食事休憩 解呪の方法
早めに遊技が終了したことで中途半端な時間で退店することになってしまった。昼は過ぎているし、かといって晩飯までそう長くはない。
「はぁ……ツイてねぇ」
「魔力以前に幸運の上昇も必要そうですね」
そんなものを弄れるなら苦労はしねぇ。なんだか変に疲れちまった、ハンパに腹が減って……
「しゃっせー」
パチンコ店出入り口付近に駐車してあるキッチンカーから漂うソースの香り。つられて行ってみるといい焼け具合のたこ焼き……
躊躇うことなく即買い。遅めの昼食を摂ることに。魔女も空腹だったのか同じく購入していた。
「空きっ腹に効くぅ」
「魔力は食事、睡眠などを取らないと回復しないのでこれから注意するように」
やたら疲労感があるのはそういうことか。マジで面倒だな。
それはそれとして熱々のたこ焼きを冷ましつつ、魔女に問う。
「んで、呪い解く方法がパチンコってどういうことなんだよ」
「シンプルな話です。貴方が魔人に勝てるジャンルがパチンコ・スロットだけということですよ」
……微妙にディスられたような。
丸ごとたこ焼きを口へ放り込んだ魔女は、はふはふと悶える。
「なぁんでそこでパチになるんだよ。勝負になる前にまた何かぶっ放してくるぞ、あれは」
「ふぉれは……問題ないでしょう。この世界では他人を攻撃する魔法は意味を成しません……だから魔人は呪ったのでは?」
そういえば、呪いの前に変なモンぶっ放して来たが何もなかったな。ん?
「じゃあなんで呪いは効くんだよ」
「さぁ?」
なんとも頼りない返答である。
「私自身、この世界で魔法がどの程度使用できるかは完全に確認してませんからね。特定の場所であれば限定的に魔法が使用できるので、広義では同じ呪術も、特定の条件下で発動できた……と考えるのが妥当です」
例外はあるでしょうけれど、と魔女は付け加える。
話を戻そう。
「……で、余計な攻撃をしないとしてパチかスロで勝負するとしよう。相手方が受けるのかぁ?」
「呪いの内容にもよりますが、我々の世界の呪いは呪術師を打ち倒せば解けます」
なんというパワー理論。儀式や祈りではなく術者本人を倒せとは……
「いや、そうだとしてもよぉ。わざわざ魔人が勝負に乗るかね」
「もともと魔王が目的なら受けるでしょう。魔人が勝ったら魔王は返してもらう、とか望みはあるでしょうし」
勝手に連れ帰ってくれ。
「要は貴方のことを魔王の愛人か何かと勘違いしているのですよ」
「んごっ⁉︎ げふっ、ごほっ⁈ は、はぁ⁉︎」
「出先で暴れる勇者を下し、王国へ連れ戻すきっかけとなった謎の人物。そして私──魔女と魔王も一目置く存在とくれば、偏見に満ちた相手は勘違いのひとつもするでしょう、スミレちゃん?」
んー、誇張が過ぎる。
確かに勇者は倒したが……あれは倒したというのか?
「そして、魔王がこの世界のパチンコに傾倒した要因は」
「いやいやいやいやいや! お前じゃん? お前がこっちに連れて来たじゃん!」
「しかし当の魔王は貴方のことを『兄弟子』と呼んでいるわけで」
あんなもん冗談の範疇だろ!
変なことが重なって誤解が誤解を生んでいる状況、まったくもって理不尽である。
「理由はどうあれ、貴方は魔王がこちらに滞在する要因のひとつと考えるべきでしょうね」
「んな無茶苦茶な」
……思い返せば。
確かに魔王と顔を合わせた時は、なんだかんだ一緒に打っている時が多い。横に並び、脳汁を出しているのは、紫髪の魔人が言っていた『誑かした』と表現できなくもない。
「魔王という座にいては、気兼ねなく遊べる友人というのは少ないですから」
いや、そんなシリアス風味出されても。
パチンコの話だし。
とはいえ、いい大人(?)がパチンコを制限されて連れ返されるのは変な話だ。俺も呪い解きてぇし、因縁はあるってことだ。
「しゃーねーなぁ……柄じゃないけど、他人事じゃないし、修行しますかね。でも、魔人さんが見つからなかったら勝負も何もないだろ」
「それは心配なく。元々魔王を連れ帰るのが目的なら、いずれあちらからまた会いにくるでしょう。苦しんでいる姿を楽しみたいでしょうから」
うわ、やな性格。
「……言うほど苦しんでないような」
「だから苛ついて向こうから来ますよ」
不敵な笑みを浮かべて、魔女は口元のソースを拭く。いや、すげぇドヤ顔だけどお前も原因だからな?
「わかっていますとも。だから解呪に協力しているのではありませんか」
「だから自然と心の中を読むなよ……」
来たる決戦に備え、修行編開幕。
「修行ってなにすんの?」
「決まっているでしょう? パチンコとスロットです」
みなさん、魔法の修行はパチとスロらしいです。
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