Round 23 墨乃スミレによるパチンコ究極魔法『風林火山・動かざること山の如し』


 そして最初の自己紹介にもう一度戻る。対決するからもう一回初めの挨拶からとかなんとか……


「なんと今日は! 私のお友達であるスミレちゃんと勇者様がパチンコバトルー!」

「「いぇ〜い……」」


 魔王と聖女は午前中でしこたま負けたせいか生気が抜けている。あの後しばらく打っても全く勝てなかった魔王と聖女は空元気の挨拶の後ばたんきゅー。


 ◯待ってた

 ◯2人、目が死んでますが……

 ◯やっと対決か

 ◯勇者? チャラ男じゃね?

 ◯パチンカスの勇者とか嫌だわ〜


 同じ男だというのに、カメラ越しに女になっている俺とは随分違う扱いだ。


「だまれぇい庶民ども! こーんな陰険銭ゲバ女なんて大したことねぇことを教えてやる!」


 画面越しにもきっちりリアクションをとる勇者に涙が禁じ得ない。とはいえ、ヒール役としては十分である。どんどん目立ってくれ。


「では対決のルールを決めましょうか」

「待ったぁっ、勝利の条件は俺様が出す! この前は弟子のやつに卑怯な手を使われたからな!」

「あん時は自分で条件呑んだじゃん……」

「じゃぁかしぃ! 玉だ! 今日の終わりまでに多く玉を持っていた方の勝ちだ! 前は大当たり回数で騙されたからな!」


 まさか自分から言ってくれるとは……

 以前勝手に負けたことを根に持っているようだ。迷惑極まりないことだが、今回に関してはラッキーと言える。


 後腐れが無いように、念押しでルールを確認する。


「じゃあ、……でいい?」

「おう! ハンデくらい許してやるぜ?」

「んじゃあ、勇者が打っていいのはスマパチの『必◯仕置人』のみで……んで、勝ったら俺なんかもらえるの?」

「ぜぅぇったいにないが、もし勝てたらこの聖剣をくれてやろう!」


 金色の両刃剣が掲げられ、太陽を反射する。無駄に眩しい。

 いらねぇ〜、ただの粗大ゴミである。

 

「逆にぃっ、お前が負けたらお前と銀髪の魔女には土下座してもらうからな!」


 ◯カスで草

 ◯ゲスゥッ〜

 ◯勇者かこれが……?

 ◯元カノ説


「別に構いませんが、私も勝負に参加します……もし私が出玉で勝っていたら元の世界に帰ってもらいましょうか」


 白銀シルバは別枠参加ということらしい。魔法抜きのガチである。


「ハッ、今の幸運絶頂な俺に勝てる奴はいねぇ、勝負は閉店までだ! せいぜい謝る練習してな、ギャハハハハハ!」


 いの一番で店に戻って行く姿は勇者というより、パチンカスのあんちゃん……


「お前大丈夫なのかよ、魔法抜きで」

「弟子に心配されるとは、焼きが回りましたね……要は当てればいいのですから問題ありません」

「ヒヒヒ! せんぱぁい、あとで吠え面みせてくださいヨぉ?」


 主席と次席の確執か知らんがいい迷惑である。


「では私も失礼します」


 白銀シルバもカメラを持って消えていった……


「健闘虚しく勇者に負ける先輩……ヒヒヒ!」

「おーおー、眼中にねぇのか俺は」

「魔力のない凡人に負けるわけないデス」

「あれ、気づいてないのか? 俺とっくに魔法使ってるぞ」

「ヒ?」


 傍で真っ白になっている魔王と聖女を起こしつつ灰髪の魔女に返す。


「は、ハッタリはみっともないデス!」

「所詮2番手か……俺の発動した究極魔法に気づけないなんて、なってないなぁ」


 もう魔法は発動している。

 いや、もっとずっと前……今日起きた時からだ。


「う、う、嘘ついても無駄デスよ⁉」

「嘘かどうかは夜にわかるさ。それより、ちゃんと勇者の奴が打ってるか撮っとけよ」

「せ、せいぜい虚勢を張ってればいいデス!」


 デスデスうるせぇなぁ。一発告知じゃあるまいし。

 カメラを持って勇者の後を追う灰髪の魔女を見送り、場に残った俺。


「おーい、お前ら昼飯食いに行くぞ」

「飯!」

「ご飯いきますぅ」


 現金な奴らだ、奢るとも言ってないのに。



 ◇ ◇ ◇


 

 残ったカメラを回したまま、俺、魔王、聖女は併設の食堂に入ってラーメンを啜っていた。


「のぅ、兄弟子が発動した魔法じゃが何も感じないぞぃ」

「高度な魔法すぎてわかんねぇんだよ」

「えぇっ〜⁈ お弟子さんって本当に魔法使えるんですかぁ?」

「『パチンコ屋パチカスどもが夢の跡』ってな……パチンカスであればあるほど発動の難しい魔法さ」

「「?」」


 啜る麺を途中で止めて、2人は首を傾げる。


「結局なんて魔法なんじゃ?」

「そうだな、あえて名付けるなら『風林火山・動かざること山の如し』だ」


 ザ・日本名。

 我ながら最高のネーミングセンス。

 あるいは「待て、しかして希望せよ」だな。



 ◯スミレちゃん打たないの?

 ◯勇者めっちゃ出してるぞ

 ◯逃げる気なのか?

 ◯このままだとやばくね?



 負けるつもりもないし、最初から勝つ気だ。そもそも、負けるわけがない。


「店内の運気を全部吸い取った挙句、他の人間にガセの7テンをばら撒く最悪魔法じゃぞ? 兄弟子の魔法、ホントに効いておるのかぁ?」

「心配すんなって、絶好調だ。ほらほら、さっさと食って魔女シルバの方応援行けよ」


 聖女にシルバを任せ、俺は店内をぶらつくことに。

 昼飯抜いて打ってる2人の調子はどうだろうな。まぁ、負けるつもりはないけど。


 魔法は既に発動済み、必要なのは勇者がいくら出しているかだ。



 ◇ ◇


参考機種:ぱちんこ 新・必殺仕置人S


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