Round 13 どうして転落の方をよく引くんですかね?


「はーっはっはー! この加護がある限り赤軍は無敵だ! いけぇ〜前田殿ぉっ!」


 オカルト、ここに極まれり。

 水晶光らせたかと思えば、転落しないと言い張る。なんだ? この辺はオカルトパチンカスに制圧されたのか?


「あの……魔法を使ってズルするのは良くないんじゃないかなぁ?」


 巻き込まれたし、利用もした俺が言える立場ではないが……あ、当たった。


「何を言う! 戦士が負けるところをおめおめと眺めていられないだろう! それにこれはズルではなく加護だ」


 女騎士はムキになりペンダントをこちらに渡す。宝石……とはちょっと違うな、やっぱり水晶っぽい。


「この加護はわたしの魔力が続く限り戦士が

「勝つわけじゃないのね」


 絶対当たるってことじゃないらしいな。せこいことに変わりない。


 って、俺の当たり通常じゃねーか! ちゃんと馬乗りこなして〜


「このような一騎当千の武人、ぜひ手合わせしたいものだ」


 僕はこの人に確変に入って欲しいと思ってまぁす。引き戻せねぇ。


「む、また青軍の奴らか! 懲りない奴らだ」


 アカグンガカテバ、ラッシュケイゾク!


「いけっー!」


 と、傾奇者登場で大当たり。マジか、マジなのかこいつ。


「ふっはははは! さぁ次だ!」


 端正な横顔がどことなく最近会った誰かさんに似ている気がする。うーん、誰だったかな?


 その後3回当たりを引いたところで、女騎士がこちらを見る。


「なぁなぁ、他のラッシュもやってみて良いかな?」


 キラッキラした目で話しかけんな。パチンコだぞ。


「じゃあ、上の傾奇者ラッシュにしたら?」

「うん!」


 パチンカスのジンクスとして、ラッシュのモードを変えると即落ちるというものがある。

 そして狙ったかのように水晶は輝きを失う。


「あ、魔力切れだ……」


 予定調和よろしく、関白様に怒られて終了。それでも4000発ほど獲得している。上々だろう。


「くぅ〜! あのジジイにやられたままでいられるか!」

 

 そのまま続行らしい。帰ってくれ。


 カンパクサマ!


 再び初当たりを手にする俺の横で、女騎士の台は温泉風景から発展している。まぁよくあるガセだろ……



 と思ったが、会話はどんどん進んでいく。




 え、これって……


 ──イッコン、クレマイカ?


 ボタンを押した直後、女騎士の台が虹色の光を放つ。


「やっぱりわかっているな、ジジイ!」


 手のひらくるっくるだなおい。

 鼻息荒く右打ちする女騎士はもう既にどっぷりのご様子。


「わかったことがある! 1回の確変でこの『モード』を変えない方が長く続くのだ!」


 う〜ん、この見事な素質パチンカス。なんという才能でしょう。

 

 しかし『加護』とやらのなくなった女騎士様は、果たして戦えるのか……?



 ◇ ◇ ◇



「……なぜだ、なぜなのだ!」


 アカグンガカテバ、ラッシュケイゾク!

 ウワァー

 エイヤエイヤエイヤ(3、2、1)────バタン


「どうして終わってしまうのだぁっー!」

「あるある」


 転落確率の方が低いのに当たっちゃうやつ。女騎士の出玉は既に底を尽いていた。


「このような恥態、騎士にあらず……くっ、殺せ!」



 いよっ! 出ました、生くっころ!


 

 その矢先、騎士様が腰の剣を抜こうとするものだから思わず制止させた。


「ちょちょちょちょ! 刃物はダメだってぇ」

「止めてくれるな! 敗北は恥だ! この無敗の騎士が泥を塗られたとあっては……」



「──騒々しい場所に勝るやかましい声がすると思ったら、貴方でしたか」



 もはや顔馴染みである銀髪の魔女が、滲み出すほどのめんどくさそうな表情で女騎士を見下ろしていた。


「魔女殿‼︎ やはりこの遊技場にいたのですね! 妹が別の場で辱められたと聞いていましたが……」


 あー、やっぱりあのガキの姉貴か。

 めちゃくちゃ誤解されてるみたいだけど。


「あぁ、その人物なら貴方の隣の」


 魔女は静かに俺を指差す。

 あ、やっぱりあのガキは騎士様の妹なのか!


「な……まさか貴様が妹をぉ⁉︎」


 既に腰の剣に手が掛かっている。


「勘違いしてんじゃねーよ! パチンコ勝負を挑んできて勝手にあいつが負けたんだよ!」

「え……そうなのか?」


 きょとんとした顔で驚く女騎士に、銀髪の魔女が杖で小突いた。


「変わりませんね、その無鉄砲さは」

「は、ははは……せっかく遊技を教えてくれた殿方に申し訳ない」

「冗談じゃねぇよ……」


 姉妹揃って面倒そうである。面が良い分余計タチが悪い。


「しかし魔女殿、この遊技場で一体何を? 皆心配しています」

「この世界で我々の魔力が不用意に放出できないようになっている原因の調査です。帰還魔法の行使の為にも、安全確認は必須ですから」

「なるほど! それで遊技に扮して魔法を使っていると!」


 満足げに微笑む魔女だが、絶対違うぞ。

 こいつはパチンコやりたいだけだぞ、女騎士。


「その為には綿密な調査を必要とします。差し当たって、紙幣を5枚ほど融通してもらえますか?」

「はい! どうぞどうぞ!」


 ぎっちりと諭吉の詰まった財布から5人お出かけ。なんだろう、いけない光景を見てしまったような……


「では、本日の調査を続けます。同行しますか?」

「いえ、ひとまず魔女殿と会えたので自分はこれで。帰還についてはまたご連絡します」


 ハキハキと喋る女騎士がこちらへ振り向くと、俺の両手を握りしめる。


「ぅぇ?」

「先生もまたの機会に『ぱちんこ』をしましょう! 今日はありがとう!」

「お、おう……」


 先生とは……

 鎧を鳴らしながら、女騎士は店を後にして行った。


「貴方が先生なら、私は大先生ですかね?」

「パチンカスの魔女だよ……あ」


 画面に視線を戻すと、ようやく馬を乗りこなしてくれたようである。


 俺たちの城門突破はこれからだ!




 ……なお、赤軍が即負けたのは言うまでもない。

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