Round17 魔人戦①(後編) 当てる魔法は当てにならない



 それは、魔王と修行中パチンコ中のこと。



「のぅ兄弟子ぃ」

「なんだぁ?」


 魔人との決闘で打っているパチンコ、その1/319ver.でお互いに右打ちしている最中、魔王はぼやいた。


「たまに、カウント以上の玉が入るんじゃが壊れておるのか?」

「そりゃオーバー入賞ってやつだ。設定されてる出玉より多く出す方法があるんだよ」


 上手い打ち手はこの「捻り打ち」でキッチリ玉を出すらしい。生憎俺にそんな技術はないんで、たまに起きるくらいだが。


「なるほどのぅ……魅力はあるんじゃが、それなら左打ちの時に魔法を使いたいのぅ」

「捻り打ちの魔法なんて聞いたことねぇよ……」

「まぁ細かな魔力操作はいらんな。兄弟子の言うことが確かなら、アタッカーのとこを魔力でほんの少しの間、開けるだけじゃし」


 さらっとえげつないことを言う……店によっちゃ出禁だなその魔法。


「ん……? 魔王の言うことが確かなら、俺でもできるってことか?」

「じゃな、渡された杖ならできるはずぞぃ。やるなら詠唱は簡単に……」


 要は確定捻り打ちだから簡単なわけか……一応、魔法の候補には入れとこうかな。



 ◇ ◇ ◇


 

 そして……実際に発動させたのだ。

  しかし、


 ──10カウントチャージ!


 この魔法の肝はってことだ。当たりハズレに一切の魔法関与はない。


 一球入魂。

 屈強な竜のような敵キャラアラガミが現れる。期待度は低い……が、魔法を発動した以上、負けるわけにはいかない。


 5、

 4、

 3、

 2、

 1、

 ──0ゼロ


 砲撃で敵をぶち抜き、大当たり。

 Vアタッカーへ打ち続ける玉が吸い込まれていく。この魔法はここからが真骨頂。


 各ラウンド毎に設定されたカウント数が終わるその瞬間、ほんのわずかな時。完全捕食アタッカーと呼ばれる入賞口は、その扉を開け続け銀玉を吸い込む。

 本来のカウント数を超えて、アタッカーは開き続け出玉を吐き出す。それは魔人が1回の大当たりで当てる量よりも10~20%多い。


 ハンドルを握る右手の血管が青白く光り輝き、同時に体力が奪われている感覚が駆け巡る。たった1回、たった1回の大当たりでとんでもねぇ脱力感。


「……ここからだっ!」

「1回当てた程度で安心できるかな?」


 打ち出しが遅れた分、魔人はすでに2回目の当たりを出していた。

 今までにないくらいの顎を上げたドヤ顔が腹立つ……!


「パチンカスってのは右打ち中は無敵なんだよ」


 当否は己のヒキ頼み、REAL LUCKである。どこまでいける──?

 俺の考えとは裏腹に、早速鬼のようなアラガミに負けてくれた主人公キャラを救うためにボタン連打。立て、立て、立ってくれ──


 立ったッ!


 ──コレデトドメダァッ!


 「111」の数字が噛み砕かれ、「777」の数字に変わり、MAXラウンド獲得。当たりは続く……

 

 数十分経過し、運が途切れRushは終了。

 初の当たりは20連、調子の良い出だし。対する魔人も大当たりを止めた。魔力切れというより、わざと止めたようだ。


「ふっふっふ、こちらは22連。運もわたしの方が上らしい」


 ドヤ顔でこちらを嗤っているあたり、恐らく気づいていないのだろう。自分で言った勝敗の条件の大事なところを見ていない。


「いいのか? 魔力ゴリ押しでやらねーと負けるかもしれないぞ」

「ご忠告感謝する。いらぬ心配だがな。もはや神を越えたのだから!」

「はいはい」


 その後も初当たりと10連ほどの確変を繰り返しては終わり、繰り返しては終わり。魔人は余裕と言わんばかりに俺の当たりに合わせて大当たりを引く舐めプを披露しつつ、山場もなく淡々と時間は過ぎていった。



 ◇ ◇ ◇


 

 夕方。パチンコホール店外にて。

 真っ白な壁を背景に1人テンションの高い白銀シルバ。今日は一切キャラが崩れていないことに一番驚いている気がする。


「けっかはっぴょう~ぱちぱちぱち~!」

 

 両隣には右腕の感覚のなくなった俺と、額にじんわりと汗をかいた紫髪の魔人。正面にはカメラを持つ魔王……


「あれ、勇者と後輩の魔女は?」


 聖女たちもいたはずなんだが…………


「他の演者さんはまだ実践中ですね~」

「これ、俺と魔人の決闘なんだよな?」

「だってぇ、みんな打ちたそうだったんです~」


 〇草 

 〇最後の方ぐだぐだやったしな

 〇対決とは?

 〇むちゃくちゃだろ……

 〇疲れたはよ終わってくれ


 出玉勝負をずっとライブ配信するのは視聴者にもキツいかもな。

 俺も右手が上がらない。これが魔法の影響なのか……?


「ではでは~視聴者の皆さんもお疲れのようなので、さっさといきましょ~」

「こ、こんな適当な扱いなのか……⁉」

「もういいから、2人とも出玉を言うがいいぞぃ」


 魔人も雑な扱いを受けつつ、最終出玉を報告する。


「わたしは4216玉だ!」

「俺は……5032玉、だな」


 ……勝った!

 交換後のレシートをカメラに向ける。配信にはきっちり証拠が映し出された。


「な、な……なぜだ。貴様より確実に多く当てたのに…………!」

「だってお前、右打ち中ずっと打ちっぱなしだったし」


 チラチラ俺の方を見ながら魔法で無理矢理当ててたようだが……俺の発動した魔法と、魔人の打ち方が相まって差がついたようだ。アタッカーまでの道も零れにくくはなっているが、さすがに打ち続けていると数%は減ってしまうものだ。


「お、おのれぇ……!!」

「へっ、当てる魔法も当てにならねぇな!」


 〇草

 〇地味じゃね?

 〇1日捻り打ちした結果

 〇釘に恵まれた感

 〇じゃあムラサキちゃん、脱ごうか……

 〇これでスミレが1勝か

 〇スロットもやってほしい

 

 コメント欄は賛否謎意見様々だが……呪いを解きたい俺にとってはどうでもいい。この調子で出玉勝負にしてくれるならこっちは『ただ一滴の為にドロップス・オブ・デザイア』を使うだけだ。

 

「わかったじゃろ? 我の兄弟子に勝つならゴリ押しでは無理じゃ」

「ぐぬぬぬぬ……! まだ1敗しただけだ、次! 次は必ず勝つ! 今日のところは退いてやる!」

「あ、おい……! 玉の交換は当日限りだぞ、って……」


 行っちまった……まぁいいか。

 しっかし、めちゃくちゃ疲れちまった。いつもは誰かの魔法に巻き込まれてただけだが、自分で魔法使うとこんなに疲れるのか……


 疲れて5000発、う~ん……なんともいえない。


「あらら、行っちゃいましたね~。ムラサキちゃんも帰っちゃったので3番勝負第1戦は、スミレちゃんの勝利で終わり! みんな~ご視聴ありがとうございました~」


 〇おつ

 〇おつかれ~

 〇乙

 〇お疲れ様


 配信終了。魔王がカメラを下した瞬間、白銀シルバは銀髪の魔女に戻った。


「どうでした、初めて魔法を使った感想は?」

「疲れた」

「兄弟子の魔力ならしゃーないな。今日はゆっくり休むがよいぞぃ」


 固い肩をぐりぐりと回しながら今日のことを振り返る。確定捻り打ちは確かに強かったが、『自力で当てること』と『右打ち中も己のヒキ次第』って条件は難ありだな。ハイミドルとかに勝負を持ち込まれたら厄介だが……


「ま、出玉勝負なら大丈夫だろ」

「それ、フラグなのでは?」

「いやいやいや、1勝のアドバンテージあるんだぜ?」

「兄弟子ぃ……」


 第1戦、思惑通りに事が運び勝利。

 このまま2連勝して呪いを解いてやるぜーっ!!


 

 ◇ ◇ ◇


 10カウントチャージバトルは「P ゴッドイーター ブラッドの覚醒」の動画を見てみてください。


 「捻り打ち」は店舗のルールによって禁止されていることがあります。ハウスルールはしっかり守りましょう。また、魔法の利用も注意!


キャライメージ再掲(あくまでイメージです)


〇主人公・俺。『墨乃スミレ(女体化状態)』

https://kakuyomu.jp/users/mutamuttamuta/news/16817330667103127869


〇銀髪の魔女。『白銀シルバ』

https://kakuyomu.jp/users/mutamuttamuta/news/16817330657191712731


〇黒髪の魔王

https://kakuyomu.jp/users/mutamuttamuta/news/16817330660784466251


〇紫髪の魔人

https://kakuyomu.jp/users/mutamuttamuta/news/16817330666904669669



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