Round 19 魔人戦②(前編)魔人によるスロット攻略法1『静止する世界』(期待度☆)



 目押し、それは技術介入――――


 特定の子役を狙って止めること。実行することでコイン持ちが良くなる、ボーナス中の獲得枚数が多くなるなど……


 スロッカスを目指すなら持っておきたい技能スキルである。

 昨今は目押しのいらない、あるいは目押し要素の少ない台もある中で俺は敢えて目押しの必要な台は打っていなかった。


 なぜなら、苦手だから──

 特に理由はない。苦手なもんは苦手なんだ。



 ◇ ◇ ◇



 スロットの島へ赴くと、すでに異世界のパーティが着席して打ちはじめようとしていた。こちらに気づいたのは魔王のみ……というか、敢えてこっちを見てないような。


「ぬぉ、兄弟子達は今日スロットなのか?」

「お前らなぁ……配信の様子くらい見とけよ」


 それはバラエティコーナーに2台設置されている、今日の対戦台。DJなどがモチーフのアレディス◯アップだ。

 ボーナス+ART型の台で、ビッグボーナスは主に3種。赤、青、黒があり、ボーナス中に特殊な図柄をズレなく目押しする――『ビタ押し』をすることでARTのゲーム数を獲得するという内容だ。


 要は寸分の違いなくリールを止める『ビタ押し』のスキルがあるかないかで面白さ、そして獲得出玉に段違いの差が出るのである。


 動画配信者に触発されて何度か実践したことはあるが、散々な結果だったのは記憶している。結局高速出玉系のパチンコ台に慣れてしまい、以降触れることはなかったのだが……


「可能なら同色のビッグボーナスを当ててもらい、その時の目押しチャレンジ…………ビタ押し成功率で競ってもらいましょう」

技能スキルの勝負か、面白い」


 早々と着席したムラサキちゃん。時間を惜しむようにレバーを叩いた。店内の喧騒に紛れて、魔女へ耳打ち。


「おい、俺が目押し苦手なこと知ってるだろ」

「降って湧いたような弟子の設定など知りません」


 隣で煽ってたのはおめーじゃねーか!



『おや、私の弟子ともあろう人間がビタ押し失敗ですか? 期待値が泣いていますよ』


 

 いつの日だったか……隣で完璧にビタ押しを成功しながら煽られたのは脳内に刻み込まれている。


「修行中に聖女たちともう1度触ったでしょう? 魔人も経験数は変わらないはずですよ。それに……魔法があるではないですか」

「た、確かに……」


 一応スロット用の魔法も考えはしたからな……よし、大丈夫だろ。


「完璧に出来ては配信も面白くないですからね。2連勝などもってのほか」

「んぁ? なんか言ったか?」

「いえ、何も。私は魔人のカメラを管理するのでもう1人呼んできます」


 なーんか言われた気がするんだが、まぁいい。 

 数10ゲーム先を行く魔人の隣に座り、いざ万券を捧げる。打ち始めてすぐ、俺のカメラ役として橙髪の聖女が魔女に連れられてきた。


「うぅ……じゃんけん負けましたぁ」

「運がなかったってことで諦めろ」

「ふっ、そんな呑気に構えていていいのかな?」

「お前もそんなにスロット触ってねぇだろ……」

「確かに詳しくは知らないな。だが説明書を読めば大体分かった」

 

 魔人こいつもこいつでスペックが無駄に高い気がする。その使い道がスロットになるとは誰も思うまい。


「む? 来たか」


 『当てる魔法』とやらは使っていないが、魔人の台左の画面には「777」の表示。目まぐるしく回転するリールを、魔人はスライドさせるようにボタンを打ち、止める。全色赤色の「7」がリール中央に揃う。


 こいつ……見えているのか?


「先に目押しチャレンジをするのは魔人のようですね」

「魔族ならこの程度造作もない」


 ドゥドゥドゥドゥン――――♪


 特徴的な効果音がビタ押しの合図。

 リール配列の細かい説明は省くが、中央のリールが枠内で上から「リプレイ、ベル、ベル」そして枠下に「青7」をビタ押しする必要がある。イメージとして、


   リプレイ

 左  ベル  右

    ベル

    青7

 

 「青7」を画面枠に留めるのではなく、画面下に止める必要があるのだ。いわゆる、『青7枠下ビタ押し』というもの。これができるとボーナス後のARTゲーム数が上乗せされるのだから、止めない手はない。ないが……


 回転するリールを眺めつつ、魔人が中リールのボタンを一押し。

 見事にビタ押しはハズれ、全く異なる図柄が止まる。


 〇遅い!

 〇初心者ならこんなもん

 〇勝負になるのかこれ?

 〇見えてないねぇ~


 視聴者も若干厳しめのご意見。ボーナスも引いてないのにこっちまでプレッシャーがかかる。魔王に渡されたのか、スマホに流れる視聴者のコメントを見て、魔人は笑う。


 ドゥドゥドゥドゥン――――♪

 再び鳴らされたビタ押しの合図、魔人は臆することなく魔力を台に向けて解き放つ。


「目押しが遅いなど大した問題ではない。止めればいいのなら、――『静止する世界タイムスタグネイト!』」


 魔法の名を高らかに叫ぶ魔人。

 一瞬、瞬間、刹那の時間、が起きた。なぜそう思うのか?

 それは、魔人がボタンを押す挙動をしていないのにも関わらず、中リールのビタ押しが成功して止まっていた。


「成功してますぅ⁉」

「これはまた…………実用的な魔法を」


 魔女と聖女が驚くあたり、既に魔法は発動している。

 ……なんだ、なんなんだこの魔法は。


「成功だ……ハハ、ハッハハハハハ! ビタ押しのさえ止めれば造作もないことだ!」


 

 ◇ ◇ ◇



 参考機種:『ディスクアップ』シリーズ

 「ビタ押し」、動画で見ると簡単そうに見えるんですけどね……難しいです。


 

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