Round 8 魔人によるパチンコ攻略法1『集約する魂』
さぁいざ、ザ・修行編……なのだが。
先日の別れ際、魔女に言われた。
『今の貴方にとって必要なのは魔力を高めることです。戦士の筋力トレーニングと同様、魔力を持った者の特訓はひたすら打ち続けること……つまり』
――パチンコかスロットを打ちなさい。
「いつも通りじゃねぇか」
今の身体なら、打つことで鍛えられる……らしい。
結局はなんてことない、相変わらず週末のパチンコである。しかし最近の戦績が不調なせいか、今回は4円パチンコは回避。
そう、低貸・1円パチンコである。あまり義務感で打ちたくはないが、打ち続けるならこっちの方がいいだろう……脳汁は少ないけど。
今日は久々の大きな筐体。
『とある』青い台である。1/319のミドルスペック、安心安全の確変突入率100%、おまけに遊タイムつき。完璧とも思える性能ではあるんだが……まぁどこの店もこの台を十全に運用できるほど台所事情が良いわけではなく。
「渋いなぁ……」
回らない。
現在600回転。1玉1円だから大した傷ではないが、4倍計算したら吐血しそうな金額である。魔力があるのだから、自由に発動できないものか、空いた左手を見つめる。
『あ、そうそう……不用意に魔法を発動したら爆発しますので』
コントロールの方法すら教えてもらってないが?
肝心の魔女や魔王は今日来ていないらしい。むしろいない方が平和でいいんだが、それはそれで困る。
ひとまずは修行()とやらを実践して魔力を底上げしているわけで……ホントにパチ打ってるだけで魔力が増えるのかよ。
半信半疑でハンドルを握っていると、いつのまにか台のアクリル板に紫髪の女が映っていた。
「また会ったな、人間」
「あッ、てめぇ!」
驚きつつもハンドルから手は離さない。振り返った先には、紫髪の魔人が立っていた。
「その身体の調子はどうだぁ?」
「ハッ、すげぇ快調だよ」
「なら、もう解呪の必要はないな」
「すんません生意気言いました」
「そ、そうか……」
なぜ呪いをかけた奴に引かれにゃならんのだ。
「つーか、何しに来たんだよ」
「フフフ、貴様が魔王様に相応しくないことを証明しに来たのだ!」
相応しいかどうかは置いといて、要するにパチンコを打ちに来たってことらしい。……律儀な奴。ひょっとして暇なのか?
「実力差を思い知るがいい!」
右隣の同じ台に座り、魔人は1000円を投入、実践開始。
……
…………
………………
約30分経過し、お互い無言だった。その間、台に動きはない。
「あの、魔人さん?」
「なんだ!」
「実力差とは?」
てっきりサクッと魔法でも使うと思えば、渋釘に真っ向から打っているだけ。お店からすれば良いお客さんだ。
「お、愚か者! すぐに魔法を使ったら台の製作者に失礼だろ!」
「はぁ……」
俺に呪いをかけるのは失礼じゃないのだろうか、とは言うまい。
「台のことは大体わかった、そこまで見たければ見せてやろう!」
「別に見たかないけど」
「見ろッ!」
圧が強い。
魔人の左手が俺の顎に伸び、無理やり視線を変えられる。こんな顎クイ、嫌〜!
「流れゆく星の行方、その向かう先は願いによって変えられる。一雫となりし魂よ、流転する輪に逆らい我の下へ集え──!」
魔王と同様、黒いもやのようなものが、魔人の右手から台へ放たれる。
「フハハハハ! 人間よ、恐れ慄け!」
「恐れろと言われても……」
変わった様子など……
いや、ある。女体化したからか、魔力に目覚めたからかは知らんが、今回は早々に気づいた。
風車周りから、玉が固まり始めている……!! 行き場を失った玉がステージに流れていく。
これは、ブドウだ!
こいつ、ブドウを起こす魔法を使ったのか!
「この遊技の攻略など容易い事……これが
魔人による攻略法『
……ドヤ顔なとこ悪いけど、
このブドウ、単純に釘が渋いからできたんじゃねぇの?
絶妙に評価に迷う魔法だ。
こいつホントにヤベェ奴なのかなぁ……
「圧倒的実力差に震えろ、人間!」
なんだろう、最近似たような奴らを相手にした気がする。既視感しかない。
「魔王様に相応しいのは、このワタシだッ!」
ただひとつ言えることは……
ブドウができたからと言って勝てるわけではない。
その幻想は……割とすぐにぶち壊れるんじゃないだろうか?
◇
参考機種:Pとある魔術の禁書目録
確変を絶対やりたいならこれだッ!
……続くとは言ってない。
※ブドウというのは台の一部にパチンコ玉が引っかかって何玉も固まってしまう現象です。詳しくは「パチンコ ブドウ」で検索ゥッ!
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