Round 21 魔人戦②(後編)魔人はスロッカス、俺はパチンカス
目押しにセンスは関係ないと言われるが、俺からすりゃ、んなもん嘘だ。ボーナス図柄を揃えられず店員さんを呼んだのは遠い昔。
橙髪の聖女と金髪の女騎士と共にスロットで修業していた時のこと。
「あ、スイカこぼした」
「期待値を落とすなぁッ!!」
背後に立っていた聖女に、ハリセンで頭をシバかれる。
「ってぇ〜、別に問題ないだろ⁈」
「スイカ一役180円! スミレちゃんはこぼすごとに180円失くしているのと同じッ!」
機種によるだろ……
熱を持った頭頂部を撫でつつ、隣の女騎士を見ると、見事に目押しを揃えている。というより、ボタンを押す指が見えない。
「えぇ……なんでできるのきみは」
「矢を見切るより簡単ですよ、先生! 要はリールより速くなればいいのです!」
さらっとおかしな事を言っているが気にしないでおこう。なんか魔法使ってるのかもしれないが……魔法かぁ。
「さぁさぁ、閉店まで1Gでも多く回す回すぅっ〜!」
「リールより速く、かぁ……加速装置でもあればいいけどな」
体感速度をリールより速くするって感じの魔法があればいいかな? もしくはリールを遅くする魔法か? どっちでもいいけど、そんな戦いになることはないよなぁ~……
◇ ◇ ◇
そして、今に至る。
ヒキもいいのか、さっきからREGは一切引かずに同色BIGボーナスが短いスパンでやって来る。
「よ、ほ、はっ!」
「停止した世界にまで土足で入るとは……生意気なぁっ!」
いける……! リールが鈍く見える…………見える、見えるぞ! ははははは、苦手な目押しもこれで克服だぁっ!
ドゥドゥドゥドゥン――――♪
再びビタ押し指示。
リールはゆっくりと回転する。世界を置き去りに、左、右のリールを停止させ、中ボタンへ指を伸ばし……ビタ押し!
魔人の発動する時間停止を越え、難なくさらにビタ押しを成立させる。最初こそしくじったが、ここから目押し率を100%に近づけるぞ。
〇目押し、成功……?
〇急に上手くなってて草
〇貴様、見えているなッ⁉
〇結構いい勝負じゃね?
「くっ……戦いの中で成長している、だと⁉」
「お前の目押しに追いついてやるぜぇ」
「このわたしが……人間にっ?」
コメント欄も賑やかになっている今、負けるわけにはいかない。第2戦もノリに乗るぜ~。時間操作なんてなんのその、呪いは今日解いてやる。
……と、思いきや。
「あ」
ヌルっとやって来たビタ押し指示で、早く押しすぎて図柄が滑る。またもや不様な停止模様に、背後からため息と唸り声。銀髪の女は呆れ、橙髪の淑女は顔を強張らせている。
「はぁ……やはり」
「目押しの覚悟が……不足ですぅ~ッ!!」
聖女の言う事は置いといて……魔女の奴、「やはり」って言ったのか? 一体何が…………
ドゥドゥドゥドゥン――――♪
再び訪れたビタ押しチャンス。今度こそ、今度こそ押すぞ!
未だ世界の先を行く、はず。……そのはずなんだが……なんだか、世界が緩やか過ぎて……タイミングが……!!
ズレるッ⁉
「あ、あれぇ~?」
成功したり失敗したり、不安定なビタ押しを繰り返しながら、時間は過ぎる。それでも可能な限り魔人の魔法に喰らいついたが…………
◇ ◇ ◇
日も暮れる頃。
店外には営業スマイルすらやめた
「えー……結果発表ですが配信で見てもらった通り、この間抜けの負けです」
テンション低めのシルバが俺を指差しながら今日の勝敗を適当に流した。なんとも雑である。今日の実践結果をフリップに書き出す。
獲得枚数としては、夕方まで打って
そう、収支なら勝っているのだが今回は「目押しの成功率」だ。
魔人に関しては最初の目押し以外は成功しているのでほぼ100%だ。対する俺も普通に打つ時よりもマシな成績なのだが……
〇負けてて草
〇成長はしたんじゃね?
〇じゃあスミレちゃん、脱ごうか……?
〇見てる分には楽しかったわ
試合にも勝負にも負けた感。
収支的にはプラスな分、なんともいえない気持ちである。最近の負け方を考えれば、ホクホクの部類なのだが。
「今日はわたしの勝ちだ!」
「これでお互い1勝1敗……連戦でお疲れのようですし、配信はここで終わりにします。ご視聴ありがとうございました」
〇3戦目待ってるぞ!
〇おつかれ~
〇次は大当たりもっとみたいな~
〇ゆっくりやすんでね
〇パチだろやっぱ、おつ!
労いのコメントと共に、長い配信は幕を閉じた。すると微妙な表情でカメラを回していた聖女がゆっくりとやって来る。
「だめですよぉ、目押しをちゃんとしないとぉ」
「魔法を使い始めたばかりですし、こうなるのも仕方ありませんね」
「ちょ、どういうことだよ……さっきもやはりとか言ってたし」
「それは貴様の魔法の使い方に問題があったのだ」
会話に入って来た魔人。
「現実より体感速度を速くする魔法というアイデアは悪くない。だが現実の時間の流れとの差に慣れない状態で打ったことで動きがちぐはぐになったのだろう」
「…………」
饒舌に思わず言葉を失う。
さっきまで人間如きとか言ってたのに……なぜ?
「最後までわたしに喰らいつく姿勢は評価する。時間操作とは異なるアプローチも嫌いではなかったしな……今度は油断せず、確実に好敵手である貴様を打ち倒してやる」
わずかに微笑みながら、紫髪の魔人は自転車に乗って店を後にした。
好敵手って……いや、そんな爽やかに宣言されても。お前呪いをかけたの忘れてないか?
内心のツッコみはともかく、魔女がため息をひとつ。
「彼女の言った通りです。時そのものを操らず、自らを世界より速くする魔法は良い着眼点でした……しかし、そもそもお題の内容が苦手なのですからもっと練習するべきでしたね」
「それってセンスの話では?」
「つまりぃ、スミレちゃんは目押しのセンスがないってことですねぇ~!」
「聖女様、今日厳しくないっすかね⁉」
「だってぇ、期待値がぁ~」
期待値は言いたいだけだろ……
打てなかったストレスが相当溜まってそう……つーか、ギャンブル狂の聖女って生臭坊主と同じじゃねーか。異世界の信仰がこいつでいいのか……
「これまで見てきた魔法はパチンコの方が多いですから多少は仕方ありません。あとは生まれ持ったセンス……魔人はスロッカス、貴方はパチンカスに偏っているのかもしれませんね」
「んぅ~スロット勝負の時点で不利だったわけかぁ~」
とはいえ、パチンコでも条件はさして変わらない。今回は魔法のことをちゃんと把握してなかったことが敗因だ。魔法が使えるとはいえ、自分に合った魔法じゃないとダメらしい。
「もういっそ『スミレちゃん』になってみては?」
「絶対断る……そもそも、あいつが魔王にこだわる理由ってなんなんだ?」
「あぁ、それは――」
機材撤収。
本日は紫髪の魔人の勝利。次勝てば呪いは解け、負ければこのまま『墨乃スミレちゃん』である。それは避けたい。
次に使う魔法はマジで考えねぇと……
望むのは究極の勝てる魔法……それも、単に当たる魔法じゃない奴。
そんなの今までに見たっけかなぁ。
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