Round 4 魔女によるパチンコ攻略法2 『時間逆行』

 

 一週間後の休日。


 軍資金を財布に詰め、いつものパチンコ店へ赴くと、銀髪のコスプレ女が既に座っていた。


「あ」

「貴方でしたか、先日はどうも」


 魔女とやらも俺の狙い台に座っている。そして仕組まれたように奴の隣しか空いていない。


 筐体右側に紫色のデカい顔初号機が付いた人気台。左手でも遊戯できるスマートハンドルなる親切設計。実は今日が初めてである。手首に負担が掛かりにくそうで助かる。


「お得意の魔法は使ってんの?」

「いえ、これに『風の絨毯インビジブル・ロード』を使っても確変で苦戦するので……今日は自力で引きます。本気マジです」


 なぜここまで熱くなっているのか。その熱意と魔法とやらを別の何かにするべきではなかろうか。


 っていうか、お前最初に無理やり当てたろ。


「魔法で強引に当てるには燃費が悪いのです。それで確変を引いても攻略に必要な魔力が足りません」


 うわ、心読んできやがった。

 席も埋まっているのでコスプレ女の右隣に着き、財布を開く。

 

「言ってろ厨二病。さてさて頼みますよっと……」



 諭吉一人目。



 案の定当たりはない。

 二人目の諭吉を戦場へ。


 と、女の台右側、先読みの演出が始まり当該保留でメインヒロインのイラストに映像が一面に現れる。


「ふふふ……来ました」

「……」


 今のところ魔法とやらのインチキはない。演出が順当に進み、巨大な敵と戦うリーチへ。演出も金色が絡んでいるところを見ると……


「運命は決しています。これは当たりです」


 ……パチンコ屋の独り言なんてよくあることだから無視しておこう。


 と思っていたら数字が「333」と揃った。確変かよ。

 羨ましく思いつつ自分の画面を見直すと、自分のもリーチに入る。


「ふふふ、お先に……」

「あーはいはい、おめでとさん」


 気持ちの籠っていない返し。自分の台から視線を逸らして天井を仰ぐ。

 そうしていると、画面には「222」と数字が揃った。


「えっ!?」


 思わず尻が浮く。すると隣のコスプレ女が静かに微笑む。


「良かったではないですか」

通常チャンスタイムだけどな」


 ここから確変を目指さなければならない。可能性があるだけましだが。


 気合入れよ。

 

 魔女とは異なり、玉を打つハンドルを握る力は増える。

 ……と意気込んでいたのだが、


「何も起きねぇ……」

「…………」


 残酷にもリーチすら掛からず、チャンスタイムは30を切った。途中台を休ませるオカルトをするが変わらず。隣の女も確変が残り10を迎え何も起きない。


「うぅ……やっぱなにも起きねぇ!」

「そろそろ攻略法を使う時ですね」


 女はハンドルから手を離し、左側の袖から杖を引き抜いた。


「おいおい、無理矢理当てる気かぁ?」

「いえいえ……せっかくの確変、楽しめないのは損――!」


 杖を一振り。

 視界が揺らぐ。ぐにゃりと歪んだ視界に、思わず目を閉じる。


「……な、なんだったんだ……?」

「ふぅ、これでです」


 ……は? 何言ってんだコイツ。

 コスプレ女は何のためらいもなく再びハンドルを握る。あと10回で何ができると……


【残り160回】


 は!? 


「おや、貴方も巻き込んでしまいましたね……まぁ、せいぜい頑張ってください」

「は? ぇ……うそっ!」


【残り100回】


 確変までのチャンスタイムの残り回転数が復活していた。おいおいおいおい! この台リ◯ロじゃないんだぞ⁉︎


「これが魔女による攻略法その2……『時間逆行リバーサルワールド』。私に選ばれた台が、単発駆け抜けなど許しません」


 こいつ……時間を巻き戻したのか!?


 ありえないはずの現象。しかし目の前に映る画面がそれを肯定していた……


 

 ◇ ◇ ◇


 参考機種:新世紀エヴァンゲリオン~未来への咆哮~

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