食事休憩 勝った後は焼肉と決まってる(もしくは寿司)
「ではでは、聖女であるわたくしの初勝利を記念してぇ~……」
カンパ~イ!
4人でジョッキを突き合わせ、晩飯の焼肉が始まる。パチンコで勝った日は焼肉と相場が決まっているのだ。
「だぁっ〜はっはっは! やはり打った後は酒に限るのぅ!」
「んぅ~、身体に染みますぅ」
「パチンコに酒って……聖職者として大丈夫なのかぁ?」
「これは純然たる魔力補給です、ご安心を」
と言いつつ魔女が牛タンを焼いていく。
めちゃくちゃ自然に焼肉奉行してんなこいつ……
流石に焼肉屋だからか、帽子を脱いでいるその姿は見た目だけならクールレディだ、見た目だけなら。
しかし魔王の奴まで来るとは思わなかったぞ。つーか、同じパチ屋にいたのかよ……
「でも変だよな。聖女様は初めてのパチンコなのにもう攻略法考えてたんだろ?」
「うぇっ⁈ そ、それは……自分ならどうやって遊ぼうかな〜と思って」
あのね、パチンコで魔法を使ったらダメなんだよ。
「あの場に魅入られた者はもう逃れられんのぅ」
「素質あり、ですね」
「褒めてないよなそれ……」
ツッコミも虚しく、魔女と魔王は注文した肉との対話に集中。
「でもよかったぁ〜、魔女ちゃんと魔王さまに会えたならもう大丈夫ぅ」
「大丈夫っつうかさ、魔女ってもともと魔王倒しに行く予定だったんじゃ……?」
真剣な顔で何を言っているんだろうか、俺は。ちょっと恥ずい。この前は気にしてなかったが、考えてみれば敵同士が卓を共にしていることになる。
「争う理由がなくなったので戦わなかった、それだけです」
「今じゃパチ仲間じゃな!」
ファンタジー壊れる……!
「聖女こそ、事後処理を頼むと我と魔女が頼んだであろうに。あの金髪姉妹と国へ帰ったんじゃろ?」
澱みない動きで魔王は酒の追加注文。同時に網上でほどよく焼けたカルビを5枚分捕り頬張る。俺の育ててた肉が……!
金髪姉妹っていうと、あのガキと女騎士か……どっちも素質はあったよな。
「そ、そうなんですけどぉ……勇者さまが生きてたんですぅ! お二人を探してるんですよぉ……むぐむぐ」
話が見えない。
しかしパチンカスにはどうでもいい話である。聖女は聖女で会話をしながら魔女からパスされた肉と、白米をひたすらかきこむ。
「あのクズ、まだ生きていたのですか」
「生命力だけはピカイチじゃなぁ」
会話は続いているが、網の上も同じく展開する。カルビで黒焦げの舞台を取り替え、お次はロース肉。魔法陣よろしく、魔女が丁寧に焼いてゆく。
「ひでぇ言い方、勇者っていい奴なんじゃねぇのかよ」
「とんでもない。この世界で例えるなら、勇者と書いてクズと呼びます」
「実際、実力も女騎士以下じゃったしの」
散々な言われようである。
いい焼け具合の肉を2枚掻っ攫う。勝利の味、うまし。
「それで、勇者さまは裏切られたから征伐に向かうってこちらの世界に行っちゃって……」
「警告ついでに後を追ってきたと」
「う、裏切った? お前らまさか……」
「勘違いするなよ兄弟子ぃ。裏切ると言っても魔女たちは辺境の地に放置しただけじゃ」
魔王はロースをサンチュで丁寧に包んでひとくちでがぶり。うまそうにくうなぁこいつ。
「我はもともと戦う気なぞなかったのに、勇者の奴が勝手に騒いだだけじゃ。そもそも魔女が1度この世界に飛ばされたのも、勇者の仕業だしの」
なんだろう、勇者の言われように同情できなくなってきたぞ。
「魔王討伐で自分より強い女が目立つのが気に食わなかったんじゃろ」
「まぁ、私は最強なので」
「この通り、勇者に花を持たせるような思慮深い性格でもないからの! だぁーはっはっは!」
他人事のように魔王はビールを呷る。
ええと……魔王討伐で1度魔女は勇者に嵌められてこっちに来てパチンカスになり、もう1度戻った後魔王と結託して勇者を裏切った……
話だけ聞くと相っ当嫌われてたんだな、勇者ってやつ。
「旅の行く先々で女性トラブル、私から金を借りては返さない、魔物退治は我々任せ、私から金を借りては返さない、全ての手柄は自分のモノ……勇者とはそういう生き物です」
結構金銭トラブルがあんのね。
勇者の生態の講義と一緒にソーセージや鶏肉、豚トロが召喚された。俺、牛肉がいいんだが。
「お触り大王、なんて言われてましたよねぇ」
「ホントに勇者かよ」
「事を終えたら面倒になったので、休暇を兼ねて魔王とこちらへ戻ったのです」
「いやぁ、飯はうまいパチンコは楽しい! こんなに居心地の良い場所はないぞぃ」
競馬と競輪と競艇教えたらハマりそうだな、魔王……どこのオヤジだよ。
当初の会話を思い出したのか、聖女は慌てる。
「そ、そうです! だ、だから! 勇者さまに見つかると危ないんですぅ!」
「問題ないでしょう。仮にこの世界まで追ってきたとしても魔法はまともに使えない、剣を抜けば国家権力に捕まりますよ」
警察に負ける勇者とは……?
幼い頃遊んでいた勇者像が崩れるぞ。
「むしろ私たちと同じ賭場に現れないでほしいですね。魔法研究の邪魔です」
「パチンコしたいだけだろ……」
ツッコミは華麗にスルー。その手は滑らかに追加注文のホルモンを炙る。そして全員ホルモンを口に運ぶと、網の上の油が焼ける音だけ残る。
(こいつら結構食うよな)
華奢な見た目の割に(聖女以外)、肉以外にも冷麺ビビンバクッパに山盛りの白飯などなど……半端な食欲じゃない。
魔法を使う奴は大食漢なのか。
「さて、次は何を頼みましょうか」
「黒毛和牛を食べるぞい!」
「わたしはにんにくホイルとベーコン!」
「お前らそんなに食って会計大丈夫かぁ?」
太るぞ、とは言うまい。
「おや、聖女の純潔を奪った男の言葉とは思えませんね」
「え?」
「兄弟子ぃ〜、他人の魔法を利用したら高くつくのはこの世の常だぞぃ〜?」
「え? え?」
「わたくしのこと、利用するだけして捨てるつもりだったんですかぁっ⁉︎」
……やられたッ‼
なんかおかしいと思ったらそういうことかよ。
「魔法の対価は払わないと酷い目に遭うぞぃ〜」
「やり捨ては見過ごせないですね」
「……ちょっと待て! 聖女の分をお布施として払うのはわかる! お前らたかりについて来ただけだろ!」
「「……チッ」」
いま舌打ちした!
……つっても、聖女をパチンコ沼の片足に押したのは事実か。仕方ない――!
◇ ◇ ◇
「ありがとうございました〜」
「勝ったどころかむしろマイナス……」
たらふく食ったというのに、魔女も魔王も聖女も元気である。結局、朝パチ屋に行った時より財布は軽くなってしまった。
「ごちそうさまでした〜」
「羽振の良い男性は好きですよ」
「持つべきものは奢ってくれる兄弟子じゃな!」
「……いい性格してるよお前ら」
やはりパチンカス、侮りがたし。
「わはー! 夜はこれからじゃー!」
「魔王さまぁ、走ったら危ないですー!」
酒で出来あがった魔王が夜道を駆ける。とてもファンタジーの存在とは思えない、ただの酔っ払いである。
「安心しました、あの場で対価を払わないと貴方が呪われましたから」
「どうせ払わなくても魔法で分捕っただろ」
きっちりデザートまで食いやがって。
「まぁ心外! 異世界から迷い込んだ女性にはやさしく接するものですよ!」
「うるせぇよ白銀シルバ」
「おや、効きませんか」と、魔女は演技を即やめ。
「ともあれ、魔法を利用するなら対価が必要です。お忘れなきよう」
「……お前、何回か俺を巻き込んだよな?」
「…………夜空が綺麗ですね」
スルーかよ!
「見ろぉ兄弟子ぃ! バク転しながら縦断するぞぃ~!」
「わたくしもいきまぁ~す」
「あーもーめんどくせぇ……」
「そうそう、ひとつ忠告を」
「あ……?」
魔女はゆっくりと歩き出し、俺を追い抜く。
「見るからに『勇者』っぽい人物がいたら距離をとることですね。碌なことになりませんから」
「それ……お前が言うか? 大丈夫だろ、そんな奴に会うワケないっつーの。だぁーっはっはっは!」
「金保留並みのフラグを立てましたね……」
勇者がパチンコ屋なんか来るかっての!
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