食事休憩 ある異世界の事情、ハンバーガーとポテトを添えて
「絶対断る……そもそも、あいつが魔王にこだわる理由ってなんなんだ?」
「あぁ、それは――」
機材を片付けながら、銀髪の魔女こと白銀シルバ(偽名)は淡々と語る。なぜ軽自動車がここにあるとか、誰が運転してるんだろうとか、ここでは考えるべきではない。
「簡単に言えば魔王がいないと魔族は統率を失うということですね」
「それってやべぇじゃん……?」
「でもその説って、魔王様が否定してませんでしたぁ?」
「昔と比べれば、ということです」
「まさかこのまま放っておいたら魔族大侵攻とかないよな」
「ご安心を。こちらに来ることができるのは私達のように人型しか不可能です」
『魔族10000体を撃破しろ』なんてリーチみてぇな現実は勘弁願いたい。
「事はもっとシンプル……国を治めるトップがいないというのは、配下の者達には胃の痛いことなのです」
「パチンコ外遊だしな」
「魔法研究です、間違えないように」
その設定は徹底してるのな……
「ならぁ、早く戻ったほうがいいんじゃ……?」
「それは魔王本人が決めることです」
◇ ◇ ◇
「そうなの?」
「そうじゃのぅ……むぐむぐ」
夕食はパチンコ店付近のハンバーガー屋。早々に引き上げた魔女は去り際、「店と打ち合わせがある」と訳のわからんことを言い残しホールに戻って行った。
残りのメンバーは女騎士の金で違う店に行ったようだ。俺たちはジャンキーな気分だったから別行動。
「まだ打ち足りないから帰りたくないのぅ」
「そりゃそうかもしれないけどよぉ」
「だぁいたい、我だって自由な時間が欲しいぞぃ! 我がちょ〜~~っと強いからって、みな押し付けすぎなんじゃ! 魔人の奴もきっと我を連れ戻して仕事をさせたいんじゃぞ⁉」
「はぁ、そりゃご苦労さんで……」
途切れることなく、魔王の口へポテトが吸い込まれていく。それは麺かと見紛うような。
「でもなぁ、実害が出てるわけで」
「どこに?」
「俺だよっ!」
「おぉ〜⁉
悪びれる様子すらない。
異世界人はパチンカスというだけでなくとんでもねぇ奴らだ。
「そう怒るでないぞぃ、兄弟子はあやつ相手に互角の勝負をしておる……このままいけば、呪いは解けるじゃろ」
「それ、フラグっていうんだぞ」
「今日経験したばかりじゃったな、だぁーっはっはっは!」
「次はガチで来るって言うし、やべぇかもな」
「んぉ? 我が兄弟子ともあろうに、弱気じゃのう」
「特に次の策ないからな」
「ふむぅ、新しく考えるのも良いが……」
赤い紙箱の底に指を伸ばし、魔王は残った短いポテトを摘み取る。
「せっかく打つんじゃから、楽しんだ方が良いと思うぞい」
「それっぽく言ってるけど上手くねぇぞ」
それに、楽しむことは忘れてない。今日も収支的には勝ってるし。魔人に勝てる「これだ!」という魔法を思いつかない。今日の『
「心配いらぬぞぃ、兄弟子はあの『銀髪の魔女』の一番弟子なんじゃからな!」
「安心する要素がどこにもないんだが……?」
「魔王と和平を結び、世界に安寧をもたらした稀代の魔法使いの弟子だというのにぃ……贅沢な奴じゃなぁ」
「俺と同じパチンカスだよ」
壮大な話になってきているが、これはパチンコの話であることを忘れてはいけない。そして、巻き込まれた俺の呪いを解くための戦いなのだ。
「ならそのパチンカスの生き様を見てきたであろう? 自ずと使うべき魔法は分かると思うがのぅ」
「ぁ……?」
「ま! ギャラリーの我らが勝負の行方を見ていないのは兄弟子なら勝てると分かっておるからじゃ! 次もがんばるんじゃぞぃ。我はあやつに夜マ〇ク買っていくから、さらばじゃ」
「あ、おい! それって……!」
引き留める間もなく、ジャージ姿の魔王は行ってしまった。
なんなんだ今日は……意味深な言葉をよく聞く気がするようなないような……
「使うべき魔法、ねぇ……?」
今まで色々と銀髪の魔女には見せられてきたが……
わっかんねぇなぁ。
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