食事休憩 寿司と魔法と異世界パーティ(後編)


「っ〜〜、っ〜!」


 熱々の茶碗蒸しにやられて喋れない紫髪の魔人が、小さな隙間からこちらを指さしている。


「あれ、ホントに呪いかけてきた奴と同一人物?」

「情けないのぅ、あやつは。我ちょっと行ってくる」


 飲んでいたビールを持ち歩きながら、魔王が魔人の席へ消えていった……


「こんな再会でいいのか……」

「結果よければ問題ありません」


 ないのか……

 意外と、というか適当なのは平常運行である。


「先輩は意外とズボ――細かいコトは気にしない性格デスからね~」


 後輩は後輩でズボラと言いかけている。異世界パーティにまともな奴はいないのか……いや、いないか……


「ったく、まともなのは俺だけ……お!」


 そろそろ当たってほしいけどっと⁉

 空いた皿を投入すると、ガチャ演出が始まる。今まさにレーンで流れる皿を覆う抗菌カバーをキャラクターにした演出。確定演出とまことしやかに噂されるその結果は……


 当たり


「お、当たった!」

「……………………!」


 小ぶりのカプセルを開けると、景品は流行の少年漫画コラボのグッズだった。パチンコ化してない奴は知らんし興味はない。


「妹、お前いるかぁ?」

「ふぇ、いいの?」


 当たりは見れたし、いつの間にか景品を全部持ってる金髪の魔女見習いへ景品を渡した。演出が見れれば満足である。


「ありがと、あっちへのお土産にしよっーと」

 

 現代のお土産が寿司屋の景品でいいのだろうか……

 異世界人とのギャップを考えていると、隣の視線を感じる。銀髪の魔女と、そして灰髪の魔女がそれぞれ俺を見ているじゃないか。


「な、なんだよ……」

「先輩、これは」

「えぇ、間違いないでしょう」


 勝手に会話を進めて勝手に納得しないでくれ。

 流れてきた鉄火巻きを手に取ると、銀髪の魔女は俺の肩へ手を添えた。


「確実に魔力が高まっていますね、これならあと少し修行すれば魔人と戦えますよ」

「ほんとかよぉ」


 まさかさっきの当たりを見てそう思ったのかぁ? いやいや、ただの偶然だろうに。


「うぃ、兄弟子ぃ~おバカ部下を連れてきたぞぃ」

「うぅ~魔王様あんまりです……」


 初対面時の殺気はどこへやら……

 自分より背の低い魔王に首根っこ掴まれて、紫髪の魔人がやって来た。


「めんどい奴じゃ、サクッと呪いを解いてやれぃ」

「うぅぅ……いくら魔王様でもそれには応えられません!」

「なぜじゃ⁉ 兄弟子は関係ないぞぃ!」


 身内の喧嘩は他所でやってくんねーかなー。勇者テーブル(仮)に至っては完全に食事に夢中である。さてと、次は海老天巻きでも食うか…………


「その理由も言いたくありません! お城に戻らないというなら呪いも解きません!」

「――では、魔法使いらしく決闘をしましょう」


 銀髪の魔女が割って入る。


「貴様も噛んでいるんだったな、銀髪の魔女っ! そこの後輩が言っていたぞ、貴様もその人間に惚れ込んでいると!」


 逆鱗に触れるワードだったのか、お隣の魔女が対面の後輩魔女へそりゃとんでもない睨み方をしていた。


「で、弟子としてって意味デスよ⁉ 決して変な意味じゃないデス! 変な言い方をしたのは勇者様の方デス!」


 余計な飛び火を起こしたせいで勇者が隣の卓でお茶を吹く。


「てめっ! オレ様を売る気か!」

「可愛いのは自分だけデス~」

「…………まぁ、そこの2人は後でお灸を据えるとして」


 お茶を一口含み、魔女は魔人へ指を差す。


「確かにこの弟子には他の魔法使いにはないものを感じています……もしこの人間に勝てれば、魔王はお返ししましょう。負けたら呪いを解いてもらいます」

「魔人たるこの自分が、この人間と決闘だと? いいだろう! 何で勝負する? 剣か、魔法か⁉」


 ここでようやく、銀髪の魔女は俺へ目配せした。

 ……どうやら、ここまで師匠のお膳立てだったようだ。決闘の了承さえ得られれば、もう何で戦うかは決まっている。注文レーンからやってきた海老天巻きを取りながら、魔人へ告げる。


「じゃあ……パチンコとスロットで」


 こうして、

 偶然再会した魔人との決闘の約束は交わされた。






 まぁ、しかし……これだけ騒いでいれば――


「あのぉ、他のお客様のご迷惑になりますので…………」

「あ……すいません」


 店員さんには平謝りである。

 なんとも締まらないまま、その日は解散となった。


 

 ◇ ◇ ◇



 ちなみにガチャの天井システムはタッチパネルを最初に触った際に選ぶことになるから、後で通常確率に戻すことはできないぞ!


 要注意!!

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