Round 6 聖女によるパチンコ攻略法1『ひとときの癒し』


 スマスロでの戦いを終えた翌週。


 この前は勝ったのに散々だったな……

 魔女とのノリ打ちで『墨乃すみのスミレ』として謎の動画デビューを果たしてしまったことは忘れよう。今日は孤独に勝負だ。


 やはりパチンカスは独りに限る。


「なににしようかなぁっと」


 見たところ奴らはいない。

 いや、そもそも気にするなら他所へ行け……という話だが、こちらが動くのは癪だ。今日くらいは平和に打ちたいもの。


「お……これにするかぁ!」


 とある台、オレンジの筐体が目印な超電磁砲レールガンの方だ。


 当たった後、さらに時短突破した後の爆発力が楽しい一台。何度お財布を助けられたことか……


「やっぱ出球に期待できないとな」


 欲しいのは球、そして溢れる脳汁。

 何より金。1人目の諭吉を投入。


「頼んだぜ、ゆきっつぁん!」


 面倒な演出は要らない、当たったか外れたかが分かればいい――

 だから大人の、パトランプモード。

 

 各当該保留ごとに画面上へ1~99の数字が表示される。表示された回数まで台のボタンが反応し、どこかで「キュイン!」となれば演出を見ずとも当たったかどうか分かる素敵システム。数字が大きければ大きいほど期待ができる(ただし、1や∞は確定で当たり)。


 ……問題は熱い演出でも音が鳴らないと激寒ってところ。


「当てればいいんだ、当てれば」


 二万円目を入れたところで当該保留の一つが『50』と表示された。画面に映る金色の文字など無視してひたすらボタンを連打。

 

 ――キュインキュイン! キュインキュイン! キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュイン!


 演出の音を遮るように脳汁溢れるパトランプが鳴り響く。これがたまらん。しかし安心することなかれ、この台の初当たりなんぞ挑戦権を得たに過ぎない。


 ――ミサカミコトボーナス!


 ここからが本番、確変に入れる為のチャレンジモードに突入する。通常時より確率は上がり1/163の当たり100回転で掴めば、本当の右打ちとなる。


 ――レールガンラッシュチャレンジ!


 問題はここだ。

 1/239をどれだけ引いてもここで突破しなければ雀の涙で終わる。勝負しとしてのヒキが要求される……から、この台は難しい。


 残り50回。

 画面上は10程度の寒い数字しか表示されず、リーチすら掛かる気配がない。遠隔である。


「当たんねぇ……」


 保留をすべて消化した所で一度手を止める。既に投資は1万と少し、ここでラッシュに入れないのは苦しい。何としても引かなければならない。

 まさに、『絶対に負けられない戦い』という奴だ。でもどうする? 魔女や魔王はいない、女騎士とその妹も最近見かけないし……


「……はっ、いかん!」


 心のどこかであいつらを頼ろうとしていた⁉ やめろ、いくら魔法があるにしても借りを作ったら碌なことにならない。やはりここは己のヒキで……!


「――まぁまぁ大変。貴方の台、疲れていますわぁ!」

「……あ?」


 大音量響く店内で、やさしい女の声色。ふと斜め後ろを振り向くと、修道服を身に纏った女が俺を見下ろしていた。

 茶――より明るいオレンジの髪に、丸い輪郭。ちょっと幼いように見えるが、なんとまぁ服装に似つかわしくない凶悪な胸部か。


 いやいや、そんなことはどうでもいい。


「台が、疲れてる……?」

「えぇ! 度重なる戦いで疲弊の気が見られますぅ」


 この時点で普通じゃないと察知した。恐らくあいつらと同業、もしくはそれに近いはずだ。けれどヤバいのは本当に心配してそうな顔で台を見ているから。


「いけませんよ、こんなに台を酷使してはぁ」


 疲れてんのはあんたの頭だよ……と言いたいところだが、『台を休ませる理論』は昔から少なからずある。もちろんオカルトだけど。それを見ず知らずの他人に宣う聖女様は相当にイカれているということだ。


「よろしければぁ、わたくしがこの台へ癒しの奇跡を与えましょうかぁ?」

「……え?」


 満面の笑みは邪心の余地など疑わせないほど純粋だった。


「その代わり……多少お布施を頂きますけどぉ……」


 金取るのかよ……いよいよキナ臭いが、こんなことを言ってくる輩は銀髪の魔女あいつのお仲間だろう。失った諭吉のためにも物は試しだ、巻き込まれてやる。


「じゃあ頼んますわ」

「承りましたぁ! ……では、聖女であるわたくしが、この台を癒してみせますぅ」


 ……聖女はパチンコ屋なんか来ねぇよ! 

 橙髪の女は胸元から銀色のアクセサリを取り出し、両手に握り締め、祈る。


「神よ……この無垢なる戦士に癒しを与えたまえ――!」

「まぶしっ」


 聖女様そのものから光が現れ、俺の台を包み込む。心なしか、台が綺麗になった気がする。さて、こんな訳の分からん現象で時短突破できるはず……


 画面上に現れたパトランプの数字は、「1」だった。


 ――キュインキュイン! キュインキュイン! キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュイン!


 たった1回転。

 癒されたらしい戦士は、さっそくその力量を発揮して時短突破である。


「……あんた、マジ?」

「これがわたくしなりの攻略法、『ひとときの癒しセイント・ヒーリング』ですぅ! その大当たりが終わったら……昼食をお布施代わりにいただけますかぁ?」


 ――ぐるるるるるるるゅうぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅ

 銀髪の魔女を超える腹の虫を鳴らし、聖女と名乗る危ない女は俺から昼飯をたかるのだった。


 パチンカスの魔女、パチンカスの女騎士(とガキ)、パチンカスの魔王と続き、パチンカスの聖女……異世界ファンタジーがパチンコに毒されている。どうしてどいつもこいつもパチンコ屋に来るんだよ!


「じゃ、じゃあ昼休憩ってことで」


 因縁つけられても仕方ない。

 運よく10R×2の当たりを当てて、俺と聖女様は一時退店するのであった……



 ◇ ◇ ◇


 参考機種:『P とある科学の超電磁砲』


 みんなも『とある科学の超電磁砲』、打とう!

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