Round 5 魔族お家騒動!? with俺



「だぁっーはっはっは! 見よ、これが人間と魔族の可能性じゃ!」

「まさに奇跡ですぅ」


 抽選で決まるボタンの押し順の運命を魔力で捻じ曲げやがったッッ!?

 何が奇跡だ、とんでもない……この前まで制約だのなんだのとか言ってたのに、全く関係ねぇ。


「さぁ! 散々入れた諭吉、返してもらおうぞ!」


 2回目、3回目と運命を自分で切り拓き、そして聖女と魔王は──


 決戦を突破、晴れてRushである。

 遅れて俺も666枚を突破、結果的に3人揃っての突入だ。


 ……ん?


「押し順を決める魔法って、肝心のRush中……意味なくね?」

「ぬふふ……1番面白いとこに魔法を使うなんて無粋じゃろ」

「狙うは万枚だぁぁぁっ!」


 気合の入った聖女が先にレバーを叩いてゆく。確かに、この台ならピンポイントの魔法がいいだろうな。よくわかんねぇけど。


 負けていられない、Vは俺のものだ!!


 始まるRush、

 革命の第一歩に、優しくレバーを叩く。



 ◇ ◇ ◇



 とはいえ、投資額3万のビハインドは重く。

 悪あがきでもがいた末の特殊景品を交換するのである。


「ぐぬぬぬぬ……1万円のう〇い棒が身に染みるぞぃ」

「うぅ〜全然続かなかったですぅ」

「半分くらいは取り返したんだから上出来だろ」


 南無。

 端玉でもらったお菓子が空きっ腹に効く。

 コンプリート機能を発動させるどころか、捲る事すら叶わず敗北である。


 肝心の上位ラッシュに行きはするものの、長く継続せず通常→ボーナスの繰り返し。自分でも驚異的なヒキで全てBIGを獲得するも、そこで運を使った影響か、打ち止めにすることは叶わなかった。


 これは、何か裏で陰謀が働いているとしか思えない。

 お菓子を食べ切っても、聖女と魔王の腹の虫は収まらなかった。


「しゃーねー、何かメシ奢ってやるよ」

「ほんとかっ⁈」「やったぁ〜」


 台を勧めたの俺だし、若干の罪悪感が残っている。まぁ……こいつらがREGを吸ってくれたと考えればマシか。


「あーでも負けたから焼肉と寿司はナシな」

「うむ、今日はラーメンの気分だぞぃ!」

「トッピング何にしましょう〜」


 物分かりが良くて何より。

 ドカ食いしてさっさと忘れよう。チャーシュー、煮卵倍にして、大盛りだ。今日は家系の気分……



 ──お待ちください、魔王様。



「んぉ? ……おぉぉぉっ⁈」


 魔王の視線を追う。

 そこにいたのは、魔王と同じく2本角を伸ばした、紫髪の女……


「いい加減に城へお戻りを」

「……誰だあいつ」  


 片目は髪で覆われ、ヘソ出しドレスを身に纏う。

 その視線は、今まで出会ってきた異世界のパチンカスたちよりもずっと鋭く、冷たい。


「わ、われ直属の部下じゃ……!」

「ささ、さ、最強の魔人ですぅ」

「部下? 魔人? ……なーんでそんな奴がここに」


 まぁいいや、とりあえずラーメン。

 無視して夕飯に向かおうとする俺へ、紫髪の魔人は手を向ける。


「貴様か、この世界で魔王様を誑かした人間の雄は」

「……はぁ?」

「万死に値する──消え去れぇッ!」

 

 会話どころか詳細を聞く前に、魔人とやらは構える。

 女の掌から紫の球体が生み出され、俺に向かって一直線……


「ちょちょちょちょ──!」


 避ける間もなく、球体は迫り、

 眼前で弾け飛ぶ。


「あれ……消えた?」

「な、なぜっ!?」

「無駄じゃ、この世界の存在を傷つけることはできんぞぃ。それに此奴は、あの銀髪の魔女の弟子じゃからな」


 不本意なのだが?


 しかし……いきなりバトル展開されてもリアクションに困るなぁ。期待度低そうだし。


「チィッ、味な真似を」

「聖女もおるからのぅ、傷ついても頭が弾け飛びでもせん限り蘇生できるぞぃ。分かったらあっちの世界に帰るがよいぞ」

「あわわわわ〜!」


 物騒な言葉が飛び交っている。

 なんだか置いてけぼりの雰囲気嫌だなぁ。流れをこっちのペースに戻さないとまた変なことに巻き込まれちまう。


「おいもういいだろ、腹減ってんだ。さっさとラーメン食いに行こうぜ」


 日常が1番よ。

 ラブアンドピースだ。


「攻撃が効かないと言うなら」


 勝手に話が進んでいると思えば、紫髪の魔人の手から、今度は漆黒の球体が生み出され……


「魔王様を誘惑した罰だ! 我が呪術、とくと味わうがいい──!」

「ッ、いかん兄弟子避けろっ!!」

「うぇ? おぉぉわぁぁぁ!」



 散々な一日である。

 スロットで負けたかと思えば、

 いきなり現れた魔人とかいうやつに黒いモンをぶっかけられ……尻餅をついてしまう。




「ん……? 別に痛くもなんともねぇ」

「ハハハハハ! 呪いは成功だ、せいぜい苦しめ人間!」


 魔人は高笑いと共に自転車で走って消えていくのだった。

 そこは魔法じゃないのかよ……とは心の中でとどめておく。


「兄弟子ィッ、大丈夫──か!?」

「どこか痛、みは……ぁ」

「いや、ないけど…………〝ど〟?」


 おかしい。 

 声を発しているのに、聞き慣れたやや低音のボイスが聞こえない。


「あー、あー! テス、テス……⁈」


 高い。

 アルト超えてソプラノ。


「あ、兄弟子……ま、まぁ落ち着け」

「平常心、平常心が大事ですよぉ!」


 2人の様子も変だ。

 まるで俺に何かあったように冷静さを促す。いや……あったよう、というよりあったんだ。


「ったく、勇者の次は魔人ってよぉ……ぉ?」


 胸ポケットのスマホを取ろうとした瞬間、2つ目の異変に気付いた。

 左の胸がやけに苦しい。否、右もだ。胸ポケットのスマホが悲鳴を上げている……物理的に。


 ハハハ、まるで出っ張っているような……?

 ゆっくりと視線を落とすと、胸筋ではないそれで膝元が見えない。


「ちょ、ちょっと待って……?」


 いやいやいや

 いやいやいやいやいや

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや


「あのバカ者、こちらで不用意に魔法や呪術を使いおって……」

「あわわわ~大変ですぅ」


 日の暮れる時刻。

 パチンコ屋のガラスに恐る恐る近づくと、反射で自分の姿が映る。


 着てきたシャツやパンツこそそのままだが、

 ペタペタと頬を触っているはずの自分の姿は――――


「マジ……?」


 いつぞやのカメラ越しに映っていた、『墨乃スミレバ美肉の姿』だった……

 


 ◇


 紫髪の魔人のイメージ図は近況ノートに掲載してるのでよければ見てください。

https://kakuyomu.jp/users/mutamuttamuta/news/16817330666904669669

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