Round 24 目一杯の出玉を君に


 聖女とは別行動に真央マオこと魔王と一緒にスマパチのコーナーへ行くと、勇者と灰髪の魔女の台が一段と光っていた。


「お~盛況ですなぁ……」

「んぁ⁉ どうだ弟子ぃ、俺様は無敵だ!」


 既に確変へ突入し、順調に10000発を吐き出させている様子。その間にも7テンが発生しさらに当たりを重ねる。やはり魔法、ずいぶん調子が良いようだ。


「まぁがんばってくれや」

「ヒヒヒ、ど、どんな風に負けた言い訳するか、た、楽しみデス」

「ぐぬぬ……悔しいが魔法の効果は確かじゃ……」

「おいおい、たった10000発で勝ったつもりでいられるのは困るなぁ」


 煽るだけ煽っておこう。

 時刻は13時、どんな結果になるかはまだわからんが、勝利に揺るぎはない。


「ケッ、そういうお前は出てんのかよ」

「いんや」

「ギャハハハ、やっぱりハッタリ野郎か」

「それは夜までお楽しみってことで」



 〇やっぱりやばくね……?

 〇勇者マジでヒキつえぇー

 〇でもまだ勝てるやろ

 〇てゆーか勇者の画いらない

 〇シルバ映して~


 

 スマホで確認する限り配信も勇者の実力を認め始めてはいる。ただ紳士諸君にはとても退屈な画であることに変わりはない。さっさとむさい野郎から別の演者へ行こう。


 ライトミドルの島へ向かうと、白銀シルバこと銀髪の魔女は引き続きシンフォ〇ア3を打ち続けている。当たったり外したり……7テン外しの影響はなくなっているようだが、魔法は使っていないようだ。その様子を聖女がカメラに収めている状況。


「どうじゃぁ調子は」

「現在3000発、120回転……可もなく不可もなくですね」

「勇者様の魔法の影響下からは外れたんですけどぉ……」


 イベント日だというのに釘は渋い。

 やはりミドルの人気台の方が良い調整が入っているようだ。それでも魔女は打っている。


「で、貴方の魔法の調子は?」

「おぉ、絶好調だ! あとは勇者のヒキ次第ってとこかな」

 


 〇言ってるだけで草

 〇スミレちゃんさっきから大丈夫?

 〇なにもしてないような……

 〇もしかしてマジで何もする気なし?


 

「ふふ……楽しみにしていますよ、スミレちゃん」

「任せとけ」


 もしかしたら、銀髪の魔女は俺の使ってる魔法に気づいているのかもな。


「それはそれとして、私も勇者などに負ける気はありませんが」

「こっからはシルバだけ映しといてくれ」


 みんな魔女を見に来てるんだからな。男に取れ高はないっ。

 俺は俺で戦う――!



 ◇ ◇ ◇



「あ~やっぱ〇ちゃんパパはおっそろしいなぁ」

「何で漫画読んでるんじゃー⁉」


 パチンコ屋には漫画コーナーがある。

 マイホールももちろん例外ではなく、何人かがソファでくつろいでいた。〇ちゃんパパはスマホで読んでるだけだけどな。



 〇くつろいでで草

 〇諦めモードw

 〇〇ちゃんパパとか謎チョイス

 〇打てスミレちゃんww

 〇まったく打つ気なくてワロタ

 〇\(^o^)/


 

「もう2時間もないぞぃ兄弟子! ホントに勝つ気あるのかぁっ⁉」

「って言ってお前もカ〇ジ読んでんじゃねぇか」

「うぐ……ハマってしもうた……」


 とはいえ、時刻は20時。打たずにふらついては勇者と魔女の調子を覗いて数時間。迷惑客極まりないのは確かだ。


「ま、そろそろだな……魔王も沼編まで読んだんだろ、いくぞ!」

「お、おぅ」


 決着の時は近い、まずは現状確認から。

 一度勇者の遊技台へ赴き、出玉を確認する。現在通常時で出玉は16000発程。スマパチの釘も勇者は嫌いなようで、まともにチェッカーへ入っていない様子。


 リーチも7テンはなく、輝いていた勇者もいつもの見せ筋お兄さんに戻っていた。


 まぁ、魔力切れだな。


 ……そりゃそうだ、店内の運気すべて吸うなら悪運も吸うんだからな。閉店まで続くわけがない。とはいえ、俺を見て疲労を見せたくなかったのか、勝ち誇った顔でこちらへ嘲笑を向ける。


「お? なんだ、実力差に負けを認める気になったか?」

「いや全然」

「今から俺様に追いつけると思ってんのかぁ?」


 ……そろそろ狩るか。

 勇者からささっと離れ、適当にスマパチへ座る。正直気乗りはしないが、ここからが『風林火山』である。


「どどどどどうやって勝つんじゃ⁉」

「まぁ見てろって。動かざること山の如しってのはな、軽率に動くなってことだけど、勝機を見出したら迅速に動くんだよ」


 財布には十数人の諭吉戦友


 対価は払う。

 勇者を圧倒する究極魔法はここからだ――!



 ◇ ◇ ◇


 閉店時間も近づき、白銀シルバ含めた異世界者一向with俺は店外の壁際で配信していた。


「ではでは~持ち玉発表~!」


 ◯結局スミレちゃん打ってなくね?

 ◯脱衣謝罪か?

 ◯一向に構わんッッ!

 ◯そこはシルバでしょ

 ◯結果教えてー


「じゃあまずは、勇者様から〜!」


 営業スマイルのシルバからバトンを渡され、勇者が得意気に出玉のレシートを見せつけた。


「見ろ見ろ! 26527玉だ、ギャハハハハ!」

「ぐぬぅ、やはり途中で魔法が切れてもあやつ持ち堪えたぞぃ」

「うらやましいですぅ」



 ◯健闘してて草

 ◯釘にやられてたよなぁ

 ◯途中7テンしまくってたのは遠隔

 ◯ゴリゴリ削られてこれはまぁまぁ



「おらぁクソ弟子、さっさとみっともねぇ結果をほざけ!」

「さっさと負けを認めるデス!」


 ドヤ顔で勝ちを確信する勇者コンビ。もう自分たちが負けることなど想定していないらしい。


 恐れ慄け魔法に頼るパチンカスよ。

 1日という時間の対価を払った結末はお前たちを圧倒する。

 

 それが手元にある数字だ──!


「えー、墨乃スミレは……32500発、ですっ!」


「……え?」「……ハ?」

「32500発」

「なんて?」

「32500発」


 〇大勝ちで草

 〇え……いつ当てた?

 〇ふつうに勝っててワロタ

 〇スミレたんハァハァ

 〇やば


「う、嘘デス! あそこから3万発も出せるわけ――」

「いやぁ……我が立ち会っていたがちゃんと玉は出していたぞぃ」

「ほぅ…………」

「ど、どんな魔法使いやがったんだ⁉︎」

「ふっ、敗北を知りたい」

「よく言うわぃ、貸出ボタン連打しただけぞぃ」

「あ! それを言うなよ!」


 この前のリ〇ロの勝ち分と今日の軍資金全部突っ込んだんだぞ!!


「とんだイカサマじゃねぇか! なにが魔法だ!」

「あ? パチンコは打たなきゃ負けねぇんだよバーカ!」


 ◯クッソセコくて草

 ◯草

 ◯貸し出し連打は草

 ◯確かに玉は持ってたな

 ◯そもそもスミレちゃん玉あり

 ◯10万以上ぶち込んでてワロタw

 〇10万円分貸出押したってコト⁉


「そ、そ、そんなのルール違反デス!」

「あらら? 君たちルール忘れてない?」

「「え?」」


 視聴者のみんな、思い出してみよう。


『玉だ! 今日の終わりまでに多く玉を持っていた方の勝ちだ!』


 違う違う、その後。


『じゃあ、……でいい?』

『おう! ハンデくらい許してやるぜ?』


 大当たり回数でも、まして賞球とも言われてないからね。最後に玉多く持ってれば勝ちなら、ATMを動かせばいいんだよ。


 これぞ、風林火山。


「台からは出してるからな。出玉は出玉よぉっ! 視聴者ぁっ⁉︎ 墨乃スミレと勇者、どっちが勝ちかなー⁉︎」


 画面越しだしいいや、アイドルよろしくレンズ越しの紳士淑女へ問う。


 ◯墨乃スミレ!

 ◯スミレちゃん一択!

 ◯勇者の負け! 

 ◯スミレちゃんの勝ち!

 ◯勇者、お前の負けだ!

 ◯スミレちゃんー

 ◯圧倒的スミレ

 ◯スミレ大勝利!


 流れゆく勝利の判定。

 魔女シルバの結果よりも先に、勝敗は決したのだ。


「この勝負、スミレちゃんの勝ちだゾ?」

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉ」


 だから言ったじゃん。

 ルールは擦り合わせようなって。


 パチンカスにあるまじき究極魔法……パチンカス諸君ができてりゃ金を失うことのない最強の、至高の行動。それは──




 打たないッ!!

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