に何の関係が?」

「……………………」


 魔女の台に流れる銀玉が、振り子のように揺れる。魔女は俺の質問を聞いているのか聞いていないのか、揺れる銀だけを静かに眺める。ほんの一瞬、ただ踊る玉がチェッカーに落ちる刹那が、緩慢に感じる。

 全身の脱力感は期待の空回りか、それとも魔力消費の影響か。ゆっくりとした世界で、冷や汗がいつもより柔い肌を流れていく。


「貴方が魔人に打ち勝つ方法はひとつ、パチンコとスロットで倒すのです」

「……んなアホな」


 タメにタメてのセリフのバカバカしさに脱力してしまった。

 結局実践の方は黒の剣士の奮闘は空しく、出玉は約6000発。高速消化の上位Rushへは行けずじまい、収支はマイナス。ステージで稼ごうが、1000回転のディスアドバンテージは重かったのである。魔力が尽きたそうで、魔女の判断により遊技中止。


「次は2000回転維持できるよう頑張りましょう」

「その前に早く当たってほしい」


 こうして、魔人に勝つため魔力に覚醒した俺。

 次回…………修行編?

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