第75話   発明なんて、む~りぃ~

 使いかけのハムの保存に困っていたところ、百円ショップでいい物を見つけた。開封されたパックの四辺を細く四角い枠でぴったりと挟んで、封をして保存する優れものだ。これでラップで包んだり保存袋に入れたりしていた手間が不要になった。誰が考えたのかこんな簡単なことなのに、と感心しきりの私である。こんなものがあるのか、とほんの小さなお悩み解消グッズの数々を眺めながら、もう三十年以上も昔の我が家の団欒の時を思い出している。



 ぶら下がり健康棒(名前?)が発明されて、テレビショッピングで紹介されるや爆発的に売れ大ブームとなった。これが町の一発明家によるものだったのだから、我も我もと色んな人が発明に興味を示したことだろう。それに触発された訳でもないが、我が家でも何か発明をして一攫千金を夢見たことがあった。一攫千金は夢のまた夢であることは重々承知だが、夫と娘と三人であれこれ考えて楽しんだことは、お金に替えられない思い出となった。


 夫のアイデアは慰安旅行などで、泊まった宿屋の布団を見て思いついたそうだ。団体客の沢山の布団を敷く従業員さん達の、労力改善の為になると大きく出たが、これがまるで漫画チックであった。アホだの間抜けだのと罵りながら、三人で大笑いが止まらなかった。余りの酷さに他所には笑い話としてでさえ話せず、内輪だけで留め置いた程のバカバカしさである。何しろボーリングのピンを揃えて並べる機械のような発想で、掛け敷き両布団がそのまま寝られるようにセットされていて、それが天井の収納部分からサーッと降りて来て、畳にパパパッと並べられるというものである。


 仕事柄書いている設計図のようなものまで見せる、自信たっぷりのアイデアである。「バカだぁ、頭おかしいんじゃない。そんなのよくもまぁ考えるよ、さすが噺家のなりそこね」などと散々罵倒して、当の本人も揃ってのばか笑いがやっと収まると、次は娘の番になった。娘は家で飼っていたセキセイインコを、部屋で放し飼いにしても糞の心配をしなくて済むようにと、小鳥用のオムツを作りたいと言った。当時オムツと言えば赤ちゃんか介護や病人の為のものとしか頭になかった夫と私は、今度は娘に向かって「鳥用のオムツだってか? 鳥がどうやってオムツするのか? ヘッ見てみたいもんだぜケヘヘ・ワッハッハ・・」である。しかし娘は頑として良いアイデアだと信じて訴えたが、当然のように却下である。(娘はそれからもずっと思い続けていたが)


 さて、夫も娘も大笑いされて終わりになり私の番になった。当時はまだ若かった私であったが、それでも押し入れの下段に布団をしまうのに、腰をかがめるのが少々辛く面倒であった。そこで押し入れの面積を測り、それに見合う台車のようなものを作って、その上に畳んだ布団を載せて下段にスゥッと押し入れるのである。これ即ち「押し入れ用布団押入れ機」であるがどうだろう、と説明した直後、自分が散々笑われた腹いせからか二人の笑いは倍返し!ときた。かくして我が家から発明家誕生は成らずで、出来たのは馬鹿げた笑い話のネタであった。



 ところが、ところがである。あれからずいぶん時が過ぎて、今では小鳥のオムツが商品として売れているのだから、驚くやら娘に嘆かれるやらである。そしてどうやら私が提案した押入れ機?の発想と同じくする便利な物が、ある住宅会社で開発されて、布団が楽に収納されるようにと備えられている建売住宅があると知った。娘も私もちょっと残念に思ったが、発案だけでなく実際に作り試行錯誤して、初めて商品が成るのであるから思うだけでは仕方ない。我がF製作所には多くの機械があり、夫もそれなりの職人としての技と経験があるし仕事仲間も大勢いる。物作りしたい人にはうってつけの環境であったのに勿体ないことだった。



 さて、ぶら下がり健康棒が町の発明家からのものであるならば、これも町の発明家の大きな発明品だと誇りたいものがある。パッかーン!と缶切りなしで缶詰の蓋を開けられるあの技術のことであるが、ただ蓋が開けられるというだけでなく、開けた蓋の切り口が滑らかで、触っても切れる心配がないというところがミソなのである。


 この技術はアメリカの大学で研究されていていても出来なかったことが、地域の町工場の社長がやってのけたというから誇らしい。この誇らしいには訳があって、この社長Tさんは夫や義父の知り合いであり、町工場の仲間であるのだからなおのことだ。Tさんの息子と仲良しな夫は、特許で莫大なお金が手に入っただろう、などと下世話なことを言うとT息子さんは、父親はそれで得たお金でまた次の発明の研究に没頭するからなぁと苦笑したという。(Tさんは六十以上も発明品がある)



 今回はちょっとしたアイデアが、皆の便利につながる発明品を生み出し、例えどんなにバカバカしくて大笑いされるようアイデアだとしても、いつまでも忘れられない楽しかった思い出を生み出した、というお粗末なエピソードであった。だがこのアホらしいと思われたエッセイから「瓢箪から駒」という諺を思い出して、発明に没頭する人が現れもしかしたら、快適な暮らしの一助となるものを発明してくれるかも知れない、と思うローバなのである。


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