Round 21 勇者によるパチンコ攻略法『災厄の7』



 俺が勝負するかは置いといて、入場後しばらくは各々好きにパチンコを打ち始めた。勇者側は続けて灰髪の魔女がカメラマンを担当して、こちらのパチンカス三銃士は墨乃スミレがカメラマン代わり。


「魔力がなくなったところで私のヒキがなくなったわけではないので」


 シンフォギアァァァァァァァァッァァァァァァァッァ


 淡々と、シンフォ〇ア3の最終決戦をサクッと突破する魔女。魔法がなくともヒキが強いのは変わらない。


「じゃの~我も今日の番号から期待しとらんかったし」

「まったり打ちですぅ」



 〇勝負してなくて草

 〇この子たちだけ映してておk

 〇男いらん

 〇スミレちゃんはいるだろオォン⁉

 〇オトメちゃんでっっっっ!



 聖オトメ聖女に対するコメントはさておいて……俺へのコメントは相変わらずおかしい。


「シルバさんよぉ、俺のこと男だってちゃんと視聴者に伝えてる?」

「無論です」

「わかったかお前ら、墨乃スミレは男だ」



 〇わたしは一向に構わんッッ

 〇わたしは一向に構わんッッ

 〇わたしは一向に構わんッッ

 〇わたしは一向に構わんッッ

 〇わたしは一向に構わんッッ

 〇わたしは一向に構わんッッ

 〇わたしは一向に構わんッッ



 なんでだよ⁉

 

「うぉいっ! いつになったら勝負すんだよ⁉」

「まだ言ってる……」


 端で実践していた勇者が叫ぶ。

 戦う理由もなければ、勝った所で何の得にもならん勝負をする気にならない。っていうよりもとっとと俺にも打たせてくれ。


「いい加減にしねぇと、失うのは魔力だけじゃすまないぜ?」

「うっさいのぉ、そんなに構って欲しいのか?」

「あわわ〜魔王様勇者様を煽ったら……!」

「魔力を奪われた程度で騒ぐ我々ではありませんよ」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!」


 煽る魔王にパチ打つ魔女シルバ

 痺れを切らしたのか、勇者はついにマジで怒り出し、剣を抜いた。


「……ヘッ! 寛大な俺様の提案を無視したことを後悔させてやるよ」

「魔力を奪ったうえでまだ何かするのですか?」

「くっだらねぇお遊びはここまでだ! お前達が二度とこのお遊びができないようにしてやる!」

「まさかハンマーおじさん?」

「誰がおじさんだ誰が!」


 あぁそうか、異世界の人間だからこのネタ通じないか……やっと異世界人らしさを実感した気がする。

 

「おい灰の魔女! 魔具を貸しやがれ!」

「ハァ、ようやくデスか……」



 ◯男を映すな

 ◯一瞬誰か見えた⁈

 ◯カメラマンじゃね?

 ◯見せ筋やんけ

 ◯オトメちゃん出せよ



 コメント欄も散々である。

 灰髪の魔女が勇者に魔力を奪った水晶を渡すものの、その光景にもシルバ達は動じない。


「止めなくていいのか?」

「今は止める力もないなので」


 聞き慣れない単語に背筋に悪寒が走る。総毛立つとはこのことか。


「ゴラァッ! こっち見ろこっちを!」

「あーもう勝手にやってていいから」


 もったいぶらずに早くやって欲しい。

 

「聖剣よ、我はこの世全ての幸福を統べる者。我はこの世よ全ての不幸を払う者……」


 パチンコ台の前で剣を構えて唱え始めるのはなかなかにシュールである。シルバ達に至ってはもう画面しか見ていない。


「福音を奏でる数の権化よ、我に従いその命運を我に授けよ──!」


 水晶を天井に投げ、勇者の聖剣とやらがそれを突き刺す。粉々に砕けた水晶は店内に輝く。


「ギャハハ! 受けろバカ共、の運を俺様に寄越しな! これが俺様の最強魔法だ──発動せよ『災厄の7カラミティ・セブン!!』


 刹那。

 銀髪の魔女たちも含め、ほぼ全台埋まっていた各パチンコ台に座る人間から、謎の光がぽわりと浮かび聖剣を握る勇者の下へ集う。その光を纏う勇者は、見た目だけならまさに勇者……


 これがパチンコ屋じゃなければなぁ……


「イメチェンかの」

「眩しいですぅ」

「ほざけ! 最強魔法の力を見せてやる!」

「ヒヒヒ、先輩……今日こそ勇者にひれ伏すのデス」


 ただ光ったわけじゃ……ないよな?


 行く末を気にしていなかった魔女の台が騒がしくなっている。


 7 7


 7テンだ。右打ち中ならほぼ確実──


 7 8 7


「は……?」


 魔女が狼狽える前に、俺の口から漏れていた。右打ち中の7テンが、ハズレた?


「うぉっ⁉︎ 7テンじゃ」

「こちらもですぅ」


 それだけじゃない、周りの台全てが7テンリーチしている。そして……


7 8 7

7 6 7

7 1 7


「はぁっ⁉︎」

「うっそだろ⁈」


 その悉くが、当たりをハズす。

 どんなに信頼度の高い演出も、金色の文字も意味を成さない。


「ヒヒヒ! 台を攻略すらなんて無意味! ボクの考えた魔法は勇者によって昇華されまシタ!」

「オラオラァッ、てめぇらの運を寄越しやがれ! ギャハハハハハハハハ」


 さすがの魔女も予想外だったのか、面食らった顔で2人を見やる。


「まさか……店内の人間から運気を吸い取ったのですか……⁉︎」

「そうだッ! ちまちまと一台を攻略する魔法なんて馬鹿だぜ。俺様が奪ってやる! 強化した運で当てまくってやるぜぇ!」


 ハンドルを握った勇者の台はすぐに7テンリーチを起こし、意図も容易く当たりを迎えた。


 最強魔法どころの話じゃない……これはもうパチンカスにとって災害だ。


 

 ◯ヤバすぎて草

 ◯客トぶぞ

 ◯もー勇者はいいから

 ◯スミレたんを映せぇ! 

 ◯シルバ外すの珍しくね?

 ◯マオちゃん目が死んでてワロタ

 ◯とりあえずオトメちゃんのオトメちゃんを出して


 配信越しではわからない店内の絶望。

 今ここに、パチンコ屋は勇者の独壇場となってしまった……



 ◇


 参考機種:PF戦姫絶唱シンフォギア3黄金絶唱

 勇者が魔法を使わなくても、3はそもそも釘が……

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