Round 12 勇者によるスロット攻略法1『福音は我が手の中にある』


 ここのところまったり台でも荒い台でも結果が伸びない。


 つまり運気の波は低調気味ということだ。

 無理にでもツッパ……と言いたいとこだが、パチンカスでも感じ取れる運は注意だ。


「……それで選んだのがスロットですかぁ?」

「初心者の聖女あんたにもわかるような台ならこれが1番だ」


 馴染みのパチンコ屋が臨時閉店のため、別のパチ屋に行ったところ聖女にばったり出会った次第。魔女と魔王がいなくてもパチ屋にいるってことは、順当にパチンカス道を進んでいるとみた。


「ご指導よろしくおねがいしますぅ」

「そんな教えるような台でもないけどな」


 俺も詳しくないし。


 開店には何十人か並んでいたが今日は設定狙いや良釘の台を狙うわけじゃない。ただ淡々と打ち、当たりを身体に染み込ませたいのだ。

 出玉もそうだが、当たった快感はパチンカスにとってなによりも栄養である。


 そう、身体は当たりを求めている。


「でもスロットっといえばぁ、色々法則があって難しそうですぅ」

「大丈夫だ、ややこしいこと覚えなくても台が当たりを教えてくれる……これだ!」


 入店し聖女を引き連れたのは昨今の激荒台などではなく、お馴染み、ピエロさんの台である。

 非常にシンプル。台のランプが「ペカっ」と光れば大当たり。わからないなら何も考えなくていい、光ればいいのだ。


「スロットならまずこれがいんじゃね? つーか、単に俺がやりたいってのもあるけど」


 流れるように1万円を突っ込み、メダルを下皿に召喚。そして投入口へ流し込み早速1回転。リールが回り始め、左から順にボタンで止める。


「こ、これぇ全部見切ってるんですかぁ⁈」

「適当適当、まずは魔法とかなしでやってみたら?」


 ハンドルもないし、性格は変わらんだろ……多分。


 10回転ほどして、聖女が俺の肩を叩いた。


「あのぉ、台の真ん中のとこ光りましたぁ」

「うっそ、はや……」


 まさか……こいつもヒキ強か? 

 ビギナーズラックだと信じたい。


「ここから1回だけ、大当たりの絵柄を揃える必要があるんだ。とりあえず赤い7ってのを真横か斜めに揃えるよう狙ってみな」

「ふぇ〜、で、できますかねぇ?」


 そう、これが普通なんだよ。

 慣れた手つきでスロ打つ銀髪の魔女がおかしいんだ。聖女が初々しすぎてちょっと楽しい。


「まぁまぁまぁ、外しても罰はないから」


 2、3回ズレたが、ついに──

 『777』のビッグボーナスが真横に並ぶ。


「揃いましたぁっ!」

「後はさっきと同じように打てばパチンコと同じようにメダルがもらえる」


 細かいことは……考えなくていいだろ。

 さてと、自分の台に集中っと。



 ◇ ◇ ◇



「んほぉぉぉまたビッグですぅ〜!」

 

 結局こうなるのか……

 魔法も使ってないのにイッちまってやがる。キマってんな聖女。


 リールの待機時間すらもどかしそうにレバーを叩き、ボタン一閃、台からメダルを吐き出させる。


 しかし……幸福に浸っているその中で、奴は現れた。


「──ずいぶん楽しそうだなぁ聖女サマよぉ?」

「うわでた」

「ふぇ……? ゆ、勇者さまぁ⁈」


 赤髪の勇者である。

 歪んだ笑みで俺たちを見下ろす。


「俺のことほっといて呑気に賭け事かぁ? 国の聖女が聞いて呆れるな!」

「そ、それは……」

「別にいいじゃねぇか、ただの遊びなんだし」

「お前のことも忘れてないからな……えーと」


 教えてもないから名前も思い出せないだろ……


「と、ともかく! 俺様はァお前らを許すつもりはねぇ!」

「めんどくさ……店員呼んどくか?」


 最強の召喚魔法の前に、勇者は一歩退く。


「ぐぬ……まぁ俺様も大人だ、武力でねじ伏せるのは控えてやる」


 マッチョに連行されたのが相当効いたらしいな。何されたんだろ。ちょっと気になるかも。


「勝負だ小市民! 俺様が勝ったら──」

「いややらないけど」

「ふぇ⁈」


 なぁんでんなパチンコ番組みたいなことしなきゃならんのだ。


「今日はまったり打つだけだし」

「へへっ、じゃあお前の隣でめちゃくちゃ出してやる! せいぜい指咥えて見てな!」

「ぅい~」


 撤去されていない分煙ボードを召喚し、隣に座った勇者を遮る。


「はわわぁ〜どうしましょ、魔女ちゃんに伝えてぇ……」

「大丈夫だろ、隣のコスプレ男性も打ちに来てるだけだし」

「ほざけ小市民! 要はメダルを出せればいいんだろ? しっかり調べて来たぜぇスロットのことはよぉ‼︎」


 鞘に収めたままの剣を取り、勇者は構える。


「絶対的な勝ちを作り出す最強魔法だ! いくぜっ、『福音は我が手の中にあるザ・ゴスペル』!」


 照度はやや低め。懐中電灯ほどの光が台へ放たれる。ドヤ顔の勇者はいつぞやの魔女のように1000円だけ投入。その間にようやく俺の台も「ペカっ」と光が灯る。


「んで……どういう魔法なわけ?」

「知りたいか小市民⁈」

「んいや別に」


 聞かないと声かけてきそうだし。あ、REGバケ当たった。


「この魔法はすべての役を廃し、のだぁせいぜい頑張ってメダルを出すんだな、ギャハハハハハハ!」


 レバーを叩き、リールを揃えるたびにブドウが揃う。何度か重なりクレジット分から溢れた数枚が下皿へ溢れた。


 この前の話をぶち壊すかの如き、制約もクソもない、紛うことなきチートである……まぁ確かに負けはしないだろうな。ずっと出るわけだし。


 …………ずっとメダルの出る役だけ?


「あー勇者様! さっきの勝負やっぱりやろうや」

「ハハッ、蛮勇だな小市民」

「む、無理ですよぉ! こ、この人、魔法の力はそこそこありますからぁ!」

「そこそこ言うな! あの魔女より上だ!」

「まぁいいから。じゃあ勝ちの条件はってことで」

「ハッ、いいだろう! 望むところだ。どんなに当たりを重ねてもメダルの量なら負けないからなァっ!」

「ぅ〜い」

「はわぁ〜すごいことになっちゃいましたぁ〜……!」


 あ、またREGバケ……

 これで大当たり2回目である。嬉しいような嬉しくないような……ま、当たりは当たりか。


 聖女2回、俺2回、勇者0回。

 条件はちゃんと伝えたからな、大当たりの回数だって。



 ◇


 参考機種:『ジャグラー』シリーズ


 遊んだ当初、7がうまく揃えられませんでした……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る