第11話   3つの更新

 先日マンションの賃貸契約の更新が済んだ。今回も無事に出来てほっとしている。毎回この日は寿限無の一部にある「食う寝るところに住むところ」、これが重要なことであるなあ、としみじみ思わせられる一日となる。


 35年以上も前、夫が年不相応と思われる程の家を建てた時、このような思いをするなどとは夢にも思わなかった。子供達に其々個室を与えてもなお幾つもの部屋が空いているという、我が家にとっては本当に贅沢な住まいだったが、20年住んだ頃、不景気から経営難に陥り借入れ返済に充てられ手放す羽目になった。



 それからはリホームして移り住もうとした工場も、更には夫の実家もと、次々と返済の為に消えて行き、とうとう重要である「寝るところに住むところ」が一つも無くなってしまった。そこで急きょ住まい探しをし、マンション住まいが始まった。


 同居した義母の認知症が進んだり、子連れの娘が出戻って来たリと、狭いマンションはドラマチックな「寝るところに住むところ」となった。この住まいは、住めば都とはよく言ったもので、失くしてしまった諸々の「ゆとり」を嘆くことなく更に私を、これもまた良しかと言える人間へと育ててくれた。



 

更新と言えば、私には「寿命の更新」というものがある。寿命の更新って何? と誰もがそう思うことでしょう。これは私のお呪いである。日本の平均寿命は男性で81、女性は87才だそうで、随分と長生きできる世の中になったものだ。


 私の子供の頃は60才代のお葬式が結構あって、たまに80才を超えた人のお葬式に行けば、貰って来た葬式饅頭を、長生きにあやかりたいものと願いながら分け合って食べたものだった。


 思えば私の三人の兄姉達は、何と早くに亡くなったものだろうか。長姉は誤診によって27才で亡くなった。特養ホームで働く長兄は、入所者さんの寿命の最後まで寄り添いお見送りする仕事をしていながら、その皆さんよりもずっと若い63才で亡くなったし、次兄も仕事中に心筋梗塞で54才で亡くなった。


 残った次女と三女の姉達は80才を超え、私も74才でみな健在でいる。早く逝った兄姉達の分の寿命を、我ら三人が分けて貰ったような気でいる私は、いつも有り難いことと感謝している。私の寿命への可笑しなこだわりは、この先に逝った三人の、特に姉の余りにも早い死からきていると思う。


 重篤だった長姉の病気は誤診に早く気づくことが出来れば、投薬でまるで手のひらを返したように回復できたのだと聞かされ、無念でならなかった。夫の義理の叔母がよく言っていたことがある。「人間は病気では死なない、寿命で死ぬんだよ。」と。


 本当にそうなのかも知れない。三人の早過ぎる死は寿命なのだと思うから、私は神仏にお願いをしている。密かなお呪いのように、心の中で祈りお願いをする。「次の更新までどうかお守りください」と。


 60才の時お呪いのように5年ごと更新日を決め、先ずは65才まで元気で生きていられますように。そして65才になると古希まではとなり、目標の70才が過ぎると、それからは年の数は小刻みになり、お呪いの「寿命の更新日」のような誕生日を迎える。


 70才、73才、そして75才と勝手に決めた更新日だったが、もうすぐ75才の更新日がやってくる。無事に迎えられそうで有り難いと感謝している。我ながらばかげたことを考えるものだと呆れるけれども、この更新日は77才、80才と刻んだ日に向けて、心身ともに健康に気を付けてその日を迎えようとする目標にもなる。


 あって当たり前と思っていた「寝る所に住むところ」や、寿限無の「五劫の擦り切れ」の命だって完全に保証される訳はない。だから私にはその2つの更新がとても大切なものなのだ。



 3つ目の更新は投稿サイト。いつまで続けられるのだろうかと気にかかっている。思いがけずに夢が叶って、読んでもらえることになった物語。小説もどきが1篇と数編の童話が更新された。残りは童話があと2編である。

 

 それで終わりのつもりでいたが、読んで貰えないと思っていたものが、僅かながらも読んで頂けると変な欲が出て、まだまだここでの繋がりを失くしたくないという感情が湧いてきている。


では新しく作品をと思っても、何もアイデアが浮かばないから難しい。すると娘からいずれ行く異世界での物語を書いたらどうかと勧められた。そうか私の行く次の世界は異世界なのか。

このローバの行く末は・・ モチーフは?? アイデアは?と頬づえをついてぼんやり考えてみる。 


 「古井戸や ローバ飛び込み 異世界へ」 「着いた先 『冥途喫茶』で バイトする」 「燃え燃えキュン ローソクの火に 指ハート」 「怪な世界 ブスローバにさえ ファンクラブ」 「アイドルに 疲れ古巣に 戻りたし」 「アイドルの センター転落 元の世に」 こんなモチーフで繋ぐ物語は如何かな? 


 お~っと、コラコラッ! 何がモチーフだ、何がアイデアだ。 あ~、何とくだらない、何と罰当たりな! 「寿命の更新」を切に願う者がこんなふざけたことを言っててよいものか。 ということで、しっかり反省し止めることにした。



 私には新しい作品は無理と決定。でも皆さんと繋がっていたいので「ローバの充日」を何とか頑張って、3つの更新がいつまでも続きますように!と深く思った一日でありました。


 

 ***五劫の擦り切れ=下界に降りた天女が水浴びする際、羽衣がその泉の岩の表面に触れ岩が擦り減る。その繰り返しで岩が無くなってしまうまでが一劫、五劫はそれが五回。だから永久に近い位長い長い時間ということ。 


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