Round 9 最強の召喚魔法『呼出』


「なに外れようとしてんだ、よッ!」


 その後も勇者クズの迷惑行為は止まる事を知らない。どんな演出でも『力こそ正義パワー・オブ・ジャスティス』なる台パン魔法で無効化している。


 これはもう……ゴトとかそう言う話ではない。


 冷めた視線を流しつつ、自分の台を見ると36回転達成。3回の失敗を繰り返し、やっとラッシュ突入チャレンジに戻ってきたぞ。


「やっとチャンスかよ」

 

 勇者も台パンで天井に辿り着いたらしい。さっきからこっちを見てきて鬱陶しいことかの上ない……首ごと動かして覗くやつはド三流。


 さっきと同じくバトルモード。

 色は白、白、赤。ちょっとチャンス。

 勇者は白、白、緑。


「…………」

「…………」


 妙な緊張が走る。

 同時に当たるとはこう言うものだが、今回は違う意味もある。


 当否最後のボタンは……一撃!

 勝った、あばよ退屈な通常時‼︎



 おしりペンペンじゃぁ〜ッ!



「っんであったんねぇんだよぉぉぉ!」


 隣の勇者がお猿さんのように、喚きながら台を連打。連打、連打、連打。さながら台パン演奏。


「意味わかんねぇ! ンだよこのクソ機械がよぉっ‼︎」


 バンッ

 バンバンッ!

 バンバンバンバンッ!!


 勇者よ……

 所詮紳士でもないお前に、おしりペンペンは早すぎたのだ。


「お前ぇ、なんか魔法使ってんじゃねぇのか?」


 クズでもパチンカスの才能はあるらしい。

 頭のおかしい隣人が台を叩きながら因縁をふっかけてくるではありませんか。怖いですねぇ。


「ハズレたからって他人に当たるなよなぁ」


 さて、誰をおしりペンペンしようかな〜と。


「お前……オレ様が誰だかわかっての物言いか? オレは――」

「パチンコ屋で暴れるお猿さん。ウッキー!」

「さッ……⁈」


 流石にバカにされた事はわかったのか、髪色と同じように顔が赤くなっていく。


「調子に乗んなよ! あいつらがどんなものに興味があるか見に来てやっただけだ! こんなクソ機械、オレ様の力を使えば」

「うっさいなぁ……」


 これからいいとこなのに……

 仕方ない、俺もを使うか。


 背中の剣を引き抜こうともたつく勇者を尻目に、台の上にあるデータカウンターの『呼出』ボタンを軽く一押し。


 ――パチンコ屋の店員は良い。

 呼び出しを押せばすぐ駆けつけてくれる。筋骨隆々のスキンヘッド名物店長――爆〇イでは通称「マッチョ」――が5秒で現れた。社員用の純白のシャツは筋肉でパンパンであり、今は頼もしい助っ人。


「お客様〜いかがなさいましたか〜?」

「この人さっきから台パンめっちゃするし、自分が外れたからってこっちのこと殴ろうとするんすよ」


 多分カメラで見ていたのだろう、相槌を打って「あ〜あ〜!」とマッチョは笑顔で頷く。


「な、なんだお前! オレ様は勇者だぞ!」

「あ〜お客様〜、店内で台を強く叩いたり他のお客様のご迷惑になるような行為は──」

「口答えするな下民がッ!」


 ……おそらく、勇者の予定ではマッチョにも『力こそ正義』を使って倒すつもりだったんだろう。しかし鍛えられた鉄の胸は勇者のへなちょこパンチを弾き返し、笑顔でズルズルと店の奥へ連行していく……


「離せっ! くそ、お前も覚えてろよ。卑怯な手ェ使いやがって!」


 店内での客同士の揉め事こそ御法度だぞ。店員を呼ぶ、これが正義ジャスティス


 あえて名付けるなら、『店員呼出こそ正義コール・オブ・ジャスティス』。俺達は、彼らに生殺与奪の権利を握られていることを忘れてはならない。


「確かに魔女の言う通り、碌な奴じゃないなお前」

「てめぇ魔女の匂いがすると思ったらやっぱり……!」


 なんだよ、魔女の匂いって。

 試しに服の袖を嗅いでみても、柔軟剤の香りしかしない。いいにほひ。


「お客様、こちらへお願い致します〜」

「うぎゃぁぁぁぁぁ」

「ふっ……クズとカスじゃ格が違うのだよ」


 カッコつけて言ってみたが、そんなに大したことは言ってないな。

 こうして……紳士パチンカスたる俺は、全キャラ制覇できなかったがおしりペンペンを堪能して、ちょい勝ちでその日を終えたのだった。



 台パン、滅ぶべし。

 

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