Round 13 念を込めてレバー叩く人、いるよね
ビッグボーナスを揃えて、灰髪の魔女は淡々と消化していく。
「フフ、どうデス? すごい魔法じゃないデスか?」
「う~ん」
まぁ、理屈は分かる。
要は魔力()を込めて当たりを引くんだろ? なんとなくシステムを理解してしまう自分に呆れる。
つっても、そんな打ち方……
「コォ~、ハッ!」
振り返ると常連のおばちゃんが波紋の呼吸よろしく息を吐き出しゆっくりとレバーを叩く。もちろんハイビスカスが光ることはない。が、おばちゃんは再び独特な深呼吸を置いてからレバーを叩く。
また、その隣のおっさんは一打一打の前に指を立て精神集中、早い速度でボタンを叩く。
その他、各々が独自の打ち方をしている。
今回の魔法、どうにもオカルト打法と同じ匂いがしてならない。こいつがスロットに精通しているかともかく……
「ホォ~アタァッ!」
隣の聖女に至っては北斗神拳伝承者みたいな声出してるし……お前キャラ変わりすぎだろ……当たってるし。
でも、単に当てるだけってのは……
「なんかこう、インパクトに欠けるなぁ」
「なッ、失礼じゃないデスか⁉ 魅力的な魔法じゃないデスか!」
じゃあ俺の台は当たるのかって話だ。
試しに意識を指先に集中し、人差し指と中指の2本でレバーを叩く。
当たりどころか小役すら来ない。
「なんでだよ!」
「魔力が足りないデスね〜」
「見てろ〜ぬぅぅぅぅぅ」
俺の拳が唸って……は違うな。
昔、スロット始めたての頃見た動画だか雑誌だかの打法。無心となり、指先に力を入れる。するとわずかに、指先へ光が灯った。
この一打に全てを込める!
「はぁっー!!」
指先がレバーに触れるその瞬間、色白な手に止められた。
「その一打、死にますよ」
魔人探しに行ったはずである銀髪の魔女が背後に立っていた。
◇ ◇ ◇
中途半端なところで休憩に入り、修行は中断となった。で、現在併設の飯屋。
「まったく、嫌な予感がすれば安直な魔法を……」
「いいじゃないデスか、死の淵を彷徨ってこその修行デスよ先輩。ボクにはそうしてたじゃないデスか」
これ、パチとスロの話だよな?
「ご、ごめんなさぁい、スロットに夢中になってて」
「聖女は悪くねぇだろ。奇声はやめといた方がいいけど」
現在連荘中。
聖女も何かヒキを持っているとしか思えない。
「この凡人を鍛えるなら多少荒事でもやった方がいいデスよ?」
「事情が違います。呪いを受けて素養を持った人間では貴方のやり方は……」
子供の教育方針で喧嘩する親かよ……アホくさ。
ラーメンを食べ終え、議論を交わす魔女二人は置いて、聖女と店内へ戻った。元の座席に着くと、聖女が心配そうな顔でこちらを見やる。
「あ、あのぉ、席変わらなくていいんですかぁ?」
「要するに余計なことしなきゃいいんだろ? 問題ねーよ」
過去、先人達がやってきたことだ。連綿と受け継がれた打ち方が、そんな簡単に当たってたまるか……と、言いたいところだが。
「大体な、魔力なんて込めなくたって当たるんだよ。ほら」
数席隣に座るおじいちゃん。
まさに指先へ念を込めてレバーを叩くと、ハイビスカスがキラキラと輝いた。
「ほんとに当たってますぅ⁉︎」
「仙人の領域の打ち手はな、魔法に頼らなくても引けんだよ」
マジで謎である。
もしかして魔法使いなのか?
現代でも俺が知らないだけで、変な打ち方をしてる客は魔法使いなのかもしれない。
「コォ〜、ハッ!」
さっきのおばちゃんも当たりを重ねていた。もしかしたら魔女なのかもしれない。
「……って、んなわけないか」
「おほぉ〜っ! またまたBIGですぅ〜!」
ちょっと目を離したら聖女は狂っていた。多分1番脳が焼けてるのは聖女じゃないんだろうか。
そんなことを思いつつ、雑念まみれの一打。魔力のこもってないアクションだったが、ハイビスカスがピカピカ煌めいた。
「ふっ、これがジツリキってやつよ」
もちろん当たりは、REGだった。
ちょい勝ちの実践は夕方前に幕を閉じたのだった。
つーか、銀髪の魔女と会った時の魔法……ヤベぇ魔法だったんだな。んなもんやるなよ。
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