Round 9 ブドウができたら店員さんを呼ぼう
「ハハハハハ! 道さえ塞げばこちらのものだ! さぁ、目指す場所はひとつ!」
やたらテンションの高い魔人の台は、すでに左半分のほとんどが玉で埋め尽くされていた。『ぎっちり』という擬音がお似合い。
……危険だ。
物理的に干渉する魔法は今まで見てきたが、これは……
隣の挙動とは関係なく、俺の台は当該保留変動時に筐体右上からやや匂う風が吹き、それに合わせて台も騒がしくなるわけで、当然テンションも上がる。やはりこの風が癖になる。
「ふぅ、やっと当たったぜぇ」
ここから捲れるのかどうか……
ここからは約150回転の間に1/99を引くだけの簡単なお仕事。
考えているのはどこまで負けを減らせるかという思考ではあるが、全てはヒキだ。多分大丈夫だろ。
「む、しかしワタシの方が圧倒的有利に変わりない!」
「そっすか……」
あ、やっぱやべぇなこの魔法……
椅子を傾け魔人の台を覗いてみると、ブドウはさらに肥大化し、ステージ以外のルートは銀玉で埋め尽くされていた。
「お客様~すみません」
通りすがりの店員「マッチョ」が魔人へ声を掛ける。勇者の迷惑行為にすら臆することなかったパチンコ店社員である。
「な、なんだ貴様は!」
「球が詰まっているので直しますね~」
淀みない動きでマッチョはあっという間に魔人のブドウを崩壊させ、スピーディーに消えていく。呆気に取られていた魔人も、台の状態をリセットされたことを理解してようやく歯噛みする。
魔人の幻想は、ぶち壊されたわけで……
「おのれ人間めぇ!」
「ブドウ崩されただけで人類を憎むなよ……」
魔人を宥めている間に、開始早々の即当たりゾーンで大当たり。これよ、これが『とある』台の気持ちいいトコなんだよ。
「ま……まぁいい! 我々魔族は人間には屈しない! 何度でも築いてやる! 見ていろ人間!」
「お、おう……がんばれ」
こちらは振り分けに苦戦しつつも玉を増やしていく。
魔人の方はというと、店員に台の状況を共有でもされたのか、ブドウがある程度できる度に店員に
「くそっ、卑怯だぞ人類!」
「ブドウは出来たら店員を呼ぶもんだぞ」
そういえば、魔女たちの時ってあんまり店員来ないよな……?
何で勇者と魔人の時は来てるんだ??
「陰謀だ! 魔族への非道許すまじ」
「多分魔王でもツッコむと思う」
「き、貴様に魔王様の何が分かる!」
「パチンカスってことは」
「むぅ……魔王様を愚弄するか!」
事実なんだが。
なんというか、重く愛されてるなぁ魔王の奴。ダメ男に入れ込む女みてぇ……あ、魔王も女だったな。やべ、確変終わりそ。
「別にいーじゃん、パチンコ好きな魔王がいたって」
「それでは困る! 魔王様とは気高く孤高の存在でいてもらわなくては!」
気高くぅ、孤高ぉ……?
『だぁーっはっはっは! 連荘が止まらんぞぃ』
『5連続で通常ゥッ⁉ この台ぶっ壊れておるぞ』
『おい兄弟子ぃ! これ絶対遠隔じゃぞ⁉』
…………ダメだ、イメージが湧かない。あいつもあいつで現世に馴染みすぎている。
クソどうでもいい会話を交えている間に俺の確変は終わってしまった。いつもと比較すると魔力を使っている? せいなのか疲労が両肩に乗る。
魔人はというと、金が尽きたのか涙目でこちらを睨んでいた。
「くぅ……今日の軍資金ががががががが!」
『いずれあちらからまた会いにくるでしょう。苦しんでいる姿を楽しみたいでしょうから』
魔女の言葉もあてにならないらしい。
苦しんでるのは魔人じゃねーか! 実力差を見せるとか言ってたから、これはこれで勝負だったと思えば……
「使う魔法を間違えたな……出玉的には俺の勝ちじゃね?」
紫髪の魔人の涙はそのまま、ぷるぷる身体を震わせて腕を組む。自信満々に来ておいて当たりもしなかったのが相当効いているようだ。
「は、はぁ? きょ、今日はほんの小手調べだが~?」
それでも虚勢を張るんだから大したものだ。さすが、魔王直属の部下である……何がさすがなのかは知らんが。
「きょ、今日のところはこれで見逃してやる! 次は容赦しないからなぁー!」
「あ、おい! お前の連絡先……って、行っちまった」
せめて魔王に連絡取るよう言いたかったが、魔人は即退店。店内走るなよ……
やっぱこれ、誰かの立ち合いの下で勝負しないと意味ねぇのかな。めんどくせぇなぁ……まぁいいか、今日は修行だし。
翌日、魔人との再会と勝負について銀髪の魔女に話したものの、
「1円パチンコで修業と勝負……? 魔力は4円パチンコか20スロでなければ鍛えられませんよ」
「なっ……⁉」
「脳を焼く衝動がなければ、魔力に刺激はありません」
なんという超理論。
これはなんとしても早く呪いを解かなければ……!
諭吉がもたねぇ!!
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