Round 2 魔女によるパチンコ攻略法1 『風の絨毯』
(え? えぇ…………)
杖振って玉入れたら当たっちゃったよ……
自分の台そっちのけで隣台の遊戯を見ていると、視線に気づいた女がこちらを一瞥した。
「……ふふ」
女は妖しく微笑み、すぐ液晶画面に目線を戻す。
結局その後大当たりを重ね、8箱ほどドル箱を積むとそそくさと消えていった。
退店の直前、女はハマり続ける俺をもう一度見ると、あざ笑うかのように手を振っていた。
「な、なんなんだあの女……」
俺はというと財布に仕込んでいた諭吉を3人無駄死にさせてその日は撤退する羽目になったのは、言うまでもない。
◇ ◇ ◇
後日、週末の同店内にて。
盛況……というほどではないが、そこそこの賑わいを見せるパチンコ店内に奴は座していた。既に3箱ほど足元に積まれているが、大当たり後のようである。
今日もその場には異質な銀髪の黒のローブ姿。ちょうどその隣は空いていた。
(よし……行ってみよ)
正直勝負がどうだとか、そういった目的ではない。
あの女が杖を使った意味を知りたかったのだ。
単純にパチンコオカルトに傾倒しすぎておかしくなった奴ならそれまでだ。回転数とか、台の波理論などとうに議論され尽くしている。
だがもし、あの恰好通り本当に魔法使いだというのなら……
いや、そんなことはありえないんだが。
どうも連敗で思考力すら低下しているらしい。
まぁいいか。とにかく見極めてやる。
ちょうどコスプレ女の隣は空席。その一つ先は常連のオッサンで埋まっているから間に入る形になるが仕方ない。
狭い間隔の椅子に割り込み、着席。ちらっと左手を見やると、女はこちらを見ていた。
(げ……視線合った)
なんだか気まずい……が、女はすぐに自分の台へ視線を戻すと杖を取り出した。
(来た……!)
昨日のは偶然か? それとも本当に――
コスプレ女が小さく杖を振る。何の偶然か、頬を冷たい風が撫でる。
しかし、女のパチンコ台に変化の気配はない。それどころかただ普通に玉が上から下へ落ちる光景が続いている。
(やっぱただ頭のおかしなアホか)
気を取り直して今日の勝負に挑む為、サンドへ一万円を投入。
異変に気付いたのはそれから10分後。
依然として女の台に当たる様子はない。ただ順当に抽選が行われている。何の意味があるのか、女はゆっくりひと玉ずつパチンコ玉を射出している。
(おいおい、今日も当たらねぇぞ……?)
それどころか釘に嫌われまともに抽選までたどり着けない。
昨今の不況が影響しているとはいえ、打ち手に不利なのは勘弁である。
500円で7~8回抽選していることに嘆息しつつ、改めて両隣を確認。
となりのオッサンも似たようなもんだ。若干死んだ目で続けている。後に引けない、そう顔に書いてある。
対してコスプレ女の方は……
(…………ん?)
ひと玉射出され、釘の森を落ちていく。カン、という軽い音が連続しながら、ゆるやかにチェッカーに吸い込まれる。その後の玉も、さらにその後も。
アウト口まで落ちていないのだ。
すべてが似たような経路でチェッカーへ向かっていく。よく見ると、釘と釘の間にある小さな空間にすらこぼれない。それどころか落ちそうになるとなぜか一瞬ふわりと浮き、何か見えない道でも敷いているかのように玉は通過していく。
と、夢中になっていると女の台が震えた。
(な……なんで落ちないんだ)
「これが魔女による攻略法その1……『
女の声で我に返る。
大当たり確定の虹色が液晶画面に現れると、女はそちらに目もくれず俺を見て不敵に微笑む。
「馬鹿正直に打ち尽くすなんて愚の骨頂。真の勝者はチェッカーまでの道筋を作り、すべてを抽選させます…………そうすれば、楽に戦えるでしょう?」
喧噪に包まれているはずの店内で、女の声は不思議なくらいによく聞こえた。
◇ ◇ ◇
参考機種:PF 機動戦士ガンダムユニコーン
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