Round 7 聖女はパチンコのハンドルを握ると性格が変わる
パチンコ屋併設の飯屋で、橙髪の聖女はラーメン、チャーハン、唐揚げ、うどんにもういっちょラーメン、餃子、を2人前ずつ平らげている。
ちなみに2回言ったラーメンは2人前×2回だからな!!
「ん~おいひぃですぅ」
「……当たりの出球より食ってない?」
せっかく2000発当てたというのに、騙された気分。
さっきまでの清廉なイメージは崩れ、食いしん坊な女の子が目の前にいた。
「数日前から何も食べてなくて、さっきの力が最後の
何も胃に入れてなくてよく脂っこいモノ食えるな。つーかお前、神職は肉禁止じゃねぇの……と、疑問は尽きないが聖女の食いっぷりに何も言えない。
「実は人を探してたんですけど、なかなか会えないんですよぉ。今日も見つからないなーと思ってたら、なつかしい魔力を感じて……」
「それが俺だったと」
「はい! あ、すみませーん! 餃子おかわり~」
まだ食うのか……
「あんたの探してる奴って、いかにも魔女って感じの銀髪の女か?」
「そうそう魔女ちゃんです! やっぱりお知り合いなんですね⁉」
「知り合いというか、同じパチンカスというか……」
いかん、注文した餃子が30秒と皿にいない。このままでは俺の軍資金が先に尽きる。
「も、もう充分お布施はしたろ。俺戻るぞ」
「あ! 魔女ちゃんのこと教えてくださいよ~!」
◇ ◇ ◇
「あのパチンカスがどこにいるかなんて知らねぇよ。打ってるうちに来るだろ」
「打つ……? だ、ダメです、聖女が賭け事なんて! 見てる分には構いませんが……」
「人の台に細工はいいのかよ……」
「わたくしは苦しむ貴方に施しを与えたに過ぎません」
その苦しみは俺の自業自得なんだが……?
この修道服姿でうろうろされても面倒だ。会いたくないが、打ってればそのうち魔女か魔王が来るだろ。
「じゃああんたもこの苦しみの本質を知らないとな」
我ながらめちゃくちゃな理論を展開させ、聖女を隣に座らせる。そして泣く泣く軍資金の諭吉を聖女の台へ投入。さらば諭吉。
「い、いけません! こ、こんな――――」
「まぁまぁ、当てられたお礼だから……」
……思えば、
パチンコ店にいながら打ってなかったのは文無しだったからなのだろう。そして賭け事など良くないという一般的常識を持った聖女……いや、常識に抑圧された聖女が座るとどうなるかというと……
「んほぉっー! また当たっちゃいますぅ~!」
絶頂顔で大当たり。
魔女が『静』のパチンカスとするなら、この聖女は『動』のパチンカス。ビギナーズラックか知らんが、バカツキだ。俺と同じ台を簡単に当てて時短まであっという間に突破しやがった。
「ふぉぉぉぉぉ2000発ゥッ!」
「ちょ、ちょっと聖女様。声がでかい……」
そして、まるで運を吸い取られるように、俺の台は毎回100回のチャンスを半分切ってしまう。その度にこの聖女様は『
そして、パチンカスの生態として厄介なのは……残り回転数が少ない程当たった時の脳汁放出具合は多い。それは聖女様も同様で……
「んふおぉぉぉぉぉ! ついに3000発引いたァッ!」
自分の台まで回復させて、ヘヴン状態なのだ。
車のハンドルを握ると性格が変わる人間の話はよく聞くが、パチンコのハンドルを握って性格が激変したのはこの聖女くらいじゃないか?
人間抑圧されたモノを解き放つとこうも変わってしまうのか……
「くわばらくわばら……」
俺はというと連荘こそしているものの、ヒキに負けて少ない出玉割合を引き当て続け、とりあえず投資分は回収してちょっとプラスになった程度……負けてない分マシではあるが。
「んひぃぃぃぃぃい! これで20連ゥッ~!」
これは沼にハマってしまったかも。ちょっと悪いことしたかなぁ。
少なくなる残り回転数を眺めながら聖女に怯えているとひんやりとした気配が背後にやって来た。ご存じ白銀シルバ――ではなく、銀髪の魔女である。
「……馴染みのある声かと思えば、聖女のあなたまでこちらに来ましたか」
「ふぉぉぉ、お? ま、魔女ちゃん⁉」
「やっぱり来たか……」
ようやく解放される。親切心で一緒にいてやったがヤバい奴に関わっちまった。
「そうですか、貴方もパチンコに染まりましたか」
「ち、違うの‼ この方に無理矢理触らされて……!」
「言い方よ」
「ふふ……なに、責めているのではありません。魔王と戦うまでのあなたは己を律し過ぎて欲望の限界でしたから」
察するに、いろんなもん我慢してるタイプだろうなとは思ったが……
「これからは思う存分パチンコを打つと良いでしょう」
「……うん!」
間違っても仲間の友情が美しい場面とか、そんな感動的な状況ではなく。魔女が聖女をパチンコの沼に引き込んでいる絵面である。
「共犯者もいることですし」
「それってもしかしなくても俺?」
「弟子として良い働きです」
片棒どころか原因なので否定もしきれない。
――ぐるるるるるるるゅうぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅ
「ま、魔力切れですぅ……」
再び空腹に見舞われた聖女の腹の虫で回復はストップし、お互いの確変は呆気なく幕を閉じた。
「では、魔力補給に行きますか」
「え……」
「賛成ですぅ!」
「では行きましょう……祝勝会へ!」
もしかして……これ俺持ち?
つーかこれ、まだ続くの⁉︎
◇ ◇ ◇
現実で魔法は使えませんが、確変で残り回転数が半分になったら台を休ませましょう。当たる確率が上がります(嘘)。
次回は実践お休み、焼肉回。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます