Round 7 偶然! 全部偶然なんです!!


 揺れる台、前後にふらつく銀玉。


 プレス役物などお構いなしにクルーンへと向かっていく。


「おいおいおいおい! 台を揺らすのは反則じゃねぇか⁉︎」

「ユラス? ワターシニホンゴムツカシイ」


 急に外国人タレントよろしく、銀髪の魔女はとぼけた。というか難しいこと言ってねーよ!


「なんとこの魔法、パチンコ台にのみ地震を起こすことができるのです」

「なぁにが偶然だよ、ゴトもいいとこじゃねぇか」

「ノンノン、攻略法と呼んで頂きたい」


 まぁ確かに、手で直接台を揺らしているわけでもないから証拠はない。


 ひとりでに震えていた台の下、タコのクルーンにはパチンコ球が複数侵入、揺れまくる台はお構いなしに抽選穴へ引き込んだ。穴の大きさの差異など揺れの前には無力だ。


 ……その刹那、魔女の台。その液晶にでかでかと映っていたパトランプがけたたましく「キュインキュインキュインキュイン」と脳に直接響く快音をかき鳴らした。


 アイサレツヅケテヨンジュウネン〜!


 虹色に光るガラス。何か思い出したように銀髪の魔女はこちらにガッツポーズを取る。


「抽選自体は私のヒキによる当たりです! 確率操作ではありません」

「前、その前!」


 振動検知は作動せず。

 ぶっ壊れてんだろこれ。


「頭の固いことで…………ん、貴方の台にも動きがありますよ。図らずも巻き込んでしまいましたね」


 どうやら揺れの魔法に巻き込まれて運良くクルーンを突破したらしい。演出はなにやら最初から騒がしい。


「……あ、これ熱いやつ」


 赤演出、赤文字と順調に動き、チャンスアップ演出、そして


 当たった……!


 アイサレツヅケテヨンジュウネン〜!


「みたか魔女! これが実力じつりきよぉ〜!」


 穴にはいったのも偶然だ、偶然。俺の運。


「まさかここまで私と張り合うとは……やりますね、貴方」


 なんだろう、思ってた反応と違う。

 

「しかし魔女たる私のヒキについてこられますか? この台はここからが勝負」

「あ? ガキん時からコンポタ派の俺に台が応えないわけねーだろ」

「ふふ、所詮サラダ派には勝てませんよ」


 この台は右打ちになると計4回の抽選があり、2分の1で当たり。6000発もらえるチャンスがあるわけだ。


「お得意の魔法は使えないぞ」

「問題ありません。私のヒキは最強です」


 ……その自信はどこからくるのやら。

 いざ右打ち! と思いきや背後に人の気配。


「お客さ〜ん、店内での魔法の使用はこまりますねぇ」


 やば、ついに店員が来たか!?

 しかし振り返った先、そこには隣のパチンカスの魔女よろしく黒いローブ姿の金髪の女が立っていた。


「やっと見つけた、さぁ帰りますよ」


 銀髪の魔女と同じく黒のとんがり帽子まで被っているが、金髪のツインテールを下げている。小麦色の肌は血色が良く、この場にそぐわぬ健全さをアピール。そしてローブ越しに分かるほど突っ張る胸部……


 顔は整っているものの、丸みのある輪郭はどう見ても賭場に入れる見た目ではない……気がする。


「これあんたの知り合い?」

「ワターシコンナヒトシラナーイ」


 もういいってその外タレのマネは。

 なんて言ってたら1回転目を外してしまった。さらば1500発。くそ、この金髪のせいだ。


「とぼけないでよね! さっき地属性の魔法を感知したんだからっ!」

「パチンコ屋に来る歳でその発言は痛々しいな……」


 静かに杖振る方がマシに思える。

 ……マシなだけだが。


「こっちの世界に飛ばされたっていうから心配してきたのになんで遊んでるの⁈」


 アイサレツヅケテヨンジュウネン〜!


 金髪女の声は素通り。俺たちは2回転目をお互い当てる。ようこそ1500発君。


「貴方、ひとつ間違ってますよ」

「え?」

「これは遊びではありません──本気マジです」


 うーん、この依存症パチンカス

 もう手に負えないな。


「そんな球遊びのどこが本気なのよっ!」

「おいおい、球遊びとは失礼だな。金増やしに来てんだよ」


 ※ パチンコは遊戯です ※

 お金は特殊景品を偶然買い取ってくれるお店が近くにあるだけです。偶然。


「な、なによ……あんた」

「この男は私の弟子です」

「「弟子ィッ⁈」」


 金髪女とのハモりと同時に3回目の当否が始まる。当たりのお菓子棒う〇い棒に止まれば当たり。


 俺は当たり、コスプレ女は外れた。


「ちょっと、あんたどういうこと⁉︎」

「やめろ! 大当たり中に邪魔すんな!」


 こぼしたら損なんだぞこの台は。


「私になにか質問したければ、この男を倒してからにしてもらいましょう……パチンコで」


 そこは魔法じゃないんかい!

 名前も知らないやつに弟子認定された挙句訳のわからん勝負に巻き込まれた。


 逃げねば……

 でもまだあと一回抽選が残ってるゥッ!


「ふん! 魔法さえ使えばこんなオモチャ楽勝でしょ」


 あんまり後ろに立たないでほしいなぁ、気が散るから。


 4回目の演出。

 コスプレ女は先に当たりを消化している。対して俺はシューティングゲームを模したリーチ……が無惨にも外れた。


「おめぇのせいで外れたじゃねーか!」

「こんなの球が入った時点で決まってるでしょ⁉︎」

「気合いの問題なんだよ」


 結局話はうやむやのまま解散したが……これ、もしかして金髪の奴とパチンコすんの?


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