食事休憩 墨乃スミレちゃん再登場(期待度:☆☆)



 空腹を刺激する油の匂い。

 鉄鍋で炒められる米、肉の香り漂うラーメン店。


「へいラーメン大盛りお待ちィッ」


 テーブル席に運ばれるは、具山盛りのラーメン。

 肉厚チャーシュー、ほうれん草、煮卵を3倍に。海苔は通常トッピング。麺が見えない。サブメニューの餃子と炒飯も追加で登場。


「わは〜来たぞぃ来たぞぃ」

「おいしそうですぅ」

「……」


 小さく「いただきます」と呟く。

 その女声はやや低め、クールな印象。体感、あの銀髪の魔女にも引けを取らないだろう。


 問題はその声の主が男の俺ってことだ。

 ご存じ『墨乃スミレ』ちゃん再登場、なんと配信ではなくリアルだ。

 

「今は女じゃの!」

「モノローグに割り込むなよ」


 まさかカメラ越しではなく現実に女になるとは……

 なぜだろう、濃いめじゃなくて普通にしたのにちょっとしょっぱい。


「魔人の呪いは大変ですぅ」

「他人事みてぇに……なんなんだアイツは、魔王の部下なんだろ?」

「うむ。我が配下の中でも特に優秀な魔人じゃ!」


 ドヤ顔である。


「しかし変じゃのう、我の領地からこちらに来るには大量の魔力がいるはず……」

「んなことより、お前ら人間と敵対してるわけじゃないんだろ? なんで人間だからって襲われなきゃならんのだ」

「魔族全体が人間と仲良くしようというわけではないからの」

「今までの偏見が完全に解けてるわけじゃないんですよぉ」


 お前らの世界の事情を持ち込まれてもなぁ。くっそどうでもいい。

 魔王は一緒に頼んだ餃子を頬張りつつ続ける。


「我は人間と事を構えるつもりはないんじゃが……あやつは子供の時から人間は敵と教えられてる奴じゃからのぅ」

「んで? パチンコ打ちにきた魔王様は人間に何かされてるとでも思ってるとか?」


 くっだらねぇ〜。

 それに巻き込まれたのかよ。


「そういえば魔王様、勇者様の騒動後に帰還した時って魔女ちゃんと一緒にいましたけどぉ、お城に帰りましたぁ?」

「あ……魔女と魔法の研究してたから帰っておらんかったな。今回もそのまま来たし」

「ちゃんと帰れよ……」

「魔族は国外へ関心がなさすぎなんじゃ。我が諸外国を視察しようすれば変人と言うんじゃぞ」


 現代でパチンコ・スロットを打つ魔王が変ではないかと言われると、正直答えに迷う。


 ……いや、変だな。


「お前の部下なら元の姿に戻すよう言ってくれよ」

「足取りが掴めぬとお手上げじゃ。あやつの電話番号知らんし、どこにいるか探知もできぬ」

「そもそもスマホ持ってるんですかぁ」


 こいつら、ホントに異世界人だよな?

 なんというか……馴染みすぎているような。色々ツッコミたいことはあるが、今は自分の身体をなんとかせねば。


 麺を啜りつつ、合間に話題を続ける。


「魔人さんの所在はあとにするとして、ならお前らでこの呪いなんとかできねぇの?」

「無理じゃの」

「さすがにこのレベルはぁ、本人に解いてもらわないとぉ」


 えぇ……

 ずいぶん厄介な奴に目をつけられたものである。


「まぁまぁ心配するな! 見たところ命に関わる呪いではないぞぃ」

「生活に関わるんだが?」


 明日から仕事どうすっかなぁ。

 まぁ「小顔になった」、と言えば押し通せなくも……無理か。


「魔女ちゃんなら知ってるかもぉ?」

「ほんとかぁ?」

「なんだかんだ、現存する魔法全てに精通している魔法使いじゃからのぅ。呪いも我より詳しいと思うぞぃ。連絡してみよう」


 ……そんな奴がパチンカスなのだから世の中わからんものだ。


 流れるような動きで、魔王はポケットからスマホを取り出し、画面を操作する。一瞬異世界人であることを忘れてしまいそうだった。


「ありゃ……既読がつかんし電話も出ぬ」

「どこいるんでしょうねぇ」

「はぁ……勇者が帰ってやっと平和になったかと思えば、今度は呪いか」


 魔女と会えないならとりあえず、1週間はこのままか……

 勇者の次は魔人だぁ? その内、神様とも会うんじゃないだろうな?


 会うこともないであろうパチンカスに思いを馳せつつ、残ったラーメンを胃に収めるのであった。

 

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