Round 11 確変は薄い方を引きがち



 金色になった2人の快進撃は凄まじく、見る見るうちに出玉を増やしていく。剣を押し込む演出なんぞ必要ないと言わんばかりに、ハンドルを握る手に集中していた。


 ……確かに転落を回避している感はある。

 だって俺、3連で終わったもん。

 何が継続率81%だよ、大当たりの割合逆なんじゃねぇのかと思ってしまう。


「はぁ……ごく普通の魔戒騎士止まりだな」

「アニデシウチトッタリィ~」


 討たれてねぇよ、打ってんだよ。

 くっそぉ……また確変までの道のりがなげぇ……出玉が増えるのも早いけど終わるのも早いのはここが苦手だ。


「フガイナイデシデスネー」


 くそっ、こいつら当たってるからって言いたい放題だ。なんとしてもその金ぴかどもを黙らせねば……


「ダァーッハッハッハ! アニデシもまだまだじゃのう……んぉ、魔力切れじゃぁ!」


 唐突に金色が解けた魔王の顔が再び現れた。そして継続を賭けたジャッジで見事に転落を引き当てる……もうお約束とも言えよう。


「ぬぁっ、なんでいきなり落ちるんじゃ! 遠隔、遠隔か⁉」

「終わるときはあっという間だからな……」

「まだ魔力効率が悪いようですね魔王」


 同じくいつの間にかもとの黒いローブ姿に戻っていた魔女が転落を自力で回避。……こいつ、前から思ってたけど普通にヒキ強いよな。


「だぁっ~魔女に負けたぁ! なぁぜ19%の方を引いてしまうのだ」


 わかるぞ魔王。でもな、そういうもんなのだ。


「ぐぬぬ……ここからは自力なのか……」

「俺より出玉あるんだしやめたらいんじゃね?」

「バカを言うな兄弟子ぃ、戦いはまだまだこれからだぞぃ!」


 あ……これフラグ。

 なーんてやってたら再びGAR〇保留こんにちは。おまけに魔天使まで昇天していく。


「悪いな魔王、もっかい右打ち行かせてもらうぜ~」

「ぐぬぬ……まだじゃ、まだ終わらんぞい!」


 バトルリーチのタイトルは虹色。もう確変のドキドキ以外心配のない状況……そして、無事バトルに勝利。おまけに台のボタンに牙〇のお顔登場。確変である。


「ふっ……これがジツリキってやつよ」

「くぅ~兄弟子やりおるのぉ」

「魔法抜きでどこまでやれるか、もう一度見せてもらいましょうか」

「ハッ、言ってろ! 継続率81%の力見せてやるぜ!」


 これだけ初当たりが早いんだ、今度こそお願いしますよ~?

 ――マカイチャンス、トツニュウ!


 第1回転。

 3000発か1500発か――


「南無山っ!」


――1500――


「解散じゃな」

「ご愁傷様です」


 早くも台から視線が離れ、各々自分の台へ集中し始めた。

 もちろんさむーい演出が見事に展開され、黄金騎士は立ち上がることなく終わる。2連、つまり初手で転落の19%を引く悪いヒキが強い……


「もぉー遠隔だぁ!」


 8割の次回確定を引けず、2割の転落を即引く。

 どうして確変だと薄い方をよく引くのか……答えは1つ。


 遠隔である。



 ◇ ◇ ◇



 収支はプラスにこそなったものの、ほんのちょっとの勝ち。『負けなければ勝ち』とは誰が言ったか……店内の休憩コーナーでソファに身を預ける。


「ぬぉーっ! あの時のリーチが当たっておれば……」

「勝ってんだからいいだろうがよ」

「もっと伸びなくては消化不良じゃぁ~」


 端玉でもらったお菓子を食べつつ、魔王は子供のように駄々をこねる。大量出玉があった割にジリジリ削られ、結局こいつもちょっとプラスくらいだ。


「やはり弟子たちはまだまだですね」


 銀髪の魔女は帽子で顔を隠しだらしなくソファにもたれる。魔力を使い切って相当お疲れらしい。勝ってもこんなにグロッキーになるのは正直ごめんだな。


「けっ、結局パチンカスの魔女がひとり勝ちかよ」

「今回のは実験的な魔法でしたが、やはり今回のような魔法は燃費が悪いですね……やはり必要なのは台に対する理解と――」

「おーい」

「無駄じゃ、その状態になったら考察が終わるまで戻ってこん」


 ローブ姿の女がソファでぐでっとしているのは正直不気味だ。前はこんなに疲れていなかったような……


「我と違って魔力の回復は遅いからの、人間は。今回のは制約で疲れる前提じゃったし。」

「そこはちゃんと設定差あるのね……」


 制約ねぇ……黄金騎士は99.9秒過ぎたらヤバかったけど、魔女は魔力使い切ってバタンキューってか。魔法も考えものである。


「やっぱ自分のヒキだな!」

「無根拠の自信……兄弟子は立派なパチンカスじゃ~」


 負けはしていないが、大きく勝ってもいない。

 何とも締まらない終わり方だ。

 

 さっさと帰って酒飲んで寝よ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る