Round 16 中編・魔女によるパチンコ攻略法6『汝、閉ざされた杭を開く星なり』
「ふふふ……この程度で魔女を止められるとでも?」
沸き上がる笑みを押さえるように、魔女は口を隠した。負け惜しみ……ではないらしい。
「このガン締めの釘を突破できる魔法があんのかよ」
「えぇ……揺らすわけでもなく当たりを操作するわけでもありません。せっかくこの世界での魔法行使にも慣れましたし、ご祝儀がわりで広範囲に発動します」
緩やかに、銀髪の魔女は杖を取り出す。
「■■■■■■■■■■■■■…………」
今まで聞いたことのない言語を呟き、杖を構えた。
「我……制約に基づきこの世の理を変える者。栄光は民へ、代償も民へ、等価交換の掟において、この不条理を崩す理を敷く!」
天に向けた杖からまばゆい光が店内のパチンコ台へ拡散する。
「星よ! 天空に座す神々よ! 人々に与えられた苦痛に一筋の救済を! 栄光に導く橋を! そして可能性の扉を開け!」
え……なんかめちゃくちゃ派手じゃない?
「魔女の攻略法、秘術――『
「うおぉ、まぶしっ……!」
他の客には一瞬照明が強くなったように思えるだろう。刹那のフラッシュの後、瞼を上げる。
天井は闇に包まれ各台へ小さな光が降り注ぎ、パチンコ台へ溶け込み、盤上へ流れる球は星のように煌めく。
「さて、私のできることはここまで……今回は客
「打ち込むったって今の釘じゃ――」
「ふふ……自分の台をよく見ると良いでしょう」
いや、だから回らないんだってば……
ポン、ポン、ポン……
さっきまでのチェッカー部分はいずこへ。某掃除機よろしく、銀球は抽選穴に吸い込まれていく。
入ってる……!
アホみたいに球が入ってる……!?
――違う。何かおかしい。吸い込まれているわけじゃなくて、単純に入りやすくなってる。
抽選穴の真上、そこに座す釘達がさっきの光り輝いたパチンコ球によって外側へ開いていた。
この魔女……球で釘を攻撃させたのか!
球が釘を叩いて、穴までの道をこじ開けやがったんだ……なんつー力技。
「我々を苦しめるだけの釘など、球自身でこじ開ければ良いのです。これがこの世界で作り上げた秘術、『
う~~~~~~~~~~ん……………
アウトだろこれ。なにが秘術だ。
原理は分からんが、球が重くなったのか球の材質を変えたのか……とにかく、台の釘を無理やり調整したのである。
もちろん、周りも突然回転数が変わったことに騒ぎ始めている。だが例の如くエラー音はない。機械は魔法に無力。
その恩恵に預かっている時点で、あまり人のことは言えないが。
「ふふ、心配は無用です」
「だって、これ店が止めるだろ」
明らかにやばい、店内全部を巻き込んでるんだから。
「ご安心を……回転数は倍以上になりましたが、ここからの初当たり確率は通常の当たり確率よりもさらに3分の1に低下していますので」
「…………は?」
「唱えたでしょう? 『栄光は民へ、代償も民へ』と」
「え? 待って、ねぇ魔女様? はは、ちょっとタイム! ステイ!」
この台実質499分の1なのよ? 46分の1でも138分の1? ってことはそれが全部3倍の確率ってか?
実質1500分の1ッ!?
なにがご祝儀だ。とんでもねぇ呪いじゃねぇか。やばいぞ。
動こうにも他の台も埋まってるし……
「さぁ、己のヒキで栄光を掴みましょう……なに、大丈夫。
己の豪運を信じてやまない魔女は、いつも通りにハンドルを握る。変わったのはチェッカーに入る球の量。
「あーあーわあったよ、引いてやるよ! 引けばいいだけなんだからな! 俺のヒキ舐めんなよ!」
「そうそう、その意気ですよ。我が弟子」
……あぁ、そうか。
魔法の派手さで記憶が飛んでた。こいつは他人を魔法に巻き込むことなんて気にしてない。
ただ純粋に……パチンコの為に魔法を使う、
……パチンカスの魔女だった。
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