小当たり:その名は『パティンケス』
異世界にて。
謎の通信は終わり、会議の場は騒然としていた。
銀髪の魔女から、
『あなた方が警戒している人物についてお教えしますので見るように』
と言われ、最後まで見届けた結果、全員が沈黙している。
正直、遊んでいるようにしか見えなかったけど、問題なのは魔女が使用していた魔法だ。
時を操る魔法のデメリットは魔力が大量に必要だったが、それを打ち消してしまった。それが改良されては太刀打ちできまい。
特定の極小範囲に時を操る魔法など使われれば大抵の戦いで負けることはない。つまりは、この前の蹂躙よりも恐ろしい事態が起こり得るということ。もうこの国にあの魔女を止める術はないのだ。
事実、会議に出ていた面々は深刻な表情を浮かべている。
「一体どうすれば……」
「どうするもなにも! それを止めるために彼女の師匠である大賢者様に依頼したのだろう!」
「やはり酒代程度では御するに足りなかったのでは?」
「何を! アレのせいで国中の酒がなくなったことをお忘れか!」
やいのやいのと、会議は踊る。
銀髪の魔女を中心とした騒ぎはいつもこれだ。国を混乱させてはいつの間にか終わる。彼女の開発した魔法で潤っているため、必要以上に責任追及できないのも情けない。
「あの大賢者であるエルフですら取り込まれてしまうとは……」
「我らの味方である騎士殿もあのパ……なんとかを『先生』と慕っているそうですしなぁ」
「聖女様など、あのパ……なんとかのせいで変になっているのですぞ!」
「ご公務が終わるたびにとても見せられないお顔をなさる」
「彼女を誑かしたのもあのパ……なんとかでしたな」
「やはり排除すべきでは?」
「いや待て、魔王すら友好的な存在を簡単に排除しては…………」
「それももう何度も話し合っているだろう⁉」
魔女と行動を共にし、彼女のパーティーメンバーとも交流があり友好的に接せられている(勇者は別らしいが)。そして魔族の長である魔王とも仲が良く「兄弟子」と言われる状態。
とてもただの人間とは思えない。
会議に参加している重鎮が発音できないあの称号にも、何か意味があるのだろうか。
あの魔女ですら手こずっていた謎の画面の戦いを、一発で通した彼(彼女?)には得体の知れない何かを感じた。自分に似た親近感というか、同じ匂いというか。ただ、勝負の方は魔女に大負けしていたようだが。
考察の間に、意見の矛先は自分に回って来る。
「剣聖殿はどうお思いか⁉」
「なぜ魔女襲撃の時に来て下さらなかったのですか⁉」
昼寝で気づかなかった、とはとても言えない。それにしても自分たちのとこの魔法使いを襲撃って……
というより、自分が魔女様の前線に出て敵うはずもないんだけど。お国のお歴々は仰々しい名前を付けたがる。ここはひとつ、魔女に貸しができればなと思いつつ。
「簡単なことです、魔女である彼女を含め、彼……か彼女かは分かりませんが、脅威ではないんですよ」
「何を馬鹿なことを!」
「考えてみてください、先日我々を圧倒した彼女がわざわざこちらへアピールしたんですよ? 敵意があれば秘密裏に用意するでしょう。大体、この前だって誰も大怪我していないのでは?」
会議の場は静まる。
駆けつけてくれた聖女様のおかげでもあるが、魔女による被害は建物を破壊されたのが主で魔法使いへのダメージは少なかった。
…………力の差で精神的にダメージを負った魔法使いは多かったらしいけど。
「それに、いま見た記録では彼女が手こずっていた存在に彼は1回で勝っていた……その後の結果は負けていましたが、これがどういうことかお分かりですか?」
銀髪の魔女が何度も挑戦してようやく通した戦いを簡単に抜けた。つまりあのパ…………
「あのパティンケスは、銀髪の魔女・シルバと同等の力があるということです」
「パティンケス…………!」
「迂闊に手を出せば一瞬で壊滅させられるでしょう……焦る必要はありませんよ」
……多分。
でもあの映像記録、楽しそうだったなぁ。魔女があんな楽しそうにしてる顔、見たことないかも。気になる存在、パティンケス……そして、あの謎の遊技とは何か!
「とにかく警戒は続けて様子見でいいでしょう、この剣聖たる自分が保証します」
みんな楽しそうなのに自分だけ公務は不公平だ!
異世界に知られてしまったパティンケス、果たしてどうなる⁉
……どうもしません。
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