Round 9 遊タイム直前はよく当たる


「ぐぬぬぬぬ……!」


 金髪の魔女の台は、その次も360回転ほどで当たり一発勝負を外した。


 再び1回転目に戻る台を見つめる魔女は、今にも台パンしそうな目つきである。


「おっかしーでしょ⁈ さっきまでうんともすんとも言わなかったのにあっさり当たるなんて!」


 そういうもんだ。

 パチンコとはそういうもんなのだ。

 不思議なことに当たる時は一瞬、そして確変には入らないのだ。


「これは何か大きな陰謀が働いてるわね! 断固抗議すべきよ!」


 わぁお、こんなテンプレ発言が飛ぶとは……見事なパチンカス思想の誕生である。


「ふっつーに当たってふっつーに外れただけだろ……」

「だ、だってこれじゃあたしの魔法っ!」


 あー、そういえば魔法使ってたね。ジャッジなんとか……


「もういいでしょう。2回もハマっている時点であなたの負けです」


 ずうっと静かに俺たちの端で同機種を打ち込んでいた銀髪の魔女が背中を大きく後ろへ傾けた。


「でもぉ〜」

「貴方の見せたかった魔法はこれでしょう?」


 微笑しつつ銀髪は杖を振る。

 どうやらすでに右打ちに突入しているようだ。


「魔女の攻略法『女神は右から振り返るライト・オブ・ブレッシング』」


 フェイスオブゼロォ──!

 …………普通に当てたな。


「この魔法の真骨頂はここからです」


 魔法のネタバレの前に。

 この機種は右打ちの1.81分の1を2回抽選し、その内1回当たればループする。そして出玉の振り分けが300個と1000個がちょうど1:1。左打ちにも1000個はあるがわずか1%。


 この後何が起きたかと言うと、1000個の大当たりが連続10回続いたよって話。どうやら振り分けが均等の機種なら全部出玉の多い方へ偏る魔法らしい。


 ちなみに確率は操作できないため、銀髪の魔女のヒキが単純に強かった。



 うん、オカルト!




「まったく……逸って術を行使するから素人にも遅れをとるのです」

「もしかしなくても素人って俺?」


 弟子って設定忘れてんぞ。

 

「うわ〜ん! お小遣い全部なくなっちゃった〜!」


 やはりガキか……しかし全ツッパとは、素質に溢れすぎだろ。なに、魔女ってみんなパチンカスの才能あんの?


「わかったらさっさと元の世界へ帰るのですね。弟子に勝てず店の養分になる者など論外です」


 ビシィッ! と指を差す銀髪。


「わーん、お姉ちゃんにいいつけてやりますー!」


 空になった上皿。金髪の魔女は泣きべそをかきながら店を後にした。


 ……お姉ちゃん?


「ふぅ……面目は保てましたね」

「なぁにが魔法だよ、ヒキ次第の運まかせじゃねぇか」

「現にそのヒキの強さで魔法を駆使したわけですが?」


 わざわざ白い二の腕を見せて叩いてポーズ。持ってますよと言わんばかり。

 ぐぬぅ……事実だから反論できねぇ。


「魔法でも効果と使用するタイミングを考えなければ彼女と同じように損をするだけです」


 ごもっともすぎて特に言うことがない。


「はぁ……まだ年端もいかない乙女が賭場に来るべきでは……」

「やっぱりあいつみせいね――むぐぅ!」


 禁句に等しい言葉を吐こうとしたところ、魔女の杖の一振りで口を閉ざされた。


「いいですか? 私達は彼女の年齢など知りませんし、あの子自身何歳かなど言っていません。OK?」

「お……おーけー」


 ※パチンコは18歳になってから!

  高校生は入っちゃダメだぞ!

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