Round5 1日打ちっぱなしは体力勝負


 一見完璧に見えたスイッチ魔法。

 しかし、

 

「だぁー! 今のはもっとサッと入れ替われよ!」

「離席がもたついているから失敗したのです」


 二人の息が合っていないと肝心の効果が出ないのである。

 俺達はキ〇トとア〇ナではない。剣士でもなければ2人ともただのパチンカスなのだ。


 そうこうしている内に継続を賭けたボス戦に敗北してしまった……

 そもそも「スイッチ目」自体が確率で引けるもので、今日俺達はそのヒキが極端に弱いらしい。

 当たっては2~3連で負けを繰り返す。


「スイッチ目を完全攻略するって発想は悪くないかもしれないけどよー、こんなもんあらかじめ練習してないとダメだろ」

「以心伝心してこそ弟子でしょう?」


 無茶苦茶な理論である。

 こいつと息が合った試しなどないんだが。 


「おや、資金が消えましたね。カメラマンさぁん! 追加投資ですよ~」

「もうキャラ崩壊してんぞ」


 と言いつつ我が軍の諭吉を一人生贄に捧げる。

 どうやら魔女の様子は視聴者もそれは織り込み済みだったようで。



〇 キャラ崩壊待ってました!

〇 案の定ブレブレで草

〇 低設定だろこれ

〇 そもそもスイッチ目でスイッチする意味とは……?

〇 カメラマンさんかわいい

〇 シルバちゃんがんばれ!



 ……おい、何か変なこと書いてなかったか?

 スマホで配信の様子を確認していたが、肝心のチャット内容はすでに流れてしまった。


 登録者10万人の『白銀シルバ』という名前を発見した時はさすがに驚いた。こいつ何やってんだ……魔法なんて動画配信して大丈夫なのか?


「大丈夫ですよ~この配信見ていた人間は終了後に記憶が飛ぶ魔法をかけていますから~」


 キラっ! とピースサインをする魔女。


「ほら! またレア役来ましたよ!」


 通常時のヒキだけはやたらいい魔女。おかげで展開に飽きがない……が、いい加減大きく伸ばしたいところだ。



 ◇ ◇ ◇



「スイッチ‼」

「あいよっ」


 3万も使えばそれなりに魔法へ順応してきまして。スイッチ目開始時には魔女と一言でスイッチできるくらいには動ける……ってところでボーナス後のボス1戦目を突破。時刻は昼過ぎ、立ったり座ったりを繰り返して疲労感がじわじわと身体を蝕む。


「ちょっといい加減疲れてきたぞ」

「ようやく慣れてきたところです、このATで伸ばしますよ」


 強行。

 そういえば1日打ちっぱなしでもこいつ休憩してるところ見たことがないな……生粋のギャンブル狂と言っても過言ではない。



 諸君はもうお分かりかな?

 マイナスで先の分からない状況、二人でないと発動できない魔法『前衛は任せたスイッチ・オン」、そしてこの魔女のストイック狂ったスタイル。


 今日は休憩なんてないのだ。



 ◇ ◇ ◇



「はぁ……はぁ、すいっ……ち」

「お、おぉ……っ」


 瞬発力の要求される席の入れ替え、それがスイッチ目の度にあるってことはどういうことかわかるかい?


 疲れるんだよッ!


「もう疲れたぁっ!」

「ま、まだ19時ですよ……‼︎」


 完走したものの、納得いかなかったのか魔女は実践継続。コンプリート機能が発動していないので、まだ打てるが。


「もう、完走したし……いいじゃねーか」

「ま、まだ、ま、魔法の検証が、不十分なのです……」


 ゼェハァ息切らしてパチンコ屋で口にするセリフか……? 

 もうスイッチ目で有効ってのはわかったじゃねーか。こんなぶっ通しの配信、見てる奴……



 〇視聴者2000人


 〇まだやってて草

 〇完走した?

 〇おめでとー

 〇カメラマンさんかわいい

 〇オカルト打法でも勝てるのか

 〇休憩して~


 

 今度は見逃さなかったぞ。なんだよカメラマンさんかわいいって!

 『普通のお兄さん』だぞ!


「シルバさんよぉ、俺にどんな細工したんだよ」

「はぁ……え? あぁ、気になるなら配信で貴方が打っているところを見てみるといいですよ」


 敢えて言わない。

 そういえばライブ配信の魔女が打つところは覗いてたけど、俺のパートは……


『シルバ、スイッチ‼』

『お任せを』


 席を入れ替わる寸前、

 黒髪の女の子が俺達の台を打っていた。


「……シルバちゃ~ん? これどゆこと?」

「何言ってるんですかちゃん!」


 疲労困憊の顔で魔女は知らない女の名前を呼ぶ。どうやらカメラマンらしい。カメラマン(仮)は男の俺である。


「要するにカメラ越しのバ美肉ですね……現実世界ですからが付くのは少し違いますが」


 ……知らない間に俺は美少女化TSされていた。


「実は、今日カメラマン兼一緒に打ってくれたのは友達の墨乃すみのスミレちゃんっていうんだ~、覚えていってね!」


 何とも不思議だ。

 ここにいる俺は確かに男なのにレンズ越しには儚げながらも銀髪の魔女に荒っぽい口調で喋る女の子。


「え、マジ?」

「マジです。本気のほの字もだしていない初等魔法ですが――」


 ぎゅるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ


「ふぅ……魔力切れですね」


 スロット台の音量を凌駕する腹の虫が魔女から鳴り響く。轟音と言っても差し支えない。カッコつけてクールな顔を装っているが、要するに身体が限界ってことだ。そりゃ1日打ちっぱなしは体力要るよな。


 こいつの場合は魔力もだけど。


「あーお腹空いた。みんなー、ここまで見てくれてありがと~! 今日はこれで実践終了で~す! ご視聴ありがとうございました~」


 カメラに向かって軽く挨拶を終えた魔女が、俺を小突く。


「スミレちゃんも挨拶を」

「えぇ……はいはい、あざしたー」


 〇2人ともおつかれ~

 〇スミレ雑で草

 〇オカルト面白かった!

 〇スミレちゃんかわいい

 〇オカルト打法おつ

 〇美味しいモノ食べてね


 こうして対スマスロ魔法の実践は幕を閉じた。

 結局投資額は4万ちょい、回収と照らし合わせると500枚くらいのプラスだ。そしてノリ打ちなのでひとり250枚くらいの勝ち。


 あれだけ『スイッチ‼』したのに……!

 しばらくノリ打ちはいいかな。



 というより、これはノリ打ちではない気がする。


「また一緒にノリ打ちしようね、スミレちゃん!」

「勘弁してくれ」


 あと……かわいいって言われるのは変な感じ。ムズムズした。



 ◇ ◇ ◇


 『スマスロSAO』面白かったです。

 次回は少し間が開くかも。

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