Round 12 灰髪の魔女のスロット攻略法1『定めは手中にあり』



 金髪姉妹との修行翌日。

 目の前には出禁待ったなしの赤髪の勇者と灰髪の魔女がベンチで萎んでいた。取り囲むはお馴染みの面子。銀髪の魔女に、聖女、魔王に金髪姉妹。フルメンバーである。


「……魔人を探していたんじゃ?」

「その魔人をこの世界に手引きしたのが2人です」

「誤解だ! オレは被害者だぞ!」

「また聖剣を盗み出して……謝罪行脚も終わってないと言うのに」


 どんだけ女引っ掛けてたんだこいつ。側から見たらこいつを囲んでハーレム状態……には見えないな。


「まァ勇者様のことは置いといて」

「ぬぉいっ!」


 灰髪の魔女も辛辣である。

 これ以上は全てに反応しそうなので、有志によって勇者の口にガムテープが貼られた。


「魔王配下のあの魔人は、国内に潜入してボクと勇者様のトコにきたんデス……自由にする代わりに魔王のいる世界へ連れて行けって」

「そういうことじゃったか……」

「魔人の呪いは協力デスからね〜、逆らうことも出来ず送ったわけデス」


 手引きじゃなくて脅迫かよ……

 というか、こいつらが警戒する呪いを受けた俺って一体……


「まぁいいでしょう。そこのアホは魔人探しに使うとして、貴方は来るべき魔人戦に備えて彼の育成をお願いします」


 銀髪が灰髪を見据える。

 言葉なのか指示なのか、気に食わない様子の灰髪の魔女は目を細めた。


「今回は被害者デスよ。ボクが協力する理由なんて……」

「そうでしたね。次期魔法使い筆頭とも言われる貴方でも、無知な人間への教育は荷が重すぎました。今日は聖女に──」

「聞き捨てならないデスね! ボクにかかればこんなへなちょこでも一人前にできマス!」


 あれ、こいつ意外とちょろいのでは?

 目配せしてみると、銀髪の魔女は静かに微笑んだのだった。



 ◇ ◇ ◇



「やめろ、魔人を探すのはお前らだけでいいだろ! 呪い受けたらどうすんだよ⁉」

「勇者としての加護があるでしょう、せいぜい盾になりなさい」

「それでも痛ぇモノは痛ぇだろ!」

「勇者が情けないのぉ」

「ほら、行きますよ勇者様」

「じゃあまた! 聖女様、あとよろしくお願いします!」


 銀髪の魔女を先頭に、魔王と勇者と金髪姉妹は今日も今日とて魔人探し。意外と近くにいそうなものだが、ずいぶん捜索に苦戦しているようだ。



 そんなやり取りをしていたパチンコ店前での茶番は終わり、現在。



「大事なのは心を込めて、そして魔力を込めて打つことなんですぅ」

「奇声あげて打ってる奴に言われてもなぁ」


 本日は気分を変えてスロットに座った。

 というのも橙髪の聖女が目をキラッキラさせてスロット台を見てるもんだから、しゃーない。


「あの、真面目に打ってくれまセン?」


 心を込めて、レバーを一打。

 回るリールと、止めるために左からボタンをトン、トン、トン。左の聖女も、右の灰髪の魔女も同じようにレバーを一打。


 意外な事に灰髪の魔女も手慣れた動きでスロットを打っている。


 今日のスロットはお馴染み『ハナ』の台である。

 以前聖女と打った沖のドキドキするもの……ではない。いわゆるノーマル台だ。基本はレバーを叩いていればそのうち当たる。

 俺あんまり打たないんだけどな。何が聖女を惹き付けるのか……


「お花が光るのは素敵ですぅ――ビッグビッグゥッ!」


 突如光り出したハイビスカスに、聖女は恍惚の表情で奇声をあげながら『7』を揃える。当初のおっとりとしたあの修道女はどこへやら。 


「はぁ……なーんかキャラの違う人もいますシ、ボクを陥れた奴は女になってマスし……」

「原因の一人がめんどうそうにすんなよ。こちとら真の被害者だぞ? こうやって魔力の修行をしてるっつうのに……」


 別れる前、銀髪の魔女に言われた通りレバーとボタンへの動きに念を込めながら打ち込む。


「修行デスか……まぁ確かに、魔力増強の修行にはいいですケド……ボクならもっと簡単に当たるようにしマスよ」

「おい、それまたインチキじゃねーだろーな」

「まさか。運気を吸わなくても当たりくらい簡単に取れマスよ……魔女様もどうしてやらないのか理解に苦しみマス……」


 スッと、灰髪の魔女は袖から杖を取り出しす。


「命運は我が手に、捧げるは我が力の源。

 望んだ全てを我に与えよ――!


 『定めは手中にありハンド・オブ・デスティニー』!!」


 短い詠唱に合わせて、軽く一振り。奴の台へ向かって光が揺蕩う。


「あ、修行デスからあなたのも」


 ついでと言わんばかりに杖の先端は俺の台にも振るわれ、謎の光が台を包み込んだ。


「どうせ魔力を使うなら、一打に魔力の全てを使えばいいのデス」


 ぞわりと……悪寒が走る。

 俺の寒気に気づいたのか、ニィ、と灰髪の魔女は笑い瞳を閉ざす。ゆっくりと空いた左手に魔力を込めて握り締め、光る拳でレバーを叩く。




 ――そして、ハイビスカスに光は灯った。

 


 それは……初めて銀髪の魔女と会った時に目撃した、

 『当てる魔法』だった。



 ◇


 参考機種:『ハナハナ』シリーズ

 いいよね、ハナハナ。レバーオンに気合を入れましょう。

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